「はい、そうなんです。たまたま私は苗字が五条なだけで——」
となりのテーブルの対角席で、幾度となく繰り返される会話を俺は遠目に聞いていた。相手は違えど同じ内容の質問に嫌な顔ひとつせず答えるなまえは、案外人間が出来ているのかもしれない。
繁忙期とやらが過ぎ去り高専内にある食堂では、現在たこ焼きをしながら親睦を深める会と称した、新入生歓迎会が開催中である。呪術師がいくら個人競技といえど全校生徒が十数人しかいないせいか、俺が思うより術師同士の結束は固いようだ。男女入り混じり二つに分かれたテーブルには、四年生までのほとんどの上級生が参加しているとのことだった。
「なまえちゃん変わり種も食べる?これは多分ウインナーとチーズ」
「いただきます、美味しそう!ありがとうございます」
「熱いから気をつけな」
硝子とともに先輩方に囲まれたなまえは、ニコニコと愛想を振りまき勧められるがままパクパクとたこ焼きを頬張っている。居心地が悪そうに、俺達と教室で過ごすオドオドとした態度とは大違いだ。何がそんなに楽しいのか、正面に座った男からマヨネーズを手渡されただけでも微笑み返す始末である。
「ていうか、コッチがなまえちゃんでアッチは五条くんなんだ」
硝子の斜め前から、上級生の女が尋ねる。見覚えのない顔なので、おそらく今日がはじめましてなのだろう。
「向こうは図体も態度もでかくて、いかにも御三家の五条って感じじゃないですか」
「ふふ、確かにね」
オイ丸ごと全部聞こえてんぞ、硝子。知ってか知らずか、彼女は俺の方をチラリと見て勝ち気な表情のまま鼻で笑う。
それでなまえもこちらに気付いたのか、目が合うと狙ったようにへなっと可愛らしい困り顔をした。……ん?可愛らしい?
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後片付けまでしっかりと参加させられ、会もお開きになるのかと思いきや、誰が言い出したのか今日の写真を送るという名目で盛大な連絡先交換会が始まる。
女子の先輩達が一斉に傑に群がったのを横目で見つつ、俺は三年の吉田と赤外線通信をしていた。どうやら先日の一件がよっぽど悔しかったのか、すでになまえとは今日までにメールも電話番号も交換済みらしい。それで真っ先に俺のところへ来ただとか。
「なあ、あのときお前すっげー慌てて出てったけど、結局何がどうなったんだ?」
「あー…、なまえはなんて?」
「詳しくは話さなかったけど『五条くんが来てくれたので、なんとかなりました』って」
「ふーん」
ただの事実であるが、そう言われて悪い気はしなかった。アレは五条家にとっても上層部にとっても都合の悪い事件となり、俺にお咎めがなかったのも揉み消す事が最善だと判断されたからだ。
しかしなまえには嫌な思いをさせ、心の傷を残してしまった。多分言いたくない事まで、言わせてしまったし。その点に関してだけは、俺も罪悪感をかんじている。
「とりあえず今後同じような事は起こさせない、かな」
「まあ、お前ら二人とも無事に帰ってきたから何でもいいんだけどさ」
「……ありがとうございます」
吉田はなまえだけでなく俺も口を割らないと察したのか、それ以上深く聞くようなことはしなかった。それに一応先輩らしく俺のことも含めて心配してくれている。鈍い奴だが悪い奴ではないのだろう。
けれどコイツは最後に余計な一言である、今日イチの爆弾を落としていった。
「でもまあ、連絡先交換したときになまえには『今度からは何かあったら一番に俺に電話して』って言ったら『はい!よろしくお願いします』って言ってたけどなっ」
ふっざけんなよ!なまえのことに限っては毎回俺が一番に助けに行くわ!