キノコ岩街道




「ねえねえ。敵さん、弱くない?」

弓矢を構え、オーバーキルオンリーでばったばったと魔物をなぎ倒しっぱなしのパーティの現状に、つぶやいたのは私。

「成長しすぎなんだよ〜!その所に合った成長を無視して徒歩で行くから〜余裕あったからチョコボ乗りたかったのによ〜!」
「余裕の何が悪いのよ。オーバーキルで良いじゃない。アンタ達の好きなAPたくさんゲットできるわよ」

もうその辺で許してさしあげて……。ワッカ涙目ですよルー姉様。笑

「みんな通常攻撃でオーバーキルだから1人で1体倒せちゃって、1バトルで全員成長するためのチェンジができるように、合えて攻撃してもらうために私のバ系で凌いでるもんね」

ユウナ説明口調サンクス……でも。

「ユウナぁ〜その能力とても良いよぉ〜全員L1でチェンジ〜等しく成長!その所以上の成長〜!もれなくオーバーキル多めにAPゲット!」
「確かに、キノコ岩前半で私がラ系をすべて覚えてるくらいだから、成長スピードは早目だわ」
「早すぎるわ!!」

ワッカの叫びはスルーして……。余裕も余裕、余裕綽々で難なくキノコ岩街道終点到着。

「キノコ岩街道、ミヘン街道より短くなかったッスか?」

セーブスフィアに触れてHP・MP全回復をはかりながらそんなことを言ってのけるティーダを尻目に、大きな昇降機へ私が足をかけた時だった。

「ルッツさん、ガッタくん……」

ユウナの声に、ユウナの視線の先を見やる。ミヘン街道のわき道で出会った人たちが居た。

「なんで先輩だけですか!俺も前線で戦わせてくださいよ!」

モメてる……。

「上の命令だ。配置に着け」
「先輩……っ!」

ガッタさんは悔しそうにその場を走り去って行ってしまった。残ったルッツさんを、みんな心配そうに遠くから見る。

「通行許可が出たのか」

私たちに気づいて、先に声をかけてきたのはルッツさんだった。

「あぁ……」

ティーダが気まずそうに返事をした。

「ガッタ……可哀想だったな」

そうだよね……でも私は、本人の意思も尊重してあげたい。でも死んじゃうのは良くないけど……。

「戦わずにすんで、運がいいじゃねえか」

腕組みしてワッカが言った。

「だいたい、なんで戦うんだ?主役はアルベド族の機械だろ」

相変わらずのワッカに、ティーダが小突いていた。

「はっきり言ってしまえば、俺たちの戦いは……そう、機械の準備が整うまでの時間稼ぎだな」
「けっ!けーーーーっ!」

ルッツさんの返答に、ワッカ、子どもっぽいリアクションするなあって見てて思った。なんだか見てられないなぁ。ワッカは、どうしてそんなに毛嫌いするのだろう。

「ワッカ……もう、話す機会が無いかもしれないから……」

改めてそんな風に言うルッツさん。一体、何を言い出すんだろう。こういうときのは、良いことじゃない。

「謝っておきたいことがある」
「ルッツだめ!」

突然、ルールーが叫んだ。え。え。何事?

「……なんだよ」

怪訝そうなワッカに、覚悟を決めたように口を開いたルッツさんから出た言葉は。

「おまえの弟を討伐対に誘ったのは、……俺だ」

私は思わず地面に視線を落とした。チャップさんという、ワッカの弟で、ルールーの恋人で、ティーダに似ている、もうこの世には居ない人の話は、ルールーから聞いていたから……

「すまん……」

ルッツさんの声が、空しく響く。瞬間、

「っ」

ワッカがルッツさんを殴り飛ばしていた。

「ワッカ!落ち着け!ワッカ……!」

ワッカを必死に止めるティーダ。私は固まっていた。男の人が感情任せに人を殴る画に、完全に恐怖してすくんでいたのだ。

「……一緒にブリッツやっててよ……大会で1回でも勝ったら……、」

ワッカの声が震える。

「勝ったら、ルーに結婚申し込むってよ、……楽しそうに話してたのによ」

そ……んな……

「ある日突然、討伐隊になる、だもんな……」

なんて悲しいんだろう……。スピラは、死が身近すぎる。近い人の犠牲が多すぎる。

「……好きな女と一緒にいるよりも……そいつの近くに“シン”を近づけないように戦う……そっちの方が、カッコイイかもって……あいつは言ってた」

ルッツさんの言葉に、ルールーもそれを聞いたのは初めてだったのか、俯いていたルールーが弾かれるように顔を上げた。ルールー、恋人からそんなふうに想われてたんだね、良かったねルールー。でも……心が締め付けられる。

「ルー……知ってたのか?」
「……この旅に出る前にね。聞いた……」

私が泣くことではないのだけれど。それでも、悲しくて。苦しくて。涙がこぼれそう。

「はは……ルールーのパンチも効いた」

ルッツさんに一発お見舞いしたい気持ちを抑えろ、というふうが無理だ。みんな、誰かの大切な人なのだ。その人が亡くなったら。原因となった人に矛先は向くだろう。だけど、スピラの現状が……“シン” の存在が、みんなの運命を変えさせた。

「前線に配属された隊員は、すみやかに海岸に集合!」

ルチル隊長の声。一同に緊張が走る。

「……悪い。時間だ」

そう言って立ち去ろうとしたルッツさんを引き止めたのは、ワッカ。

「ルッツ!死ぬんじゃねえぞ!」

そんなワッカに、はじかれるように振り返ったルッツさんは、一瞬微笑んだ。そして

「……なぐり足りないか?」
「ぜんっぜん足りねえ!!」

ああ……なんて。人の繋がりとは。私は、当事者じゃないため一同の最後尾で、目の当たりにした美しい光景に、少しだけ心が救われる気がした。それでもやっぱり本当の意味で温かい気持ちになんてなれない。私はワッカ達ほどルッツさんを知らない。だけど、ワッカやルールーを見てたら。これから始まる作戦は、“シン”と戦うんでしょ?どうか。死なないで……

「!」

本当にもう行こうとしたルッツさんの行く手を塞いだのは、なんとユウナだった。

「ルッツさん……ダメ。行っちゃダメ」
「……ありがとう。ユウナちゃん」

ルッツさんの言葉に、少しだけ泣きそうな顔になるユウナ。

「……通してやれ」

アーロンの予想外な言葉に、思わず斜め前にいるアーロンを見上げる。

「おまえが召喚士の道を進んだ覚悟と……この男の覚悟は同じだ。邪魔はするな」

……どういうこと……?急いでユウナを見ると、ユウナはそれでも動こうとしなかったけど、やがて意を決するように、ルッツさんに道を空けたのだ。
召喚士の覚悟って、なに……?覚悟が、一緒?そりゃ召喚士の旅は、危険がつきものだけどでもガードが一緒だし、死んだりは……え?

「……」

私には、知らされてないことが多すぎるようだ。