鎖鎌
改めて言うのもなんだが。オレはユヅキに恋している。
「飛段さんの鎌って、ニョロロロロ〜ってホースが出ますよね」
「ホースじゃねえし!」
そして、アホだ。
ユヅキはいつも唐突だ。つかユヅキにはニョロロロロ〜って聞こえてるのか!?どんな耳してんだ!
今日のユヅキはイタチとじゃなくて、角都と俺についてる。今も、どこ隠れだか知らねえ里の追い忍を返り討ちにしたばかりだと言うのによ。戦闘で外套についた埃りを涼しい顔で払うユヅキって、ある意味大物……。
美人だけど残念、それがユヅキという人物。
「軽いんですか?」
「んぁ?」
「それです」
「んなっ!?」
ユヅキが指さすのはオレの鎖鎌。聞き捨てならねえ!……ピーンと来たぜ。それじゃ分からせるしかねえな。
オレはニヤリと笑うのを必死に隠しながらユヅキに向き直る。
「鎖鎌が軽いわけねえだろ。軽かったら敵を仕留められねぇじゃねえか。鎌を遠くまで飛ばせねえしよ」
「え、飛段さんって別に仕留めてなんてないじゃないですか?」
「……!?」
た、確かに。仕留めてはねえけど……いや、そうじゃなくて!
「仕留めるために!遠くの敵を捉えるためにだなッ、」
あっもうユヅキのペースに巻き込まれてる。
「ちょこ〜っと傷をつけて、ちょこ〜っと血をゲットできれば、事足りるんですから」
「その言い方ヤメテ!」
オレが傷つくことをサラリと言ってのけケラケラと笑う顔まで美人とは……。ユヅキはこんなヤツだ。
「いつもひたすらブン回してるので、疲れないのかなーって思って見てました。しかも軽そうです。あっ軽いのは飛段さんの頭でしたね、すみません」
「いや何謝ってんだよ!?」
ユヅキはちょいちょいオレに失礼だよな……。
「じゃあちょっと見せてください。その変な鎌」
「変!?」
なのにオレのそばまで寄って来たユヅキが可愛いくて。
しまいかけた鎖鎌をユヅキに持たせてやることにする。オレの鎖鎌を手にするユヅキに、オレは内心ニヤリと、こんなことを口にする。
「言っておくけどよ、この鎌は女のユヅキには重いぜ?」
「大丈夫ですよ!私にも持てます」
「ほう?」
余裕綽々のユヅキ。
ユヅキが鎖鎌を両手にしたのを見て、オレは手を離す。そっと。
「あ待ってコレまずいパターンですダメ離さないd、きゃあ!」
ズシャアアアアアアン。
ほらな?
オレが片手で手渡した鎌を、ユヅキは両手で持ったにも関わらず、だ。
オレが手を離した瞬間、案の定ユヅキは鎌を地面にブッ刺した。
オレの鎖鎌は地面に垂直に刺さっている。
「飛、段……さん……っ」
おーおー。いいねぇそのヤラシー声。
地面に刺さった鎌を抜こうとして、でも重くて自力では抜くことができないユヅキの悩ましい声に酔いしれる。助けを求めてオレを呼ぶ声サイコー。
それにしても。
「……」
鎖鎌のその重さゆえに歪んでも、綺麗な顔なんだからよー……オレの目は釘付け。
「飛段、さん……っ!抜い、て……っ、くだ、さ……!」
いちいちエロイな。
もう少し眺めていても良いが、とうとう涙目になるユヅキに免じて鎌を持つその小さな手に加勢してやる。
「な?重いぞっつったろ?」
「だ、だって!飛段さんいつもブン回しながら敵を追いかけてるんですもん!軽いのかなって思うじゃないですk、きゃあっ!」
「っ!!」
鎌を持ち上げてやった瞬間、バランスを崩した。
地面にブツかる前に、慌ててユヅキを抱きとめる。
「!!!!」
ズシャアアアァ。という音とともに、背中にものすごい痛み。
「怪我はないか!?」
腕の中のユヅキの様子を伺う。鎌の位置を即座に確認する。鎖鎌はオレたちから少し離れた地面に、再び食い込んで静止していた。
ユヅキはしっかりオレの上で抱きとめられて、怪我もなさそうだ。
「……!飛段さん、すみません!怪我は!」
仰向けになったオレの胸から顔を上げると、必死にオレの外套を掴んでオレの顔を覗き込むユヅキ。なんだ……心配してくれてんのか。ユヅキが。オレを?うれしいじゃねえか。外套の上からでも分かるその細い腰を、ぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫ですか?飛段さんっ」
「なあ……ユヅキよ」
「はい!どこか痛むんですか!?」
「いや……そうじゃねえ」
「?」
待てよ。ユヅキスタイル良さそうに見えるけど。今が確認するチャンスじゃね?オレは思い立ち、ユヅキのその気になって仕方がない細い腰を、くびれにそって、一撫でする。
「ただのセクハラじゃないですか!もうー!!」
「グハァッ」
イテテ。ブッ飛ばされてしまった。
「心配して損しました」
プリプリ怒りながら、また汚れてしまった自身の外套をポンッポンッと叩く、ユヅキ。……その一挙一動が、オレにはまぶしくて。太陽にするように、ユヅキの姿を眺め目元に手をかざす。
「泣いてるんですか?飛段さん」
「泣いてねえよ。あーユヅキ〜腰いてぇ」
「他人のこと少量の血で殺せる人が何言っちゃってるんですか」
もう、仕方ないですね。そう頬を膨らませつつも。笑顔でオレに手を差し出すユヅキが最高に愛おしい。
お前がイタチの女だろうが、イタチを好きだろうが、関係ねえ。血なら、少量で事足りるんだ。お前の心にオレのスペースを。なあ、ユヅキよ。少量でいいから。