KIRA2WORLD




うるし一族は、漆に由来がある。漆は、『麗し(うるわし)』『潤し(うるおし)』から語源が来ていると言われている。

そんなうるし一族でもユヅキは際立って艶やかで、見目麗しかった。可憐、という表現が似合う女性だ。

その上、うるしユヅキは元暗部の現上忍。実力は折り紙つきなわけだ。

そして暗部時代、彼女はうちはイタチの部下だった。あの夜、うちはイタチが抜け忍になったあと暗部をやめ、上忍に昇進したようだ。

さらに、ユヅキの家族は幼少の頃に両親を九尾事件で亡くし、両親仲の良かった奈良シカクさん一家に引き取られた。
奈良家ご子息シカマルとは、一緒に育ち姉弟同然な間柄だ。シカマルのほうは、ユヅキをそんな風には思っていないようだが……。

父親のシカクさんとしても、自身の息子にはぜひユヅキをと、現在水面下で奮闘中とのこと。

というのも。同じく元暗部で上忍のはたけカカシを彼女は「カカシ先輩」と呼び、ナルト達の代理隊長であるヤマト含む3人で、頻繁に飲みに行っているらしく交流があるようなのだ。
カカシさんもユヅキの旦那候補にしてもらおうと奮闘しているご様子。

それだけじゃない。
つまようじを口にくわえてアンニュイな雰囲気の不知火ゲンマでさえ、せっせとユヅキのために料理をこしらえたり、そうとうに世話を焼いてかなり熱を上げているようだ。
さらにここへ来て、ユヅキはアオバさんやライドウさんとも繋がりがあるのだから手広い。
蛇足だが、飲み屋でユヅキの酒豪っぷりに男3人がボコボコにされている姿をよく見かける。

最近となっては、ナルトの同期達とも繋がりができたらしい。その辺は調査中だが、聞くところによると、日向の宗家たる器を持ちながら分家であるネジのことを「お父さんみたい」と悪気無く言い放ち、ネジのことを心底ヘコませたらしい。

これを踏まえて分かること。それは、ユヅキは、恋愛にはすこぶる疎いらしい。
その笑顔とボケで次々かわすものだから、男達は攻めあぐねている訳だ。

そんな訳で、彼女に憧れる忍は多いのが、調査結果だった。
その麗しさも相まって、他里にも広まっているようだ。

正直、早いとこオレとしてもお近づきになりたいわけだが。
日々の綱手様の雑用という、日陰の職務から解放されなければ難しいかもしれない。

今日も今日とて、綱手様がためまくった資料を整理する作業を仰せつかっている。オレは物思いにふけるのを止め、日の当らない資料室から大量の巻物を持ちだすと、極秘資料室階下の里外秘資料室へと向かう。

「失礼しま……」

大量の巻物でふさがれた手では開けづらい横に引いて開けることも困難な里外秘資料室の扉が空いていたことを、不思議に思うべきだった。
室内に一歩入ると、オレの足は止まった。

開け放した窓から外の木々の木の葉を通じて室内に差し込むやわらかな陽の光りで、大きな瞳をふちどる長い睫毛が瞬きするたび、まるでキラキラと光の粉が舞ってるが如く綺麗な光景がそこにはあった。

うるしユヅキだ。

彼女の長い睫毛が頬に影を作っている。小鳥のさえずりと、細くて白い綺麗な指先が古書をめくる紙音、天気の良い外から光りの差し込む窓から心地よく通り抜ける風にあおられ、彼女の綺麗な長い髪がゆれている。彼女の周りだけまるで、やわらかな光に包まれているようだった。

「………」

そうして、長い睫毛がキラキラと光の粉を舞うように揺られて、ユヅキがゆっくりと目を上げこちらに目を向けた。
見惚れていたなんてバレる訳にはいかず、オレは慌てて取り繕う。

「すみません。先客がいると思わなくて」

オレは歩み進めて、彼女の手前にある部屋の中央の大き目の机へ一旦巻物を下ろす。

「いえ……もう終わるところですから」

ユヅキがふんわりとほほ笑んだ。初めて間近で声を聞いた。鈴の音の様な声だ。
彼女はそっと古書を閉じると、そのままスッと立ち上がった。

立てば芍薬、座っていたときは牡丹。では、歩く姿は百合の花なのだろうか。

「………」

意外と小柄な彼女は、160cmも無いように見える。
ユヅキが座っていた真後ろの窓際の本棚に古書をしまう彼女の後ろ姿を見ていると、背中の半分までのばした髪が、窓から入る光でキラキラとゆれている姿が神々しかった。
肩の出る上忍ベストから伸びる白い腕はほっそりとしなやかで、ベストで覆われているにも関わらず服の上から見ても女性らしいラインは曲線を描いている。腰はくびれていて細い。
繊細な曲線美は、くの一としてはかなり華奢であるだけでなく色素が薄い。まさに見目麗しい……
唐突に我に返り、見惚れていたことにいかんいかん、と手元の巻物に目を移すと、彼女がスっとそばに立った。ハッとして顔を上げると、なんとユヅキは俺にふわりと笑顔を向けた。思わずその麗しさに見惚れていると、彼女はオレの手元の大量の巻物に視線を落とした。

「こんなにたくさん。綱手様ったら、今度はあなたに押しつけてるんですね」
「え、今度は、って」

彼女はくすり、と笑った。

「昔は、私が居た暗部部隊が処理していたんですよ。里外秘資料」
「そう……なのか」
「ええ。あ、私はうるしユヅキです。今は暗部ではありませんけれど。あなたは神月イズモさん、ですよね?特別上忍の」
「なんで知って……」
「あ……それは……」

ユヅキの真っ白な頬に、突然赤みがさしたように見えたが、気のせいか?だが木の葉の忍同士だからと言って、全員が全員、顔と名前が一致している訳ではもちろんない。綱手様の雑用、と格好つけて間違えて忍識札を見てしまう、なんてセキュリティ事故が起こらない対策をしてない程、木の葉は平和ボケしているわけでもない。任務で会わない人の情報を手に入れるには、仲間内から情報収集する他ない。それの指すことつまり。いや、自惚れてはいけない。しかし、と思う。だがもっと言うと、彼女と俺に、共通の知り合いは居ない。

「……」
「……」

これはもしかして、もしかしなくても。自然とオレは期待してしまう。嬉しくて緩みそうになる口元を必死に抑える。

「以前、会ったことあったっけ?」
「あ、の……私……」

ユヅキの顔は見事なまでにゆでダコのように真っ赤になっていた。

「失礼しますッ……」

ユヅキは耳まで赤くして走り去って行ってしまった。オレはその後ろ姿が消えた横開きのドアを見つめながら頭はフル回転させる。ユヅキが、誰の求愛もヒラヒラとかわすのは想い人が居たから。そういう噂もある。オレが、期待する通りなら。綱手様の雑用も、思わぬ棚ぼただったのかもしれない。

「追いかけないと」

オレは直ぐに、ユヅキの後を追った。悪いな、みんな。オレはユヅキに告白させてもらうよ。