ふわふわと心地良い浮遊感に身を委ね、私は水中からキラキラと輝く水面を見ていた。光に向かって小さな泡粒が舞っているが、不思議と息苦しさはない。それに、ここが世界で一番居心地の良い静寂だと、脳が錯覚しだしている。このままどこまでも深く沈んでいけそうだ。
 ——私、一体これまで何してたんだっけ。
「ぷはっ」
「オマエ、本当に泳げなかったんだな」
「……だから、ハアハア、言ったっ、じゃん」
 リゾートホテルのプールを貸し切ったと聞かされて、カナヅチだからと私だけ除け者にされるのはとても癪だった。支給されたばかりのお給料を握りしめ、デパートの水着売り場へ硝子を引き連れて行ったのがつい三日前の出来事である。
 勧められるがまま可愛らしく、かつ体型カバーも可能なセパレートタイプの水着を購入し、多少の恥じらいと劣等感を持って(隣に並ぶ硝子はスタイル抜群だ)私はプールサイドで待つ同級生達の前に出た。
「せーのっ!!」
 だから笑顔で迫ってきた五条に、いきなり腹へ両腕を回されてジャーマン・スープレックスがごとく、プール内に投げ入れられるとは思いもしなかった。

「大丈夫?」
 水中では私の膝裏と背中を、五条の筋肉質な腕が支えてくれている。さすがに本気で溺れると分かってくれたのか、私は安定感を持って彼にしっかりと抱えられていた。俗に言うお姫様抱っこの状態である。つまり現在進行形で、私達は素肌で密着しまくっていた。
 ぶっちゃけると、水から出ている主に胸から上の感覚が鮮明でやばい。身体の半分以上が水に浸かっているせいか、妙に人肌を意識する生暖かさがあるのだ。
 そのうえ初めて生で見る五条の胸板が逞しすぎて、この男外見だけは国宝級で。まずい、夏の太陽や光り輝く水面だけじゃなくて。どうしよう、私本気で五条のこと眩しくて見れない。
「……あんまり大丈夫じゃ、〜〜!」
 突然暗い影に覆われ、青く煌めく二つの目玉が私に迫った。直射日光を浴びた透き通るような白髪から、水滴がしたたり落ちる。そう思った次の瞬間には、私は彼に唇を塞がれていた。
 熱い息とともに理解が及ばないまま舌が押し込まれ、まず手始めと言わんばかりに上顎を舐められる。それから歯茎をなぞるようにして、五条は逃れようとする私の舌へ自らのものを強引に絡めにきた。
 いつの間にか後頭部には大きな手のひらが回されており、彼に都合の良いように固定されている。そのうえ腕は腰部分に回り、身体同士もさらに密着していて。私は文字通り逃げ場を失っていた。水着の際どい部分をなぞるのも五条の指先だ。

 水中から助け出してもらった時と同じくらい息を乱された頃、私はようやく彼から解放された。
「なっ、なにして」
「苦しそうだったから人工呼吸だけど?」
 五条はしれっと涼しい顔をしていた。まだ暑い夏は始まったばかりである。
FIRST SUMMER