そのうえ普段は絶対に自分からベッドへ誘ったりしないくせに、早く寝ようと僕の袖を引く始末だ。何かを追及されたくないのがバレバレである。
「へえ、じゃあ憂太は万年ビリ欠からようやく脱出したって訳だ」
「はい、なのでパンダくんが今度の掃除当番みたいです」
「憂太も頑張ってるね。そういえば今日職員室へ寄ったら、山神先生がやたらとなまえのこと褒めてたけど、普段どんな授業してんの?」
僅かな時間、幼い婚約者の表情が強張ったのを僕は見逃さなかった。このくらいの年齢になると、大人顔負けの表情で嘘をつく少年少女がいる反面、この子はいつまで経っても隠し事が下手なままである。
「……呪術の歴史だったり、呪霊についてだったり、主に座学です。先生は足を悪くされてますから」
あー、はいはい。確か四十半ばで大怪我を負い呪術師としては絶望的となったが、一線を離れて後進育成のために高専に残ったという美談を、本人から聞いたっけ。
隣に座ったなまえの首の後ろに腕を伸ばし、僕の方へ凭れ掛からせた。そして同じシャンプーの香りがする頭を、なるべく優しい手つきを意識して撫でる。
『本当によく気の利く子で——、見兼ねて肩も貸してくれて——、面倒な用事も付き添いも自ら買って出て——』
妄想入ってんだろと半分聞き流していたが全て男の主観であり、そこに少女の本音は含まれていない。それに彼女以外のクラスメイトは任務や体術訓練で忙しくしており、規約によりそこへ参加できないなまえが必然的に雑用を引き受けるのは、誰が見ても明らかだ。彼女が気を遣いすぎる性格であることも、僕はよく知っている。
『贔屓目に見なくても賢い子で——、娘にしては大きすぎる年齢ですけど——、今どき珍しく純粋無垢というか——、』
思い返すと、改めて気色が悪いと思った。そのような言葉が出てくるにあたって、一体どんな対象として一生徒であるなまえの事を見ているのだろう。僕の幼い婚約者であると知って口にしたのならば、さらに嫌悪感が増すばかりだ。
「……嫌だったら授業行かなくてもいいよ。仮病でも適当な用事でも、好きにでっち上げたらいい。あと何か言われたり頼まれたりしても、僕の名前を出して断っていいから」
「ありがとうございます。……たぶん、さとるさんに心配していただくような事は何もないですよ?」
「そう?」
それでも甘えるように擦り寄ってきたなまえを抱き上げ、僕らは寝室に向かった。
照明を落としキスだけをして、隣同士ぴったりとくっついてベッドへ横になる。けれどそのあとも、今夜の少女は眠りにつくまでやけに僕から離れたがらなかった。
その翌日、過度に前のめりになって幼い婚約者へ詰め寄る一教師の姿を、僕は視界に捉えた。