告白は間違いだったか


「お菊。怪我はない?」
「大丈夫」

俺とお菊は森の中にいる。二人きりだ。
時間遡行軍との戦いの中で森深くまで入り込んでしまった。一緒に来た皆とは、はぐれてしまったらしい。

「困ったね。これじゃ方角も分からない」

辺りはすっかり夜となってしまっていた。迎えは夜明けまで期待できないだろう。
俺は休むのに丁度良さそうな大木に寄ると、抜いていた刀を鞘に収める。

「ここで夜明けを待とう」
「……うん」
「………」

お菊が俺を意識しているのが分かる。先日、お菊に告白してからというもの。お菊はずっとよそよそしい。まぁ俺のせいだけど。
俺が腰かけ木の背に寄りかかると、お菊は隣の木の根本に腰を下ろした。これまでならお菊なら間違いなく俺の隣に腰を下ろしたはずなのに。今や俺と目も合わせやしない。

「お菊、先に行水してくる?俺はここに居るから。お菊が戻ったら俺が行ってくるから」
「……うん。お先にさせてもらうね」

ここに来るまでに川を見かけていた。
お菊が歩いて行く後ろ姿を見つめる。ああ、本当に。告白したのは失敗だったか?告白していなければお菊がよそよそしくなったりしなかっただろう。
そう思うと、こんな深い夜の森の中、彼女を一人で行かせるのは心配だ。

「お菊!」

お菊の背中に声をかける。振り返るお菊。俺を振り向くのを躊躇ったのが分かる。

「何かあったら大声で呼んで。すぐに駆け付けるから」
「……うん」

ぎこちない笑顔。俺はお菊の笑顔が好きだったのに。
ああ。本当に、告白したのは間違いだった。

「……」

どのくらい時が経ったか。いつでも駆け付けられるようスタンバイしていたが、お菊は無事戻ってきてくれた。

「……お待たせ」
「おかえり。何もなかった?」
「うん……」
「良かった……じゃあ行ってくるね。俺を待たなくて良いから、お菊は先に寝てて」
「……うん」

腰を上げる。俺の隣の木の根本へと歩くお菊を横目で見つつ、俺は川のほうへと足を向ける。

「……何かあったら大声あげてね」
「うん……」

腰を下ろし膝を抱えて座り込むお菊を見つめつつ。俺は心配で急いで行水を済ませ、お菊の元へ戻った。
お菊は、俺が行水に行こうとした時と同じく膝を抱えて座り、今度は顔を伏せていた。
一瞬寝てるかと思ったけど、俺が意図せず踏んだ小枝が折れる微かな音でお菊の肩がピクっと反応したのを俺は見逃さなかった。

「……ただいま」
「……おかえり」

お菊は一瞬躊躇ったようだったけど、チラ、と顔を上げて返事をしてくれた。

「そろそろ寝ようか。痛みが出てきたところとかない?」
「大丈夫……」

それなら良いんだ。何しろ戦闘後だ。俺に心配かけまいと隠してそうな印象はない。
どうやら本当にお菊に怪我はなさそうだ。俺はホッとする。

「それじゃ寝ようか」
「……うん」

自身の羽織を脱いで俺の元居た木の根元に腰を下ろすと、お菊はその場で寝転がった。
お菊は自身の装備から抜いた装束を自身の体の下に敷いて体を横たえていた。羽織は来ているが、寒そうだ。今夜は冷える。

「お菊。今夜は寒くなりそうだし、俺の羽織を貸すよ」

お菊を怖がらせないよう近づかず、その場から声をかける。

「……それじゃ清光が寒いでしょ?」
「俺は平気」
「私も大丈夫だよ。自分の着てるし」

お菊はこちらを見もせずに言う。…………。

「あのさお菊」

たまりかねてお菊に声をかける。

「悪かったよ。安定といることが多くて不安だからって告白なんてするんじゃなかったよな。困らせてしまったよな。前のように接してほしいなんて思うのは、俺のワガママなのは分かってる。でも俺はお菊が大切なんだ。寒いんじゃないかって、気になって仕方がない。だから頼む。受け取ってくれ」
「……」

