叔父が死のうが僕の立場は変わらないので好きにすればいい。一応これをオブラートに包んだ言葉で告げたのだが、向こうも向こうで遠回しにオマエの婚姻という言葉でなまえの事を持ち出す。アイツは僕の弱みじゃねぇっつーの。だから親族が集まる場に顔を出すのは嫌なのだ。
やはりと言うべきかどうでもいい話に結構な時間捕まり、結局離れの部屋へ彼女を迎えに行く頃には、葬式が終わってから二時間近く経っていた。もちろんその間、今回僕らの送迎担当にあたる高専関係者も待ちぼうけである。
「お待たせ、——なまえ?」
扉を開け名前を呼ぶも、机の上には茶菓子の空皿と湯呑みが残っているだけで、僕の幼い婚約者は部屋にいなかった。こんな事ならなまえだけさっさと高専に戻せば良かったと、一瞬嫌な想像が頭を駆け巡る。いくら身内ばかりと言えど、この家には僕にとって信用のおけない人間が多数存在するのだ。
しかし彼女の気配はすぐ近くにあった。僕は障子戸を大きく開ける。
「そんなところでどうしたの?」
「すみません、紫陽花があまりにも綺麗だったのでお庭に降りてました」
こちらを振り向いた少女は、垣根のそばに植えられた紫陽花のそばにいた。白、青、紫の花々に囲まれ、しゃがんだ体勢から立ち上がる。そして制服のスカートの皺を伸ばすと、すぐに僕の方へやって来た。
「とっても大きなお花で色も鮮やかで、さすがさとるさんのお家ですね」
「だったら切り花にして持って帰ったら」
「でも、」
「この離れはオマエが来るとき以外使われてないから、ここの花も好きにしたらいいよ」
もう一度部屋の入り口へ戻り、距離を保って僕のあとを付いて来ていた使用人を呼ぶ。ついでに僕の分の茶菓子も持ってくるように伝えた。二時間が二時間半になろうが、予定が押している事に変わりはない。連日の移動続きで、僕も少し休憩したかった。
靴をそろえ、室内に戻ってきたなまえの膝に頭を預ける。すると彼女は少し屈んで、僕のサングラスを外してくれた。
「そういえば僕と一緒に高専に帰ること、ご両親に言ってなかったの?」
「? 伝えてありましたよ」
「あとで迎えにいくって言っただけなのに、二人とも驚いた顔してたからさ」
僕がそう口にするとなまえは首を傾げたあと、合点がいったように表情を明るくした。そしていつも僕が彼女にするように、顔にかかった前髪を避けてくれる。
「私の両親が知るさとるさんは険しいお顔をされている事が多かったので、勝手ながらお優しそうな方で安心したと言っていましたよ」
くすぐったくもなまえは僕の髪を梳き続けている。そんなにも自分が彼女の前で気の抜けた顔をしていたのかと、僕は少しだけ恥ずかしくなった。