ミヘン街道




召喚士ユウナ。ガードのワッカ、ルールー、キマリ、ティーダ、アーロン、そして私茉凛。新顔の私のために、皆さんが律儀にも自己紹介をしてくれたのだった。
そして、出発。

「よーし!行くッス!」

元気なティーダ。年齢は私より1つ上。さっき言ってた。私のこともみんなに話した。やっぱり驚いてた。だけど、ティーダが似たような境遇らしく、以外と受け入れてもらえた。

「みんなー!遅いッス!早く上がってくるッスー!」

真っすぐな階段を駆けあがったティーダが、一番着した頂上で振り向いた。

「茉凛!見るッス!景色いいッスよ!」

スッスッスッスうるさいッスよ〜?
私は階段の最後の一段を登り終え、まだ上って来ていないルールーとユウナたちを振り向く。

「わあ…!ほんとだ!景色いいー!見て見てアーロン!高〜い!」

あと数段で階段を上り終えるアーロンにも見てほしくて、眼下に広がるルカの街を指さす。ルカの向こうには、どこまでも続いていそうな果てしない海が広がっているのが見える。思わずため息が出るほどに、スピラの風景は綺麗だった。

「ね、アーロン!」

景色を振り返りもしないで私の横を通りすぎて、街道を進んで行くアーロン。冷たくない?私がもう一度声をかけると、アーロンは私を見るなり、ふぅ、とため息をついた。

「煙とナントカは高い所に上りたがる……か」
「……!?それって、」

私はアーロンのそばまで駆け寄る。

「私がバカってこと?」

アーロンは、私を見下ろすとフンと鼻で笑った。

「さあな」
「さあなってー!あ!ユウナとルールーまで〜!」

ワッカが私を追い越し際に、私の頭をポンポンと撫でて行った。なによ、みんなして。

「ここはミヘン街道と言うのよ」
「ミヘン街道!ゴーゴー!」
「ゴーゴー!」

ルールーが教えてくれた街道を、先頭きって進む。なぜか隣にティーダも着いてきた。

「待って、2人とも。魔物が居るんだから気をつけ「きゃあー!」

言わんこっちゃない、と額に手を当てて頭をふりふりするのはルールー。それよりお助けくだされー!

「うわあん!またモンスターだよぉ〜!」

スタジアムで目撃したようなモンスター出現に、すぐに私の周りに駆け寄ってくれたユウナご一行の皆さん。ルールーに腕を引っ張られて、私は前線から下がらされた。
ってあれ?ティーダ、そんな綺麗な剣どこから出したの?ティーダは構えると、こちらを振り返った。

「茉凛。モンスターじゃなくて、魔物って言うんッスよ!」

魔物ね。オッケーオッケー。ルールーの影に隠れつつ返事のつもりで頷いて見せる。
魔物の前に、アーロン、ティーダ、ワッカの3人が対峙した。戦闘開始。残りの待機組は少し後ろでバトルを見守る。

