何かを見落としている


「お菊!清光!」

昨夜、行方不明になっていた二人が帰ってきた。夜明けと共に二人を探しに行った隊は数時間後に帰ってきた。本丸にいる二人の姿を見つけた瞬間、並んでいる二人に思わず抱き着いた。

「おかえりー!……っ」
「ふふ。安定、痛いよ」
「あっごめんねお菊……!」
「心配かけたね、ごめん」

離すと、二人とも笑っていた。

「本当だよ!戦闘に夢中になって森の奥に入りすぎ!」
「ごめんね、安定」
「以後気を付けるよ」
「そう願いたいねっ!」

そうしてまた二人を抱きしめる。この腕にめいっぱい、二人の存在を確かめるように。

「さ!朝餉にしよう!お腹すいてるんじゃない?」
「直ぐ食べられるの?やった〜」

あれ。お菊が……気のせいかな。

「どうしたの?早く行こうよ、安定」

振り向いた清光に、俺はなんでもないと応えて駆け寄る。
……?やっぱり気のせいだよね。
探索に出た隊とみんなでニギヤカに食事を取りつつ。
なんだかやっぱり変な気がした。
何がと聞かれると分からないけれど、何かが。変。

「ご馳走様でした。ご飯食べて落ち着いた。片づけたらお風呂入りたいなあ」

お菊が言った。

「そう思って準備しておいたよ!」

俺は待ってました!とばかりに立ち上がる。

「安定、ドヤ顔〜」
「う、うるさいなっ」

清光にからかわれた。

「お菊、ゆっくりしておいで。食事の片づけはしておいてあげる。昨夜は行水だけだったでしょ」
「う、うん……ありがとう……!」

……?今お菊、詰まったような……?

「夕餉は私が清光の分片づけるね!それじゃ、お風呂いただきます!」

お菊は行ってしまった。俺にはそそくさと出て行ったように見えた。
食事の片づけを終わって部屋へ戻っていると、お風呂上がりのお菊が縁側で涼んでいた。

「お菊、お水持ってきたよ」
「安定。ありがとう!」

お菊に手渡し、隣に腰を下ろす。

「昨日は大変だったね?やっぱり本丸は良いでしょ」
「うん、やっぱりお家が最高〜」

お家っておかしいね、そう言って笑うお菊は、なぜかお腹を押さえた。

「お菊、体調良くないの?」
「え?」
「お腹押さえたから……一晩中野営で、冷えたのかなって」
「ああ……うん」
「……」

??やっぱりなんか変だなぁ……?

「今日はゆっくり休むと良いよ」
「え、でも出陣……」
「なーに言ってるの!主のお心遣いだよ!」

そう言うと、お菊はうれしそうに微笑んだ。

「ありがとうございます、主様」

そう言って、主の部屋の方角を見つめるお菊の横顔に見とれる。ああ……好きだなあって。

「本当のこと言うと、とても心配した。もう二人に会えなくなっちゃうんじゃないか、とか。いろいろ考えちゃった」
「安定……」
「でも信じてた!二人なら、きっと無事だって。無事に戻ってきてくれて、ありがとう」

えへへ。そう照れながらお菊に伝えたら。

「お菊……!?」

お菊が僕の首に腕を回して抱き着いてきた。俺は慌ててしまってどうしたら良いか分からず、かと言ってお菊を抱きしめ返す訳にも行かず。俺は最終的に両手を頭の上に上げて降参のポーズを。

「私、ここに来れて良かった。私を拾ってくれてありがとう。安定のおかげだよ。安定には感謝してる。本当に……心配かけてごめんね」
「お菊、……」

お菊の真意を聞けて、俺の心にじんわり広がる温かいもの。俺はお菊の背中をなでた。あ……良い香り……。突然抱き着かれて慌てふためいてしまったけど、今はこんなに落ち着いて、お菊の匂いも温もりも感じる。それにしても、女の子ってやわらかいなあ。こんなに良い香りがするのも不思議。
って、なんだか……俺まずい。やばい、お菊に気づかれる前に。

「お菊、人に見られちゃったら……」
「あ、ごめんね」

お菊は直ぐに離れてくれたけど。本当はいつまでもお菊のことを堪能したかったけど……。
その時、招集がかかった。俺は出陣に含まれていた。

「今日向かうのは……」

着替えを済んでいつものごとく長谷部さんの説明を聞いている最中。
残留メンバーが待機している縁側に、お菊と清光の姿があった。お菊をチラと盗み見る。

「……?」

清光が、お菊の腰を心配している……?お菊の腰を優しく撫でていた。先ほど湯上りに、お菊がお腹を押さえていたことを思い出す。お菊、腰周りがどうかあるのかな……?

「聞いているのか大和守!」
「へぁっ!?ああ、はいっ!」
「ちゃんと集中しろ」
「すみません……」

チラ、と縁側を見ると、清光とお菊が困ったように微笑んで俺を見つめていた。ああ……失敗失敗。
そして、俺たちは転送され、無事本丸に戻ってきた。

「安定、おかえり!」
「おかえり」
「ただいまぁ〜」

は〜なんだか今日はヘトヘトだ。

「安定、お風呂沸いてるよ!」
「ああ、お菊助かる〜」
「今朝のお礼だよ!夕餉はもう少しかかるし、先に入ってくる?」
「うん、そうする」
「はい、着替え」
「わあ、着替えまで。清光もありがとう〜」

お菊と清光が準備してくれたお湯に、ゆっくりとつかる。
沖田くん大好きっ子。俺は良い仲間を持ったなあ。

「幸せ〜」

安定は肩までつかって芯まで温もるのでした。

その頃沖田愛刀部屋では。

「お菊、痛むか?」
「う〜ん……なんていうか……説明が難しい。でも辛いわけじゃないの。心配してくれてありがとう、清光」
「俺のせいではあるからな……昨日はエキサイトしすぎたな」
「やだ清光ったら……そんな。って日本語でしゃべろうね?」

なんて会話してるとは露知らず。安定は自分でも先日「お菊を口説く」と宣言したことを忘れたかのように呑気なのでした。