自信・雷・火遁・弱点




ユヅキと恋仲になってから、しばらく経つ。

ユヅキは普段、あまり人に甘えるということをしない。彼女は二人姉妹の姉だ。オレも二人兄弟の兄だ。守る者がいる身として、しっかりするのも分かる。だがこと恋人に対しては、普段の“お姉さん”を脱いで甘えてほしい。

「雨、すごいですね……」

暁アジトのオレの部屋。読んでいる本に影がさした。彼女が窓際に移動したのだろう。外套の上からでも分かるユヅキの華奢な後姿を見る。

窓から空を見つめて、少々ガッカリしている声をあげる彼女に、オレは思わず唇が弧を描いた。天気に不満げな彼女を可愛いと思った。彼女の肩越しに外へ視線を移すと、さきほどから激しく振り出した雨で、外は土砂降りだった。

「そうだな、通り雨だろう」
「早く止むと良いですね。もっと早くお夕飯の買い物に出るべきでした。この雨では、当分無理そうです」

外からオレに視線を移し、困ったような笑顔を浮かべるユヅキ。困り顔のユヅキが可愛いくて、オレはかつてサスケにしたように、手で招く動作をした。

瞬間、ピカッと光った。同時に、ものすごい雷鳴。……そばに落ちたようだ。そして、

「うそ、停電」

停電に動揺して少し上ずったユヅキの澄んだ声が、薄闇にとける。いや、ユヅキにとっては暗闇だろう。だが写輪眼は、夜目がきく。そばの棚に置いてある蝋燭に火を灯すため、立ち上がる。火遁で蝋燭に火を灯そうとした、その時。

「イタチさん……?」

思わず振り返る。……どうしたと言うんだユヅキ。いつもお姉さんなユヅキが、随分と不安気な声でオレの名を呼ぶじゃないか。

「……え、イタチさん?」

直ぐに返事をしなかったのが不安を増長させたのか。珍しい。わずかながらに、涙声だ。

写輪眼でユヅキの姿を凝視する。普段のお姉さんの顔はどこへやら、今にも泣きそうな顔をしている。瞬間、ふたたび部屋が光った。

「きゃあっ!」

頭を抱え、その場に蹲るユヅキ。確信した。雷が弱点だとは。……これまで強がっていたな?

「ユヅキ、」
「イタチさんっ!」

安心させたくて名前を呼ぶと、悲鳴のような声を上げてオレがさっき腰掛けていたところへ来ようとするユヅキの姿に、たまらないものを感じた。

「!ユヅキ、足元に気を付けろ、」

がんっ

「いたっ」

ベッドの角に足をぶつけ、その場に蹲るユヅキ。駆け寄ろうとすると、ぶつけたつま先をおさえながらも顔を上げたユヅキが、オレの姿を探して不安げにキョロキョロし始めた。思わず、オレの足が止まる。なんだその可愛い仕草は……

「イタチさん……どこ?」

もっとユヅキのその可愛い姿を見ていたいと、イタズラ心が沸いてしまう。

「……火をつけるため蝋燭を取りに移動した。暗くて危ないから、そこにいろ」
「はい……」

ユヅキを安心させるために、口では優しく言って。ああ。それでもオレを探すその表情。愛おしいな。その愛くるしい姿に見入ってしまう。オレを求めるユヅキの姿を目に焼き付けていたい。

「イタチさん。蝋燭は見つかりましたか……?」
「、ああ、すまない。まだだ。……何しろ暗いからな」

オレはその場で動きもせず、ユヅキだけを見つめたまま。そして幾たびの、稲光と雷鳴。

「きゃっ!」

小さく悲鳴をあげて、身を縮こませ震えだすユヅキ。……限界か。

「あった」

これ以上ユヅキを怖がらせられず、蝋燭に火遁で火を灯す。部屋に、わずかながらでも暖かい明かりが溢れ広がる。

「イタチさんっ!」

ずっと見ていたユヅキの目が、オレの姿を捉えた瞬間。ユヅキの顔にパッと安堵の表情を浮かべたのを見た。……罪悪感に苛まれる。反射的にオレの足は動き、ユヅキの体を抱きすくめる。

「っ、イタチさん……?」

腕の中から、困惑するユヅキのくぐもった声。愛おしいユヅキをぎゅうと抱きしめながら、やりすぎてしまったことに内心申し訳なくなる。

「ユヅキ……こわかったか?」
「……はい、」

大人しくなるユヅキ。

「すぐに明かりをつけてあげられなくて、悪かったな」
「……今、つけてくれました。ありがとうございます、イタチさん」

顔を上げて、オレに微笑みかけるユヅキ。ああ。これほど可愛いのに、オレは。

この愛おしい存在を、オレに守らせてほしい。ユヅキが、お姉さんでいようとしなくて済むように。オレの前だけは。