「へっ。ニブそうな奴!」
「そのぶんシブとい。お前は手を出すな」
「ナメんなよ。こんなの一撃だっ!」

そう言ったティーダがなぜか振り返り、目があった。

「?」

私が見ていると、ティーダは魔物に向かって走り出し、勢いよく甲羅の魔物に剣を振り降ろした。

「かってー!?」

アーロンの忠告に耳をかさなかったティーダに、ふん、と鼻で笑ったアーロンが、振り返った。

「見ていろ、茉凛」

そう言ったアーロンは、ティーダがまったく歯が立たなかった魔物を一撃で光の虫に変えたのだった。

「すごーい!やっぱり強いんだね、アーロン!」
「ちぇっ。腕自慢かよ」

ティーダが面白くなさそうに呟いていた。行く手を遮った魔物をアーロンが一撃で消したので、ユウナ一行の旅が再開する。

「茉凛」
「なあに、アーロン」
「お前にも、バトルには参加してもらうぞ」
「ファッ!?」

で、ですよね……!いや予想してなかった訳じゃないけど。でもどうすれば?私戦えないよ?
すると、アーロンに同意するように隣でルールーが頷いた。

「次のバトルで、茉凛に腕試ししてもらおうかしら」
「ファッ!?」
「茉凛、動揺しすぎだな」

笑わないでよワッカ。とそこへ。まーたエンカウント。多くない?
現れたのは、犬のような魔物。

「やれ、茉凛」
「むちゃブリすぎ!アドバイスは?」
「心配するな。サポートする」

えええー……不安ながらも、取り敢えず前線に立つ。

「……、」

隣に居るアーロンに助けを求めるように視線を向ける。

「って、きゃああ!」

視界の端で、飛び掛ってくる犬魔物を察知。瞬間、反射的に何かを犬魔物へ投げて撃退したのが自分でも分かった。そして、スゥーっとあの光の虫が舞う。

「へ……?」
「ファングを倒すなんて、すばやいじゃない!茉凛!」
「ルール〜」

むぎゅうぅ。っと、ルールーに抱きしめられた。褒めてもらえたってこと?

「茉凛、とても良い武器だね。飛び道具って言うんでしょ?」

え、ユウナ。今、飛び道具……え?手元に目にやると。

「!?」
「弓矢ね。近距離から遠距離まで対応できわ」

ルールーが頷いた。えー……なぜ弓?弓道部ですらないのに。
何の脈絡もないMy武器の登場に、私は狼狽する。そこへ、新たなお客さん。今度は魔物じゃない。人間の御一行だ。全員、黄色い大きな鳥に乗っている。

「わーおっきい……」

私が思わずつぶやくと、先頭にいた女性が私の言葉に反応して、ニコリと笑顔をくれた。

「召喚士様ご一行ですね?」
「はい。ユウナと申します」

黄色い大きな鳥に乗った一行に、独特な挨拶をするユウナにくぎ付けになる。ああ、スピラって本当に別世界なんだって思い知らされる。

「ジョゼ討伐隊チョコボ騎兵隊所属のルチルです」

私の言葉に反応して笑顔をくれた女性は、ルチルさんというらしい。

「同じくエルマです。街道の警備をまかされております」

ほうほう。して、最後の男の子は?

「このあたりには、」

ちょwwwwwwwwwwwwwwwwwww最後の男の子が口開こうとしてたよ今w自分も自己紹介しようとしてたよwルチル隊長話し始めちゃった……。

「わかりました。ご忠告、感謝します」

あっユウナお礼言ってる。話し終わっちゃったみたい。聞き逃しちゃった。

「では我々は任務がありますのでこれで」
「旅のご無事をお祈りいたします」

チョコボ騎兵隊ご一行は去って行った。結局、あの気の弱そうな男の子、一言も発さないで行っちゃったんだけど。

「……ちーだ君」
「なんスか〜?」

ユウナ一行が再び歩き始めると、隣に居たティーダに声をかけてみた。ていうか、もうちーだ呼びに順応してるんだね。

「チョコボ騎兵隊は、なんて?話聞いてなかった」
「ぷwダメじゃねーッスか茉凛〜ちゃんと話は聞いてないとwよし。この俺が教えてあげるッスよ!今度はちゃーんと聞いておくんスよ?」

どこか偉そうなティーダに、私はちょっとイラっとしたけど我慢してコクコクと頷く。

「ふ〜ん。大型の魔物かあ……」

辺りを思わず見回す。見渡す限り平和そのもの。私たちは運良く出会わなかったりして……。

「ほう。召喚士様ご一行か」

またなんか絡んできた。声のしたほうを見やると、両耳にでかいヘッドホンつけた女の人だった。

「あなたも召喚士ですね?」

あ、そうなんだ。

「ベルゲミーネだ。おまえは?」
「ユウナと申します」

私は黙って後方から成り行きを見守る。

「ああ、噂は聞いている。大召喚士の娘だな?とはいえ見たところ、まだ駆け出しのようだが」
「ええ、まあ……」

え、そうなんだ?それじゃあ私もガード初心者だし、これから一緒に成長できるね?となんかうれしくなる。

「なら 修行に協力してやろうか?」
「え?」
「おまえの召喚獣と私の召喚獣で、ひとつ腕比べといこう。一対一の勝負ということさ。なに、手加減はする。さ、どうする?」

ユウナが振り返った。ガードに意思確認してくれるみたい。私とティーダ以外が頷いていた。見事によそ者だけ頷かなかった。

「やってみます」
「よろしい。遠慮はいらない……来なさい」

とか言ってベルゲミーネさんの召喚獣、瞬殺されてるんですけど…

「そこまで!もう充分だ」

あなたの召喚獣、ボコボコにされちゃったもんね。

「おまえは筋がいい。たゆまず修行をすれば “シン”をやれるかもな」
「はい!でもわたしより先に、あなたが倒してしまいそうですが……」
「……私には無理だ」

今、一瞬不自然に間があったような……?

