白or銀?




「申し訳ありませんでした、土方さん!!タダ住みは気が引けるから、なんて言って無理矢理にお役目を頂戴しながら、出来ませんなんて!!私ごときがお役目を頂こうとしたこと自体、そもそもの間違いだったようです!!私は未成年だから、タバコを買いに行くこともできない私は無力な人間です!!」
「いやそこまで」

***

「………………………………」

仕方ないから、マヨネーズを買いに行くことになったのでした。てか食事を作ってくれる中居さんに頼まず個人用のマヨネーズって?
屯所を出て、土方さんお手製の地図をたよりに街並みを歩く。というかやっぱりマヨネーズなのが気になる。まさか好物なの?いやいや土方さんと言ったら好物は、たくあんでしょう……(※史実)

「ふう」

空を見上げる。私は、私のできることをするしかない。なにより、早く帰る方法を見つけることが一番なはずなんだから。
ふいに、視界に入ったものに目を奪われる。そういえばさっきから、変な飛行機が空を飛んでる。どの飛行機も、あの一番高い塔に向かってるみたい。ターミナルなのだろうか。
史実とは違う、銀魂の真選組。ここは、私の知らない新選組……いや、真選組のいる世界なんだ。そう思ったら、好奇心が沸いてくる。

「変な飛行機は飛んでるけどまだ幕末だからか、心なしか空気が綺麗に感じるかも」

私は意気揚々と歩き始めるのだった。
ほどなくして、繁華街に出る。商店街に向かってると思ってたんだけど。地図通りにちゃんと来れてなかったかな?

「……ちょっと離れすぎちゃったかな」

屯所周辺に比べて、随分風景も変わった。引き返そうと、踵を返す。そこへ。

「ギャアアアアア」
「!?」

男の人の悲鳴。見ると、銀髪で、木刀を腰に差した、風変わりなお侍さん。どうやら、メガネっ子くノ一から、逃げてる……?
え、こっち来た。ちょ、わ―――銀髪のお侍さんが私の胸にダーイブ。

「ん……?なんだこれ?やわらかい……」
「……ッ」

初対面の男の人から。胸に顔を埋められて。挙句揉まれる―――トラウマ案件発生。
悲鳴を上げそうになったところで、口を塞がれた。

「っ!?、…………?」

なにやら、脇の民家を必死に指差している。

「叫ばないでェェェェェェェェ!!」
「(いや、叫んでるのお前ェェェ!!)」
「ここ俺ン家の前だからァァァ!!神楽や新八が居るんだよォォォ!!お願いだから“きゃーチカーン”とか叫ばないでェェェェ!!」
「……!?;」

……なんなの。ひとまず、場所を移して公園。私は銅像前のベンチに座らされている。足元に、銀髪の風変りなお侍さんが自主的に正座&土下座。胸ダイブ事件のことで、絶賛頭下げられ中。
とても周囲の人の視線を感じる。恥ずかしい。風変りなお侍さんから押しつけられた自販機のホットコーヒー。顔を隠すように俯き見つめ続けて、もうかれこれどのくらい経っただろう。なにも移動先に、こんな人の多い公園をチョイスしなくても……

「すんまっせーーーーん」
「ええええ!ちょ、だから大声やめてくださいったら!」

両腕が手のつま先まで真っ直ぐ伸びてる!謝る気ないよね?!
すると、顔を地面にこすりつける勢いのままお侍さんがまくしたてるように早口で喋り出した。

「胸にダイブなんて男のロマンを公衆の面前で俺ァしてまっせーん!!」
「いえ、バッチリしてましたよ」
「いくらお嬢ちゃんが美人vだからって故意なんかじゃありまっせーん!!」
「当たり前だよ故意ならあなたの白髪頭は今頃はげ頭よ」
「でも!!恋は故意にダイブするもんじゃないと、俺は心得ているゥゥゥ!!」
「もはや意味不明」

そんなことより、公園に来ている人たちからますます視線を集めてる。恥ずかしいから即刻やめて頂きたい!
事態の収拾をするべく、私は座らさせれていたベンチから腰を上げてお侍さんの側に膝をつく。

