こんな四角関係ありえない


俺はなんだか、最近おかしい。

ちょ、安定そこ変われ。

お菊が安定と一緒にいるのは最初からのはずなのに、そんな気分になる。

思えばお菊は安定が連れてきた娘だし、俺が口出しすることじゃないけど。

最初は、お菊のことが気になる理由を、沖田総司に憧れてる者同士だからだと思っていた。

でも今は分かってる。お菊が好き。

まさか俺がこんな感情を持つなんて。

それによりによって安定と恋敵として争う日が来るなんて夢にも思わなかった。

正直参ったなぁと思う。

安定とは争いたくない。でもお菊への想いは日に日に募っていくばかりだ。

止めることはできないようだ。

「……」

ある時。
俺が厠からの戻りで廊下を歩いていると、お菊と安定が肩を並べて中庭にいた。

二人ともしゃがみ込んで俯いているところを見ると、季節の草花でも見ているのだろう。

「……」

またある時は。
屋内で遊ぶことになったので参加したら、文机をあたたかな日差しが射す縁側のそばまで持ってきて複数並べ、紙と筆で何か文字を書き連ね始めた。

沖田総司の好きなところを挙げていく遊びだった。多く挙げた者が勝ちというルールだった。

「……」

そしてまたある時は。
料理をしようと言うので台所に移動すると、自分の思う沖田総司の好物の献立作りという謎の遊びが始まったのだった。

これは勝負じゃなくて、単に沖田総司論合戦だった。

「……」

そしてまたまたある時は。
畑で野菜を収穫している時、沖田総司ならこういう時なんて言うか妄想した。

より「ぽい」者の勝ちという謎の遊びが始まったのだった。

君たち沖田総司大好きだな。いや俺もだけど。

「お菊はさ」
「ん?」

思い切って聞いてみた。

「一番好きな男って、沖田総司なの?」
「うん」

……即答。
なんとなく負けた気がした。けど沖田総司なら仕方ない。

まあ彼はいないのだから、お菊を取られる心配はないけど。

「……」

そしてまたまたまたある時は。
春に桜の木の下で本丸のみんなと花見をしている時、お菊と安定が互いの髪の毛をいじり始めた。

振ってきた桜の花びらを集めて髪留めのようにして、髪の毛に着けてこじゃれた感じにする遊びだ。

ていうか、花を髪につけるなんて女の子同士じゃないんだから。安定なに一緒に楽しんでるの。

「わー安定、沖田総司っぽい!」
「わ、ほんと〜?ありがとう〜」

これは問題だ。

お菊が好きなのは沖田総司だ。安定が似てるって。俺の入る隙がなくなりかけてない?

これは釘をさしておかないと。

「あのさ、お菊」
「なあに?」

お菊視線が、安定から移り俺に注がれる。

「俺にもしてほしいんだけど」

そう言うと、お菊の大きな目がさらに大きくなった。

「なに驚いてるの?」
「清光もこういうの好きなんだって、意外で」

え、安定は好きでやってたの?

そしてついに俺的に大問題が起こった。いやこの一つ前のも俺的には問題だったけど。

お菊が珍しく一人で屋内にいると思ったら、主に借りたのだろう本を安定に読み聞かせていた。

しかも、膝枕で。

「ちょっとちょっと」

俺はすかさず縁側から部屋に足を踏み入れる。

「清光ちょうど良いところに来たね。今から読み始めるよ。一緒に聞く?」

安定がお菊の柔らかそうな膝から言った。

くっ……。

「一緒にってどうやって?」
「え?」

俺の問いかけに反応したのはお菊。

「お菊の膝に二人で頭を置くの?」
「えっ」

俺の言葉でなぜかお菊は顔を赤らめた。

「わ、私そんなに広い太もも持ってない///」

広い太ももって、広い背中みたいに。てかそこ照れるの?

「俺もお菊の膝枕で読み聞かせしてほしい」

俺は気を取り直すと、お菊をまっすぐ見つめてそう伝えた。

そして安定がやむを得ず避けなければいけないような位置に、狙って座る。

「も〜清光」

安定が不満げな声をあげた。

安定は起き上がると座り直し、円を描くように3人で座る形となった。

「二人でなんてお膝に寝たら、お菊の足が本当に広がっちゃうよ」

え。待って何それこわい。

いやいや……もうこの際はっきり言おう。

「お菊」
「ん?」

お菊はよっぽど本が気になるのか。本に注がれていた視線は俺に移った。

それほどって、一体何を読もうとしてるの?

「お菊。俺は、君が好きだ」
「私も清光が好きだよ」

お菊がにこやかに言った。

違う。そういう意味じゃない。

ていうか分かるでしょ。ああ、その言葉が違うニュアンスだったらと、心の底から思うよ。

「そうじゃない。お菊よく聞いて。恋愛感情として、俺はお菊が好きだ」
「え」

お菊が驚くのは分かるよ。ていうか驚いた顔までカワイイねお菊。

「だから、安定に膝枕とかしてほしくない」
「え」

次は安定がショックそうな声をあげた。

「ああ、言い直すよ。俺以外の男と。親密にしてほしくない」
「「え」」

二人がハモった。
しばし固まる二人が落ち着くまで、数秒待って口を開く。

「お菊。直ぐにとは言わない」

自身を落ち着かせるよう心がけながら、慎重に言葉を選んでお菊に伝える。

「俺のことを好きにさせて見せる。だからチャンスが欲しい」
「清光……」

お菊を困らせてしまったな。
でも困った顔もカワイイねお菊。……じゃなくて。

「というわけで安定。俺たちは強い絆で結ばれているけれどお菊巡るなら。お前とは恋敵だよ」
「……」

お菊から安定に移した視線を、まっすぐに見つめて伝えた。
俺の言葉が進むたび、安定は穏やかな顔からだんだんキュと表情がしまっていくのが分かった。やはり、安定と俺の仲だね。
好きな女性まで同じとは。

「分かったよ。清光」

正座した安定は、拳を自身の膝で握り、姿勢を良くして俺をまっすぐに見てきた。

「清光が、真剣に伝えてくれた。それを受けて俺も、真剣に受け止めるよ」

二人で見つめ合う。
隣でお菊が、しゃべる側を必死に首ごと追ってオロオロしだすのが分かった。
安定が俺からお菊に視線を移した。

「お菊の気持ちが沖田くんから俺に完全に傾くまで待つつもりだったんだけど」

安定はしっかりした表情でお菊を見つめた。

「清光もお菊が好きなら話は別だよ。清光にならいこれからは、俺もお菊を積極的に口説くことにする」
「せ、積極的に、口説く……」
「うん、そういうことだから。覚悟してね、お菊」

お菊は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。