「いや……無理だった、と言うべきかな」
「じゃあ……」
「ではな、ユウナ。いずれまた会おう」

最後はなんだかそそくさと去ってしまって、少し一方的な人だなと思った。

「もう少しで終点よ」
「やったあ〜」

ユウナ一行が歩き始めて少しして、ルールーが言った。私は心底その一言にホッとした。この街道とても長い。実は、あの後魔物とエンカウントして何度もバトルをしたのだった。

「ふふ。茉凛は初めてのバトルだったものもあるわよね」
「うん〜。ルールー私疲れちゃった〜。近場で休んだりしたいなぁ」

にゃんにゃん。ルールーに甘える。ルールーには甘えたくなる。オトナ〜って感じ。するとその時。

「作戦に勝てば問題ないだろう!!」

男の人の怒声。えっなに?こわい……

「でも…」
「しつこいな!」
「しつこい、ですか……」

え、女性じゃん。男の人に怒声を浴びせられて、シュン、としてしまった。可哀想。どうしちゃったんだろう?私が女性に駆け寄るのと、ユウナが駆け寄るのは同時だった。

「どうかしたんですか?」

巡回僧で、シェリンダという方だった。ルールーよりかは年上そうだけど、それでも若い女性なのに、男性からあんなに怒鳴られて怖かっただろうな。
話を聞いていると、ミヘン街道の道中、忙しなく行き交っていた討伐隊。私たちも幾度となくすれ違った。彼ら討伐隊が、寺院側が揉めている、とのことだった。

「教えに背くので作戦を止めてほしいと話しても、誰も聞いてくれません。きっと……私が未熟だからですね……」

え、未熟とは違うんじゃない?私からは飛躍してるように見えた。私は、シェリンダをかばってあげたいとは思えなくなってしまった。暗いと思ってしまったから。
シェリンダと別れ、ユウナ一行はついに、ミヘン街道の終点に立った。

「あ〜〜着いた〜〜」

長かったなぁ。あ、建物がある。休んで行かないかなぁ。

「ここで休んでいく」

やったぁアーロン良いこと言う♪先頭きって歩くアーロンに着いて歩き始めたけど。ふいに振り返ると、みんな立ち止まってる。てっきりみんな着いてきているんだとばかり思った。

「でもこれ、アルベド人の店っすよ」

アルベド??振り返って、背後の建物を見やる。ん〜……何か問題でも?

「問題でもあるのか?」
「アルベドは教えに従わないし、それにほら、ルカでは……」

ルカで何かあったのかな。あとでルールーに聞いてみようと思った。

「あいつらユウナをさらったんですよ」

え……やだ。そうなの?ワッカが渋るのも当然……か。

「ガードがだらしないからだな」

アーロンが一蹴した。

「アーロンさんは、ワッカさんの体調を気にして……」

ユウナが仲裁した。

「俺は大丈夫だ〜!」

そんなワッカの姿に、なぜか志村けんを思い出した。

「俺が疲れたんだ」

くるりと私たちに背を向け、さっさとアルベド?とやらのホテルに入っていくアーロンわーお。私はみんなを観察した。どうするんだろうって。間もなくみんなは歩き出した。アーロンの後を、アルベドのホテルへ向かって。

「茉凛、ティーダ。ここは旅行公司よ。スピラ中に点在しているの」
「へえー」

アーロンが男女に別れて2部屋取ってくれたあと、客室へと続く店の奥の廊下をルールーと歩く。

「茉凛」
「ん?」

男子部屋の前にいたアーロンに呼び止められた。

「私は部屋で休むわね」
「俺もー」

そう言う二人と部屋の前で別れた。ロビーへと歩き始めるアーロンに合図され、私は大人しく着いて行く。隣に並ぶと、見下ろしてくるアーロンにじっと見つめられる。

「なあに……?」

すると、アーロンは、ふ、と笑った。え?え?なに??

「もうすぐ夕方だ。綺麗な景色を見せてやる」
「夕焼け?」

たしか海があったな、と私はワクワクしてアーロンに着いて行った。