守りたくてキス


刀剣男士たちが出陣する時に、いつもかけている言葉がある。

「御武運を」

全員無事に帰還できるように、願いを込めて。
みんなの強さを信じてるけど、出陣先ではどんな想定外があるかも分からない。
たとえ気休めにすぎなくても、私は非戦闘員の審神者であり見送る側だから。

みんなも私が不安にさせないようにしてくれているのか、笑顔で「行ってくる」と元気に出陣して行く。

それなのに。出陣していた近侍が怪我をしたと報せが入って執務室を飛び出した。

なんで近侍が?まさか刀装が溶けた?

理由なんていい。とにかく無事を確かめたい。この廊下を左に曲がれば手入れ部屋。

「山姥切!」

部屋の障子を開けた瞬間、一斉にみんなが振り返った。一番隊のみんなが集まっている中心にいるのが、布団をかけられた山姥切の胸の辺りがかろうじて見える。

「山姥切…」

顔を見て安心したい。ふらふらとした足取りで近付くと、みんなが道を開けてくれた。

「大丈夫です。傷は思ったより深くなかったようです」

初鍛刀の平野藤四郎が教えてくれた。

山姥切が寝ている布団の横に膝を付く。
寝かされてはいるけど、私を見る山姥切は処置を終えて、頭と胴に包帯が巻かれていた。

「主…」
「山姥切…」

私を見て言葉を発する山姥切の姿に思わず涙ぐみ、山姥切の頬にそっと手を触れる。

「あなたに何かあったらと思って、心配した…」

後ろで「二人にしてあげましょうか」と一期一振の声に、みんなが手入れ部屋から出て行く気配を背中に感じた。

山姥切は布団から片手を出すと、自分の頬に触れている私の手の上に重ねてきた。

「心配かけた」
「ううん…全員連れて帰ってきてくれてありがとう」

そう微笑むと、山姥切は私の頬に流れる涙を親指で拭い、そのまま私の頬を優しく包んだ。

私を見つめる山姥切の目が、まるで恋仲のように熱っぽいのは、私と同じ気持ちなのだろうかと期待したい。怪我をしているからだろうか…

山姥切の心地良い大きな手を私よ頬からそっと離すと、布団の中に入れてあげる。

「ゆっくり休んで」

そう言うと、私に優しく微笑んだ山姥切はすっと目を閉じた。間もなく寝息が聞こえてきた。

「おやすみなさい」

目を閉じている山姥切の髪を優しく一撫でする。そして、いつ見てもピンク色で艶々した綺麗な山姥切の唇に、そっと口付けた。

ゆっくり離すと、目を開けて山姥切を見る。バッチリと目が合った。

「お、起き、て…」
「な、なんっ…あんた…!」

山姥切は今にも立ち上がりそうだった。

「あ、安静にしてなきゃ、」
「安静でいられるか…!あんたのせいだ!」

ぐっと手を引かれ、あっと思った時には起き上がった山姥切の腕の中で唇が塞がれていた。首の後ろを固定されて動けないようにされて。

驚きすぎて硬直する。なのに山姥切の唇がやわらかくて、山姥切にキスされてる。うれしい。なんて考えている間に唇を離される。

「…なに驚いた顔をしている。あんたが始めたことだろう」

そう言いつつ、くしゃ、とマントで顔を隠す照れた山姥切が可愛い。

「だって……」
「、だってじゃない」

またキスをされる。今度は少し余裕のあるキス。少し啄ばむようにされて、長くて、気持ち良くて、とろけそうになる。

「とろけそうだな」
「山姥切…」

山姥切の腕の中でホールドされているため胸板にすがるようになりつつ、布を指先でつまむ。

「……っ、あんたって人は」
「?」
「その上目遣いは、ズルい……っ」

顔を赤らめた山姥切がくしゃ、とマントで顔を隠そうとする。それが可愛くて。

「…なに笑ってる。まだ塞がれたいか?」

そう言うから私から塞いだ。
そして、ぱっ、と唇を離し、いたずらっぽく微笑えんで見せる。

「あんた…、そんなことするなら」

急にハグされた。でも私を抱きしめる山姥切の腕はとても優しくて。

「……山姥切」
「……写しで良いのか?」

山姥切の腕の中で、真っ直ぐに見つめられてそんなことを言われた。

「大好き。まんばちゃん」

照れて私の肩に顔を伏せる山姥切が可愛い。

山姥切、無事に帰ってきてくれてありがとう。いつだって私の元に戻ってね。絶対だよ。