サヌビア砂漠




揺れてる。一定のリズムで。上下に。

「……?」

ゆっくり浮上する意識と一緒に、うっすらと開かれる目。

「レダラレサマ(目が覚めたか)」

見慣れない姿をした人が数人、私の顔を覗きこんでいる。

「……」

あれ……なにしてたっけ。覚醒しきっていない意識でも状況を把握しようとする自己防衛による潜在意識はあるようで。見えるものが何なのか見極めようと辺りを見回す。

『ワンキンキノ。コフ、ホフハンオキンプミマハミ。トエサヒダヅフゲンソトニダアッセヨフフンガッサ。ミヤ、ローツケツアッセウアナハ(安心しろ。もう、遭難の心配はない。俺たちが偶然通りがかって幸運だったな。今、ホームへ向かってるからな。)』

瞬間、突然体が大きく揺れた。私を抱き直したようだ。

「…………!!」

190cmはあるだろうか?大柄な男に、私は、肩に担ぐような、抱き方をされていた。周りには、見慣れない服装をし、ゴーグルをかけた金髪の人達が数人、ぐるりと私を囲むように皆同じ方角を向いて砂漠を歩いている。私、気を失ってる間にこの人達に見つかって、どこかに連れてかれてるの!?

「お、降ろしてください!」

やだやだやだやだやだ

『フカ、ハンガ?!ゴフキサンガソユゲン!トヒユテ!(うわ、なんだ?!どうしたんだ突然!落ちつけ!)』

そうだ、思い出した!さっき、マカラーニャ湖で『シン』に飛ばされたんだ。アーロンは?皆は?もしかしたら自分の世界に帰ってこれたかもしれないのに、ここはどこ?もしかしたら今度はスピラでもない場所にトリップしたのかもしれない。何この砂の世界!

「あなた達は誰なんですか?私をどこに連れて行くんですか?」
『トヒユテッセ!トヤネムサヌテサミ!トミ!ワザエハミベルエ!(落ちつけって!お前を助けたい!おい!暴れないでくれ!)』
「下ろしてください!言葉が通じないよぉ……!助けてアーロン……!」
『タツトネハミハ……トミ、メツナヘノ(止むを得ないな……おい、眠らせろ)』
『カウルトコカハミベルエ(悪く思わないでくれ)』

急に手首を押えられ、のど元を開けられる。

「いやあっ…なに、離し、」

首筋のちくりとした痛み。注射だ。何の薬を打たれたの?意識が遠のく。眠ったら、意識を手放したら、終わりだ。あっという間に沈む意識のなか、暴れて大男の肩からすべり落ちる私を助けてくれるかのように手を伸ばしてくれたのは、何か必死に訴えている風に見える女性だった。

「ん……」
「気がついた?」

次に目を覚ますと、優しげな笑みを浮かべた女性が、私が上半身を起こすのを手伝ってくれた。辺りを見回す。

「……」

室内。どこかの部屋のようだ。女性は、さきほどの一団と同様、見慣れない服装に、金髪。意識を手放す瞬間私に駆け寄ってきたあの女性のようだった。髪型が同じなのでわかった。今はゴーグルはしてないみたい。

「砂漠では随分怖がらせてしまって謝るわ。でも私たち、砂漠で倒れているあなたを救助したかったの。偶然通りがかって……」
「そう……だったのですか……そうとは知らず、失礼いたしました」

頭を下げる。

「いいえ、あなたの気持ちもわからなくは無いもの。年頃の女の子ですもの、怖くない訳無いわよね」

そう言って女性は優しげな顔をさらにニッコリさせた。

「さ、もう少し休んで?怪我とかは無さそうだから、直ぐに動けるようになるわ。水をくんでくるわね」

そう言って私をベッドに寝かせると、部屋から出て行こうとする女性。

「あ、あの!」
「何かしら?」

女性はニッコリ微笑んで、私の寝るベッドの元まで来てくれた。

「さっきの……その、砂漠で……私を担いでいた男の人の言葉……。ここは、その……」

スピラじゃないのですか?なんて聞けない。違ったら変に思われてしまう。

「ここはビーカネルという島よ」

口をつぐんでしまった私に何かをくみ取ってくれたのか、先に答えてくれた。

「ビーカネル……」

でも知らない……この女性は良い人だけど、ここはスピラではないということなのだろうか。私はもしかして、また違う世界にトリップしてしまったのだろうか……

「大丈夫?顔色が悪くなったわ?どこか痛む?」
「あ、いえ……そういう訳ではないんです。ただ……」

聞いても、いいかな?ここはスピラなのかって。ううん、変なこと聞けない。でも、ティーダのように、『シン』の毒気にやられてってことにしちゃえば……待って、もしまたスピラ以外の世界にトリップしてしまったのだとしたら、実際にこれは、『シン』の毒気にあてられたと言うのかもしれない。困ったなぁどうやって確かめれ……あ、地図?世界地図を見せてもらって、知ってる地名があるか見よう、言葉も通じるし、文字も読めるはずだから。

「ごめんさい。私、公用語は覚えたてで。砂漠で、あなたを安心させるためには公用語でなんと言えばいいかずっと考えてた。こんなこと理由にしたくないけど、リーダーが眠り薬を持ちだして……私止められなくて。アルベド族を嫌いにならないで……?」

ハッとして女性を見た。

「アルベド族……」

今、確かにアルベド族って言った?良かった!リュックはアルベド族だし、アルベド族に偏見はない!それに、ここはスピラなんだ!良かった……ていやいや、私結局元の世界に帰れてないし!

「ふふふ」
「……?」

小さく笑った女性に視線を向ける。

「あなたって不思議。アルベド族だってわかったら、表情が明るくなったわ」

女性の言葉に、意味が分かって笑みがこぼれる。

「当然です」
「え……?」

私はニコッと微笑むと、ベッドから起き上がった。

「申し遅れました。私は茉凛と申します。リュックの、旅の仲間です」
「まあ……!」

女性の表情がぱぁっと輝き、私のベッドのそばまで駆け寄った。

「私はラッカム。リュックの仲間を救えて良かったわ!」
「助けてくれてありがとう。ラッカムさん」

女性はニコッとすると、水をくんでくるわね、と言って部屋を出て行った。

「………」

一人になった部屋で、おとなしく寝ていようと口元まで布団を持ってきて目だけ出しながら、薄暗い部屋の天井を見つめる。アーロンはどこに居るのだろう。皆は、無事なのだろうか。

「………」

チラリと部屋のドアを見やる。ラッカムさん、帰り遅いなぁ。

「……?」

部屋の外が騒がしいみたい。誰かが走ってくる。

「茉凛さん!」

バン、とドアが開いて、血相を変えたラッカムさんが部屋に飛び込んできた。

「緊急事態よ!至急避難して!グアドが……エボンが、襲ってきたわ!!」