夜蛾から、勉学を共にする夏油が離反したとなまえが聞いたとき。意外にも朝食をとりながら、全国区のニュースを見ている時の気分と大差なかった。
 恩師が言葉を詰まらせながら語る現実は、彼一人で百何人の非術師を殺しただとか、村は血濡れになっていただとか、両親まで手に掛けただとか。二年以上級友として連れ添ったなまえにとって、信条を強く持った夏油がそんなことをするなんて現実味がなく。彼女からしたら、見知らぬ土地で起こった、見知らぬ人物犯行の事件や事故について、ひたすら聞かされているようだった。
 行方は現在目下捜索中であり、お前も気をつけろと夜蛾は警告するが、そんな忠告が頭に入ってくるはずもない。一人の人物に対する現実と過去が、乖離しすぎていた。
 そして他の同級生二人とは違い、高専を去った彼に一度も遭遇していない彼女は、それが数年経った今も続いている。


「あっ、やだっ、悟、待って」
「久しぶりだから?今日すごい締まるね」
 浅いところをゆるゆると行き来しているだけなのに、その度になまえは快感を拾ってしまう。五条のモノを締めつけ、一番気持ちの良いところへ留めようとし、さらに自分の奥へと誘う。
 彼の言う通り、二週間ぶりに身体を重ねたから、こんなにも敏感になっているのだろうか。余裕のない頭でそんな事を考えながら、彼女ははしたなく喘ぐ自身の口に手をやった。
「手、繋ごっか」
「〜〜!」
 男の行動は、もちろん故意であった。
 あっさりと絡めとられた指先はすぐにシーツへと沈み、外側から腰を支えていたものが無くなったせいで、手前にあったモノがより深く女の膣内へ押し進められる。
「もしかして、今のでイっちゃった?」
 五条の台詞に、組みしかれたままのなまえは口を結んだものの、その動作こそが肯定を意味していた。
「ねえ、教えて」
 それでもしつこく訊く男に、女は顔を逸らす。
 すると繋がれた手の奥に、未だダンボールと衣装ケースが積み上げられたままの、自室の状態が目に入った。
 なまえが足を負傷してから数日後には、五条の手配で暮らしていたマンション一室丸々の荷物がここにあった。隣の部屋には梱包すら解かれぬまま放置されている家電製品も多数ある。
 退院後まさかその日のうちから五条と自分が恋人のような触れ合いをし、その延長でおままごとのような家族ごっこをするとは、なまえは想像もしていなかった。たった四人の級友なので、それぞれを大切にする気持ちはあれど、学生時代の二人にとってそれは友愛でしかなかったはずである。
 ひたすら平行線をたどる五条の心に変化を加えたのは、間違いなく親友の失踪だ。気付けば、ただの友人だったなまえを囲い、縋らせ、罪悪感まで植えつける。男側の想いは、いつの間にか偏愛と言えるほどの執着をみせていた。
 一方、離反した夏油のその後の悪行も、意図的に耳に入らないようにされているなまえは、こんな風になってまで、あれは恩師の間違いで友人夏油傑は任務後ただ帰って来ていないだけ、なんて現実味のない捉え方をしている。
 きっと彼女にとって、級友の離反は五条との関係が変化した理由になってはいない。


 身体を倒し、なまえのうなじに顔を寄せた五条は、そこに所有の印を残していく。その都度身を捩り、中をキュッと締める彼女に比例して、自身も昂っていくのがわかった。一度絶頂にのぼりつめたなまえとは違い、五条はまだ欲を燻らせている。
「今日は私、全部気持ちいいの」
 吐き出してしまいたい気持ちと、快感の中に身を委ねたい気持ちがせめぎ合う最中。ポツリと呟かれた言葉に、五条はそれまでの性的な動きを止め、パチパチと二度瞬きをする。
 唐突な言葉の意味がよく理解できなくて、なまえの顔を見るために、汗ばみぺったりとくっついたままの身体を、彼は名残惜しくも起こした。
 離れた素肌から、熱が逃げていく。見下ろせば手を繋いだままの彼女が、顔を真っ赤にしながら泣いていた。
「もっとして、悟も気持ち良くなって。また二週間もいないのはイヤ」
 なまえはお世辞にも美しいとは言えない表情をしていた。しかしヘコヘコと自ら腰を揺らし、ポロポロと涙を流す女に、五条はかつてないくらい欲情する。
 ガツガツと彼女の最奥を突き立てながら、男はさらに深いところまで溺れていくのであった。
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