マカラーニャ湖底
「……すごいね、此処。マカラーニャ湖の底ってこんな風になってたんだね」
湖底に落ちたけど、全員無事だった。ティーダとユウナが気を失っちゃってるけど、全員怪我もなく。上を仰ぎ見る。
「随分高いね……あ」
ティーダが目を覚ましたみたい。
「アーロン!」
ティーダは、目を覚ましていの一番にアーロンに話しかけに来た。
「さて……どうしたものかな」
「あんたさあ……取り敢えずやってから考えるって感じだよな」
はは……そうだね意外と。ティーダの言葉に隣のアーロンの顔を見上げる。
「いいトシなんだし、みんな頼りにしてるんだしさぁ……」
あら。頼りにしてるのはティーダでしょ?少し笑ってしまった。
「何笑ってんッスか茉凛〜」
「あ、ううん?ごめんごめん」
続けて続けて?と仕草だけで言う。
「……説教か?」
「そういうわけじゃないッス、感想ッス」
感想。
「茉凛〜何また笑ってんッスか〜」
「ごめんごめん」
でも、なんだか不思議だった。湖底に落ちてから、不思議と心が落ち着いて。さっきまで命の危機にあって、今は危機に変わりないけど、今すぐ命を狙われてるという訳じゃないからかな?側に居るルールーの隣に行く。
「ここからどうやって出る?」
「そうね……よじ登るしかないかもしれないわね……」
ルールーと上を仰ぐ。
「どうやって登ろう……?」
「……」
そして二人で乾いた笑いを上げ、ため息をつくのだった。
「……」
ふと、ルー姉の背丈で来る水の高さと、私の背丈で来る水の高さに、目が行った。
「私……小っさ」
「何が?」
優しく尋ねられる。
「ルールーは、お腹あたりじゃん水の高さ。私……私、胸……!」
「茉凛は16歳でしょ?まだまだ育ち盛りじゃない。ユウナの身長を越したりしてね」
「ルー姉〜……!」
やさし〜大好き〜!と抱き着くと、優しく頭をなでなでしてくれた。
「ユウナが目を覚ましたッス!」
ティーダが呼びに来てくれて、ルールーとユウナが寝ている平の岩の元まで行った。
「シーモア老師に、ジスカル様のことを聞こうと思ったの。そして、きちんと寺院の捌きを受けてもらいたかった……」
「結婚は、その引き換え?」
「必要なら。そうしようと思った」
「んで、シーモアはなんて言ったんだ?」
「何も答えてもらえなかった……」
「……」
ユウナの声が、今にも泣きそうで。私はユウナの気持ちを思うと、俯いてしまう。
「結局、私のやったことって、なんだったんだろうな。もし最初から皆に相談していたら……」
「もういい」
声を荒げるように静止させるアーロン。
「しなかったことの話など時間の無駄だ」
「そんな言い方しなくてもいいのに!」
直ぐにリュックが咎めた。
「ユウナの後悔を聞けば満足するのか?」
……そうじゃないよ、アーロン。
「そんな言い方、しなくてもいいのに……」
「決めねばならんのは、今後の身の振り方だ。旅は、続けるんだな?」
「はい」
意思の強さを表すような、返事を返すユウナ。
「でも……寺院の許可が、得られるでしょうか……」
また、捕まえようとしてくるのかなぁ……。
「召喚士を育てるのは、祈り子との接触だ。寺院の許可や、教えではない。お前に覚悟があるなら…………オレは寺院に敵対しても構わんぞ」
「ええっ!?」
アーロンのすごい一言に、皆も同じくらい驚愕の声を上げた。
「アーロンさん!」
ルールーにまで言われちゃった。アーロンには、何か考えがあってのことだろうけど。
「それでも裁きを受けるべきです」
ルールーの言葉にユウナが頷いた。
「ベベルへ行こう。マイカ老師に、事情を説明しよう。それしか、無いと思う」
アーロンはああ言ったけど、ベベルへ出頭、事情を説明する。というのが、一行の総意となった。
「アーロンさん……一緒に、着いて来てくれますか……?」
ユウナの不安げな声。
「……事を荒立てたのはオレだからな……」
私は、アーロンの言葉にうれしくなって、微笑を浮かべる。
「そうそう!たいていアーロンが話をややこしくするんだよな!」
「だよねえ。キマリがガーって吼えて、おっちゃんが突っ走ってさ!」
これこれティーダにリュック……
「着いて来いと言った覚えは無い」
「行くよね、勿論」
「そうそう!仲間が行ったら、放っとけるかっつうの!」
「ありがとう、ティーダ」
「は……?」
すると、リュックがえへ、えへ、と浮かれ始めた。
「仲間。かあ……へへ……」
「ったくこの非常時に、のんきだなあオイ」
ワッカが言った。皆が和解して、ようやく旅の仲間は結束した。とは言え、どうやって此処から出よう。皆から少し離れ、一人マカラーニャ寺院の底を見上げる。そういえば、スピラに来て誰とも一緒に居ないのは、初めてだなあ……
「祈りの歌、かあ……」
心が落ち着く曲。目を閉じて、祈りの歌に耳を傾ける。
「ずっと休んではいられんな」
後ろから声をかけられて、振り返る。アーロンがそばに来ていた。そういえば、私が1人で居るときに、アーロンから話しかけてくれたこと……確か初めてだよね。なんて思う。
「……穏やかな顔だな」
「わかる……?」
「心が落ち着くのだろう?この歌が」
「うん。不思議……」
「俺もだ」
「アーロンも……?」
不思議が多いスピラだけど。
「茉凛。こちらへ来い」
ちょいちょい、と手招きされる。私は素直に従う。その時、
「え」
地震……?ドキッと嫌な心臓の鳴り方。
「歌が終わったみたいね」
向こうで、ルールーが言ったのが聞こえた。
「きゃ!」
突然、下から突き上げるような揺れ。
「何か居るんじゃねえか!?」
ワッカが叫んだ。何かって?!やだコワイ!
「下だ!」
「 “シン” !?」
「え?!」
ミヘン・セッションで見た “シン” を思い出す。こんなところに?おぞましい、おそろしい “シン” 。
「茉凛!」
「やっ、アーロン……!」
手を伸ばしたけどアーロンの手を掴むより先に、白い光に包まれてしまった。