「もう良いですから、顔を上げてください」
「ほんとにほんとッすんまっせーーーーん」
「うん、謝る気ないよね」
「すんまっせーーん」

やっぱりないよね?
私は座らされたベンチから腰を上げて、地面に額をこする勢いのお侍さんの脇にしゃがんだ。

「もう、本当に大丈夫ですから。どうか顔をあげてください」
「え?お嬢ちゃん、許してくれんの?」
「ええ……」

やっと顔を上げてくれた……て。
この人、死んだ魚のような目してる!

「よっしゃ!!今回のことで俺ァ弁解なんてしねぇよ!!だって俺は悪くないも〜ん!!変態くノ一から自分の身を守る過程での事故だも〜ん!!」
「およそ大人の男とは思えないことをぬかしたよ」

あげく私が座っていたベンチに座ったよ。さらに鼻をほじるという始末。

「ていうか、弁解しまくってるよね。悪いことしたよね。私のおっぱい揉んだよね!!」

涙目になる。

「本当、悪かったな」

突然のまじめモード。そんなの、こちらも困る。

「……もういいですよ。もう忘れてあげますから」

私も立ち上がり、元居たベンチのお侍さんの隣に腰を下ろす。

「…………………」
「……?」

じっと見つめられたので、見つめ返す。

「(ポッ)」
「!?」

ほ……頬を赤められてしまった。

「あ〜……まあ……なんだ……その、コーヒーだけじゃ、あんまりだよな」

風変りなお侍さんは、自身の懐に手を入れた。ゴソゴソして。何かを取りだし、差し出してきた。受け取ると、名刺だった。

「万事屋、銀ちゃん……」
「万事と書いて<よろず>って読むんだ」

彼はベンチからパッと立ち上がった。そしてなんと、かしずいて私に手を差し伸べてきた。

「美しいお嬢〜さん☆ウチで働きませんかッ?バチコーン★-(*ゝω・*)ノ」
「思わず呆気に取られる、とはこのこと」
「え?なに不満?」
「そりゃそうでしょうよ!万屋さんだから、字のごとく、私が困っている事柄のご依頼をお待ちしてます、とかじゃないの!?」

すると、彼は白いモジャモジャの髪の毛の生えた後頭部に手をやり、少し考えるような顔をした。そして私を見ると、ニカッと笑った。

「だな。俺が悪かった。よし!困り事があったら何時でも来な。今回の借りを返すからよ」

じゃあな、と銀髪の侍、もとい万事屋銀ちゃんは、去って行った。
変な人だったなあ。私もお使いして帰らなきゃ。
屯所方面への出口へと、足を向けた瞬間。ダダダダダダと背後から履物が砂地を走る音。段々近づいてくる。

「名前教えて」

後ろから手首を掴まれて、勢いのままに振り返らされた。
見ると、息が切れてゼーハー言ってる万事屋さん。
正直、これまででなぜか一番良い顔をしていた。よく見ると、なかなかなイケメン……?真剣な目に、私は迷うことなく自然と口にしていた。

「……小夜です」
「小夜」

万事屋さんは、まるで体にしみこませるように私の名前を繰り返した。気持ち悪。

「良い名だな」

そう微笑む今日一番の良い笑顔をする万事屋さんのことを、なぜかステキだとか思ってしまった。なのに、彼の薄い唇から紡がれた次の言葉は

「いつでも俺の隣を空けといてやるよ。俺の彼女の座を☆」
「……」

どこまで本気なんだか……。そうして、去っていく銀髪の髪が沈む太陽の日の光で、キラキラと輝いていた。
目立つから手は振らないでほしいけど。
私も今度こそお使いを済ませて帰ろう。公園の出口へと歩き出す。もう一度名刺に視線を落とす。よろずを万じゃなくて万事。……本当に、なんでもしてくれるのかな。

「……ふふ。変な人」

万事屋さんの名刺を懐にしまうと、真っ直ぐ前を向いて歩きだした。