天国の住人
初めまして。私は天国に住む元現世の住人、つまり亡者です。死後、天国に来たのですがなにせ天国生き亡者なので、地獄行き亡者のように呵責されたりすることも当然なく。死後を謳歌している日々です。
そして何不自由ない今日も平和な日常で、ついさっきのこと。
「あっ雛花ちゃん、合コン行こうよー!イケメンいるらしいよー!」
街を歩いていると、私と同じく死後天国に来た女の子から電話がかかってきました。
合コン。
そんなことするくらいなら寝ていたい……。私は寝ることがあまり好きじゃありません。起きて趣味に没頭したい派です。私は多趣味。
「私はいいや。ごめんね」
「そう言わず!人数が揃わないんだよぉ」
くっ……今日は食い下がってきますね。
「私は行かないってば〜」
「あと二人ほしいんだ!知り合いにもう一人いない?」
「いないよぉ」
「そこをなんとか!あ、待って今行くー。じゃお願いね!7時に極楽天国で」
「ちょ、勝手に、」
電話が切れてしまいました。
「…………」
私はトボトボと歩き始めます。知り合いって……でもこの際誰でも
「きゃ!」
人にぶつかってしまいました!
反動でよろけ、尻もちをつきかけたところで。
「……!」
「失礼しました」
抱きとめられていました。目を上げると。
「………」
「………」
しばしお互いを見つめ合ってしまいました。
相手は鬼でした。額の生え際に中央に、1本の角がありました。黒い着流しが妙に似合っていて体もすっごく大きい……イケてる。
てか天国に鬼?
「あ、すみませんでした。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
鬼さんは私を立たせてくれると、そっと手を離されました。そして私に一礼すると、鬼さんは背を向け歩き始めました。
「あの!」
「はい?」
くるりと振り向き私を見つめる鬼さん。……やば。つい引き留めちゃいました。
「あ……あの。初対面で恐縮ですが」
この鬼さんに合コンの参加をお願いしました。
そしてその夜の7時。
「えっ……雛花ちゃん、その人って」
「一人連れて来たよ?」
「いや……しかも男じゃん……まいっか。イケてるし!」
やる気ない私は隅の席に座ります。お酒を飲んで時間がすぎるのを待つだけです。とても無駄な時間です……。
まずカルーアミルク。次にハイボール。ベリーモヒート。ハイボール。そして芋焼酎お湯割り。
「ていうか!席替えしようよ〜」
「えーまじで」
みんなが立ち上がる中、私は気配を消して黙々と飲み続けます。あ、シャンパンがなくなりそうです。
「雛花ちゃんだよね?そんな端っこで黙って座ってないで、話そうよ!」
そう言ってテーブルの中央から移動してきたのは、まさかの一番イヤなタイプ。
この人はさっきから自分の話をしているだけなのです。私が返事もしてないのにひたすら自分語りをしてきます。
まあ、楽っちゃ楽ですけど。
「ふあ、」
慌てて口元に手を。やば。退屈すぎて、つい。
「あっ雛花ちゃんもっと飲みなー!まだ寝るには早いよ!次は何飲む?イチゴカルーアにする?」
何を勝手言うのですか……。
「ていうかさ。ちょっと出ない?二人で抜け出しちゃおうよ」
私にしか聞こえない音量でコソリと言って、私の腰に手を。……この男、
「……!」
私の手が出るより先に。
「雛花さんが酔ったようなので先帰りますね」
男と私の間に割って入った鬼さんに、私は立ち上がらされました。男の手が私の腰から離れます。(グッジョブ鬼さん)
「あっおい……!」
「雛花ちゃんまたね〜」
後ろからの声に振り向きもせず。鬼さんは、私の手を引いて店を出るのでした。
「すみません。ありがとうございます」
手を離され、街を歩き始めます。鬼さん、見てたんでしょうね。私がキレる前に止めてもらえて助かりました。
……嫌なら合コン来るな?いや、断りましたよね私?だから嫌なんです合コンって。
「いえ、私もそろそろ帰ろうと思っていたので」
ふふふ……優しいんですね。
「でも本当に今日はありがとうございました。初対面だったのにあんなお願い聞いてくださって。困っていたので助かりました……いろいろ」
初めて会ったけど、いい人だったなあ。
「別に良いですよ。お礼に私の補佐として閻魔庁で働いていただければ」
「……へ?」
空耳ですかね。今すごい交換条件が聞こえたような。
「初対面相手に合コンに参加させたのが悪いと思うならば、お礼に閻魔大王第一補佐官である私の、補佐になってください」
閻魔庁……補佐?
「って……鬼神・鬼灯さん!?」
「今さら気が付いたのですか。あなたのご友人も、すぐに気がついていましたよね?私を一目見て」
ヒィッ!!めっちゃ顔こわい!
「それに、鬼灯≪様≫です。補佐官の補佐らしくなさい。みなに示しが付かないでしょう」
やれやれと首をふられた。いえあの。私承諾してませんけど。
ちなみに。私のような天国の住人は、地獄とは一切関わりがありません。まして、元人間です。
地獄のNo.2だろうと、鬼神だろうと。≪様≫呼びする理由なんてないのです。
「さあ。そちらの提案を先に飲んだんです。そちらも、こちらの提案を飲んでください」
詐欺だ!!
「普通面接時間は数十分のところを、あなたは私がこの数時間ばっちり適正を見させていただきました。お酒も強い。即採用です」カッ
そこなの!?お酒が強いのが決めて!?
「明日から出勤です」
「話がどんどん進んでる!」
「おや。不満でしたら私が家まで迎えに行きます。あなたは天国の住人ですからね」
「不満なのはそこじゃないです!」
「分かりました。では私の部屋の一角を。……光栄に思え」
「なんかキャラ変した!?」
いい人だと思ったの前言撤回します!