6月の白さ


二人が交際して半年。最近、フェイタンを悩ませていることがある。それは、“これでも付き合ってると言えるのか”ということだった。
付き合う前は、二人きりの時間がたくさんあったし、連絡もまめに取っていた。しかし今は、二人でどこかへ出かけるのも月1。メールは用事がある時のみ……。フェイタンは関係を薄く感じることが不満だった。雑談だと返ってこないことだってしばしば。二人で出かける提案をしても、

「今週は団長からマチとの仕事を頼まれてるの。ごめんね、来週でもいいかな?」

仕事なら仕方ないとは思っても、納得できない。こんなことが多く、せめて1日1通のメールくらいしたいのがフェイタンの希望。フェイタンから告白して付き合い始めたのもあって、より彼女であるマリカの気持ちが自分にあるのか不安になるのだ。それにキスは数える位しかおろか、身体を重ねたことだって……。まさか他に好きな男が?思考は悪いほうへ傾いていく。
普段、蜘蛛は個人行動で、団長の召集がかかった時のみ集まる蜘蛛の性質上、普段のマリカ#の行動を全ては把握できないのもフェイタンの不安に加速をかける。そんなだからこそ、毎日会うのが難しいのなら、せめて1日1通のメールが重要だと、フェイタンは考える。

「フェイ……お前案外、乙女チックだったんだな」

傷心のフェイタンを、フィンクスはきょとん顔で一蹴した。

「……お前に相談したワタシが馬鹿だたね」
「待て、悪かったフェイタン」

フィンクスの部屋から出て行くフェイタンをフィンクスが慌てて止めた。普段のフェイタンなら「それワタシの台詞ね」位は言いそうなものが、今は受け入れられる精神状態ではない。フィンクスを恨めしげに見ながらも、やはりどこか生気の抜けたフェイタンは、すとん、と元の場所に腰を下ろした。フェイタンには珍しく、それほどに今回は相当参っているようだ。フィンクスはからかうのはやめようと思った。

「つーかよ。マリカにそれ言ったか?」
「言えるわけないね……」
「なんでだよ。言えばいいだろ」
「無理ね!」

フィンクスの言葉に真っ赤になって過剰反応を見せるフェイタン。フィンクスとフェイタンは子どもの頃からつるんでいるが、こんなフェイタンを見たのは初めてだった。

「フェイ、まさかお前。マリカの前ではすっげカッコつけて、」
「みなまで言わないね!!!」

わあわあと騒ぐフェイタンに、フィンクスは思わず笑ってしまいそうになるのを必死に抑える。いけない。今日はからかわないと決めたはずなのに。そんなフィンクスを見て、フェイタンは一気に青ざめた。

「お前。もし、このことマリカにしゃべたら、」
「言わねーよ」

安堵の表情を浮かべるフェイタン。こりゃ重症だな。とフィンクスは思った。子どものころから知っているフェイタン。世間の蜘蛛の男のイメージを地で行くあのフェイタンが、ここまで女に骨抜きにされてるとは……。マリカ恐るべし。フィンクスは哀れみの面持ちでフェイタンを見つめた。そんな眼差しを向けられてることにさえも、気が付かないフェイタン。

「それで、フェイはどうしたいんだよ?」
「マリカと1日1通のメールでいいね。連絡取り合いたいよ」
「用事がある時しか連絡してこないマリカだからな……。毎日のメールは無理にしろ、じゃあ数日置きに電話したらどーだ?」
「無理よ、マリカは大抵留守電ね」
「じゃあ、週1でお前から会いに行けば良くね?」
「足りないね。もとマリカの近くに居たいね」
「はぁ〜……」

らしくない姿に、フィンクスは頭をボリボリとかいて、一発で解決する言葉を浴びせることにする。

「じゃあ一緒に住めばいいじゃねーか」
「……!?」

ボッ。という効果音が出そうなくらい、おもしろいほど顔を真っ赤にさせるフェイタン。確定だな、とフィンクスは確信した。フェイタンは、どうやら慎重になるとムッツリになるらしい。これまで寄ってきた女を来るもの拒まず去るもの追わずだったフェイタンが、だ。しかも一緒に住むことを、直結してまさか赤面など。あのフェイタンが、マリカにまだ手を出していなかったとは。

「む、む、無理ね!嫌われるね!!」
「何言ってんだよ。お前も男だ、好きな女にずっと会わなきゃそうなるし、ヤリてーと思うのは当然だろ」
「〜〜〜〜〜っ」

顔を真っ赤にして口をパクパクするフェイタン。

「違うね!話を聞け!!マリカがワタシとの結婚に頷くとは思えない言てるね!!」

お前が話を聞けよ。結婚とかそこまで言ってねえ。

「……フェイタンよぉ、」

結婚という二文字を考えていたという予想外の爆弾発言に、フィンクスは内心ものすごく衝撃だったが。すぐにふっと小さく笑い、まるで親心のように10年来の相棒の肩を組んだ。

「お前がそのつもりだったら問題ねーよ。マリカは情け深い女だろうがよ?」
「……!」

フェイタンの顔に光がさした。

「行って来い」

ぽん、とフェイタンの背中を叩くと、フェイタンはフィンクスの部屋を飛び出していった。

「サンキューね、フィン!」
「おう!」

フィンクスの部屋を出て最後に振り向いたフェイタンの表情は、すっかり晴れ渡っていた。
数日後、団長の召集がかかり、フェイタンはマリカとの結婚を報告した。結婚式の招待状を渡すフェイタンは、マリカの正式なパートナーとなり、すっかり構ってもらえるようになったのか、更にマリカ馬鹿となったフェイタンを見ることができたのだった……。




マチ「ついに結婚式ね。なにも収拾をかけたその足で結婚式しようとしなくてもね。フェイタン。おかげで何も準備してないわよ。1度解散して、また日を改めてとか」
シズク「正直迷惑だと思います」
フラン「正直すぎだ、シズク」
パク「でも良かったじゃない二人とも。特にフェイタン。あんなに破顔しちゃって。もう人相変わってるどころじゃないわ」
シャル「マリカ〜……まさかフェイタンと付き合っていたなんて」
フィン「付き合ってるようには見えなかったからな」
クロロ「まじかよマリカ〜……クソ、どうかしてた。というか俺は馬鹿だな。まさかフェイタンとマリカが付き合っていたことに気が付かないとは……」
フィン「いや、もう結婚したから」
ノブ「てことは、団長もマリカ狙ってたのかよ!」
ウヴォ「お前もか、ノブナガ!くそ!ライバル多いじゃねーか!」
フィン「いや、もう結婚したから。……ってか一番ガッカリしてんの俺だから!!マリカーー!!」
フェイ「はあ!?何言てるね初耳ね!信じられないねお前っ!」
コル「みんな落ち着いてよ。ボク、マリカのコピー作ってあげようか?僕もう一人持ってるし」
クロ・フィン・シャル・ウヴォ・ノブ・フラン「おお!!!」
マ・パ「ちょっ、ヤメなさいよアンタ達!」
シズク「私ほしーです」
一同「!?!?!?!?!?!?!?」

マリカ「……(出ていけない;)」