やがて、お菊は上半身だけ起き上がると、ゆっくりとこちらを向いた。
隣の木の根元でお菊を見つめて座って羽織を突き出した俺を見つめてきた。

「……私もこんな態度を取ってしまっててごめんなさい。どうしたら良いのか分からなくて……これまで通りに接しようと思っても、どうやって接していたのか分からないの。許して…。でも、清光の羽織は清光が使って?私だって清光に温かくして眠ってほしいと思ってるんだよ?……でも気持ちだけ。ありがとう清光」

お菊が優しく微笑んだ。
あれ以来初めてのぎこちなくない笑顔だった。ああ。こういう娘だから、俺は。
お菊が好きだ。

「お菊……」

お菊に俺の顔が見えないように俯く。そして無言で自身の羽織を持った手を再度突き出す。

「やっぱり使って。お菊の気持ちは伝わったけど、……好きな人には恰好つけさせてよ」
「……」

少しの間をおいて、お菊が立ち上がった気配がして、履物が地面を踏みしめる音がし始めた。近づいてくる。
俺のそばで止まった気配に、目を開けると。

「それじゃあ、一緒に使おう?今夜は冷えるし」

なんと、俺の羽織を持つ手に手を添えたお菊は、笑顔だった。
お菊の振舞いに思わず固まる。

「お菊……男にそんなこと言ったらダメだよ?」
「え?」

きょとん顔。やっぱり……と俺は心の中で脱力する。
お菊は良かれと思って言ってる。そういうところが男に勘違いさせてるんだけどな。

「きゃっ」

お菊の手を掴むと、自身に引き寄せる。

「……」
「……清み、」
「こういうことされるかも、って警戒してたんでしょ?」

至近距離でお菊を見つめる。

「、分かっててどうして、」
「それじゃ、ちゃんと間合いは取っておかないと」
「、」
「まったく…俺が告白した意味、まるで分かってないのな」
「どういう意み、きゃ!」

お菊を俺の羽織の上に押し倒す。

「やッ…清光…」

お菊が逃げられないよう、彼女の頭の両脇で手首を固定する。

「こんなことされても文句言えないよ?」
「……や、だ……」

ふにゅ、とお菊の顔が泣きそうに歪んだ。
あ、ダメだよそんな顔したら。もっとヒドイことしたくなるじゃない。

「泣いても無駄……なんて言われたらどうするつもりなの?」
「意地悪しないで……」
「意地悪……?お菊。男を煽る振舞いをしてることを少しは反省しなよ」
「やだ、分かんない…よぉ……」
「そう。なら文句言わないでね」
「んっ……」

至近距離にあったお菊の唇を塞いだ。
折れそうなほど細い彼女の腰に腕を回す。

「ん、ふあ……っ、ぁ…清、光……」

一旦唇を離してお菊を見つめたら。とろけそうな顔で俺を煽ってきた。
そんな風におねだりするんだ?止まれなくなるじゃない。

「キスだけでそんな顔してたら。もっとひどいことされるよ?」
「ぁ……シ、て……シて、清光ゥ…!」

意外だね。

お菊の乱れて少し空いた襟抜きから見える白い首筋に、俺は唇を落とす。

「あ…、」

お菊の小さな赤い唇から、甘い声が漏れる。
俺は顔を上げ、もう一度上からお菊の顔、胸元に目を流す。

「嫌なんて言っても、とう止めてあげられないから。覚悟して?」
「……、」

コクリと頷いた可愛いお菊の頬を一撫ですると、白い首筋に顔を埋めた。

「あ…清、光…」

あろうことか、お菊の胸元を犯す俺の首に、お菊のほうから腕を回してきた。

「ふふ…お菊。もっと?」
「あ…もっと」
「仰せのままに」

お菊の胸の前で合わせた着物に手を差し入れ、ぐいっと外側に開ける。
普段は隠され日の当たらないそこは、とても白い。

「お菊…綺麗だよ」
「や…恥ずかしい」

両腕で胸を隠そうとするお菊の手を地面に押し付けると、俺はお菊の肌に吸い付いた。

「やッ…あ、」
「可愛い声…もっと聞かせて」

お菊の華奢な体を覆う着物をすべて開き、その誰にも見せたことのない白い裸体をこの目に収める。

「あ…清光、早くぅ」

どうやら、告白したのは間違いじゃなかったらしい。