「ぁっ、……すみません」
あの場から一刻も早くなまえを遠ざけたいという思いが先走ったのか、いつの間にか一人で歩く時のような大きな歩幅になっていたようだ。肩を抱かれたままじゃ僕の歩く速度についてこれず、足を縺れさせ石畳で躓きかけた少女の身体を片腕で支える。
それにしても課題を理由に、なまえがアイツから共に過ごすことまで強要されていたとは思いもしなかった。僕の中では未だに怒りの余韻が沸々と煮立っている。あの男に対しては言わずもがな、言い出さなかった幼い婚約者にも、相変わらず頼りにされない自分自身にも。
「ごめんごめん。でも早く部屋に戻りたいし、抱っこしてあげよっか?」
「誰が見てるか、」
「今さらでしょ」
傾いた身体をひょいと抱き上げると、なまえは驚いた顔をして僕の首の後ろに両腕を回した。それから力を強くして、僕のシャツの肩口に深く顔を埋める。ちゃんとお姫様抱っこにしてあげようと思っていたのに、体格差のせいかこれでは本当に幼い子どもの抱っこのようだ。
しかし彼女がしがみついた事で体勢が安定してしまったので、僕はそのまま一直線に空中への階段を駆け上がった。一通りの屋根を見下ろせる高さまでやって来たところで、少女を落とさないようにしっかりと抱え直す。
「ひゃっ」
眼下の景色を見て、さらに怯えたのだろう。だがそんな幼い婚約者を宥める時間すら惜しくて、僕は部屋までひとっ飛びした。
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「靴脱がすよー」
やっと落ち着ける場所へ戻ってきても、抱きついて離れないなまえの頭を撫でてやる。すると半べそ顔をしたまま、少女はくすぐったそうに笑った。気に入らないところには真っ先に憎まれ口を叩く僕とは違い、彼女は相当な覚悟を持って口を開いたのだろう。僕の腕の中でこの子の緊張の糸が解けていくのを実感した。
ソファーに腰掛けた僕の膝の上にいるなまえと向かい合ったまま、ひとつひとつ丁寧に制服のシャツのボタンを外していく。恥ずかしがってする毎回の些細な抵抗も今日はされず、留めていたものが全て外れると、隙間から覗いた黒色のレースの下着に目を惹かれた。多分初めて見るものだ。自分で選んで買ったのだろうか。
そこをじっと見ていると、彼女はシャツを完全に脱がそうとする僕の指先をすり抜けていった。そして小さな手が僕の両頬に添えられたと思った次の瞬間には、ふにっと柔らかな感触を自身の唇に感じた。
どうやら僕はなまえから、触れるだけのキスをされたらしい。嬉しい不意打ちに、年甲斐もなくニヤけてしまいそうになる。
「昨日からやけに積極的だね」
「さとるさんが優しいから、つい。……ごめんなさい」
今度は僕の方から唇を合わせにいく。先程とは違って深く求めてもちゃんと応えるあたり、僕の教育の賜物といったところか。小さな舌がおずおずと差し出された。
キスをしながらシャツを肩から落とし、スカートのホックを緩めていく。腰のあたりを指が滑ると、なまえは僕の口の中に甘い声を漏らした。
「触られたりはしてない?昨日の夜みたいに誤魔化さないで、ちゃんと言って」
「……制服の上からですけど、肩とか腕とか手は。足のことを理由に」
「ふーん、そう」
あからさまなものはきっと口にした通りだが、それ以外にもあったのだと思う。少女はすぐ目が泳ぐので、嘘を見破るのは容易い。
スカートのウエスト部分とともに、下に履いているタイツの同じ部分に指を掛けると、なまえは少し躊躇いつつも腰を上げた。それらを一気に下へずりさげてタイツを足先から抜き、また同じように彼女を僕の膝の上に乗せる。分かりやすく腰を揺すると、幼い婚約者は顔を真っ赤にした。
見慣れなかった黒の下着も、今や他の衣類と同様にソファーの下へ脱ぎ捨てられている。ベッドと比べると狭くてヤりにくいが、結局僕はいつものようになまえに覆いかぶさっていた。
「やば、すげー気持ちいい」
僕の言葉のすぐあとにドロドロのナカがキュッと締まる。一度動きを止めて身体を倒し再び小刻みに僕が腰を揺らすと、上擦った声とともに横を向いた彼女は表情を歪めた。
「もしかして、ずっとイってる?」
耳元で囁いた僕の問いに対し、声にならない嬌声が返答としてかえってくる。なまえの横顔を覗き込むと、火照った頬には涙の跡があった。
胸の前で縮こまるようにされている腕は、縋るものがないからだろうか。強張った腕を解き僕の背中に回させると、汗ばんだ皮膚同士が密着した。境界が分からなくなっている下半身とは違い、自分とは違う彼女の体温を実感する。
「僕ももうちょっとでイけそうだから、あと少しだけ我慢して」
僕に押し潰されそうになりながらも、なまえは必死に喘いでいた。
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シャワーを浴びて戻ってきた僕の背中に、少女の重みがのしかかる。しかしそれは酷く弱々しく、不安を纏うものだった。
「私、さとる先生の生徒としてこれからも高専に居ても大丈夫ですか」
「もうアイツは接触させないし、ちゃんと事前に教えてくれたらもっと早く対処出来たと思うけど」
「……すみません」
恨めしく後ろを振り返ると、察したなまえは立ち上がって僕の正面に回り込んできた。胡座をかいた足の間に座った彼女を、僕は横抱きにする。
「それにただの生徒じゃなくて、オマエは可愛くて大事な僕の婚約者だよ。もっと頼ってよ」
おでこをコツンを合わせると、幼い婚約者はまた泣きそうになっていた。