どんな経験も未来への糧になる




近藤さんが帰ってきたようだ。外が騒がしくなった。きっとこれから夕餉だろう。お手伝いをさせてもらおうと部屋を出る。廊下を歩いていると、総悟くんと会った。

「小夜」
「総悟くん。おかえりなさい」
「ただいまでさァ。どこ行くんですかィ?」
「お夕餉のお手伝いをする許可を取りに、土方さんのお部屋に」
「小夜ちゃん。総悟」

この声は、近藤局長。

「おかえりなさいませ、近藤局長」
「ああ、ただいま。小夜ちゃん食堂に行こう。今日は歓迎会だよ!」

後ろから優しく両肩を掴まれてグイグイと近藤局長に押される。食堂に着くと、既にお料理は並べられ、隊士たちは大勢食堂に入ってきだしていた。

「みんな、聞いてくれ!」

近藤局長の一声で、食堂はシン、と静まる。

「彼女は中京小夜さんだ!彼女は江戸には来たばかりだ。いろいろ教えてあげてくれ!」

私のことは幹部と監察方にしか言わない、と言っていたけど。でも説明はいるからその程度に済ますのね、なるほど。

「よろしくお願いいたします」

ぺこりと頭を下げると、恐れ多くも私の歓迎会という名の宴が始まった。隊士の皆さんは、皆気さくに声をかけてくださって、とてもありがたかった。お酌して回ってようやく席に戻ってくると、既に出来上がった近藤局長にお酒を勧められた。

「小夜ちゃんも一緒に飲もう!なに、遠慮はいらない!」

近藤さんのお言葉に甘えて、ご一緒させていただくことにした(ただ未成年なのでジュースだけど)。どんちゃん騒ぎは楽しくて、あっという間にお開きになった。せめてお片付けだけでもと思ったが、また断られてしまった。

「小夜ちゃんは帰る方法を捜さなきゃだろう。もちろん、時間がかかってもそれまで居てくれて構わないよ」
「小夜。本当に気にするな、うちには中居もたくさんいる。お前は、俺がたまに呼びつける時に所在が分かれば良い」
「分かりました」

部屋に返され、布団に入ると、今日あったことを思い返す。いちじはどうなることかと思っていたけれど、真選組に置いてもらえるようになって良かった。帰る方法が分かるのが、いつになるか分からない。帰る方法があるのかも分からない。でも自分でも探そう。どういう方法を取れば良いのか分からないけれど。そして、もう中居さんに仕事をくださいと言うのはやめよう。
いつの間にか、障子から月明かりが差し込んで薄暗い木目の天井を見つめていた目は閉じ、眠りについた。