朝食後、台所で後片付けをしているところに擦り寄ってきた悟は、エプロンの隙間からTシャツのなかに手を入れて、私の腰を撫で始めた。横にずれてもスリスリ、背伸びしてもスリスリ、しゃがんでもスリスリ。
それを無視して私は家事を続ける。あ、おしりも触った。大きな手は止まるところを知らない。
行為がエスカレートするその前に。私は恨めしい表情を精一杯意識して、後ろを振り返る。
「……起きてすぐのときに口と手でシてあげたでしょ」
事後シャワーも浴びず、朝陽が昇っても昨夜の格好そのままに眠っていたところ、太ももの際どい部分に違和感をおぼえたのが、私の今朝の目覚めであった。すぐさま行われた悟との攻防のなかで口淫を妥協点としたが、それは寝起きの回らない頭で講じた、その場しのぎの失策でしかなかったのだろう。
朝勃ちにしては元気すぎる彼のモノを口で咥えて、収まりきらない部分を手で扱いて、何とか射精までもってきたのは私が起床してから四十分後のことだった。今やその功績も全て水の泡になったと言わざるを得ない。
「全っ然足んない。やっぱり挿れたい」
「今日は一緒に新しいソファー見に行こうって言ってたじゃん」
「お出掛けデートよりも断然なまえとエッチしてたい。貴重な休みだもん。ね、お願い」
背中にぴったりとひっついた悟は、長い腕で私をそのままホールドして、上半身ごとのしかかってきた。でかいし筋肉質だし普通に重い。このままじゃ潰れる。彼は自分と私の体格差を全くわかっていない。
「苦しいよ」
「ごめんごめん」
絞め技に近い腕の圧が緩んだ。かと思えばいつの間にボタンを外されたのか、エプロンがすとんと床に落ちる。
そして無駄に器用な男は、すでにTシャツの中へ潜り込ませた両手で、私の両胸を下着の上からしっかりと揉んでいた。愛撫と言うには力強い触り方に、私は眉を顰める。だが悟は泣き言のひとつも聞いてくれず、挙げ句の果てには「家ではブラしないでよ」などと耳元で囁く始末である。
「わっ、」
今度はくるりと半身を翻され、拭いたばかりの調理台の上に座らされた。おしりと太ももに、ひんやりとしたステンレスの感触が広がる。
悟と私は正面から向き合った。さらに言うと、先程の体勢では腰の辺りに押し付けられていたモノの存在について、私はわざと気付かぬふりをしていた。だが真ん前から見下ろすと、彼の下半身の一部分は無視できないほどの盛り上がりを見せている。
「なまえ……」
そんなうっとりとした表情で見つめないでほしい。システムキッチンの上に乗せられたことで、ほぼ同じ高さとなった青い目が近づいてくる。
だめ、その言葉を飲み込むように唇が重なった。
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「生まれたての子鹿じゃん。ウケる」
シンクに掴まり、足を震わせながらおしりを突き出す私の姿を見て、悟はくつくつと笑う。彼は誰のせいで私がこうなったと思っているのだろう。焦らされ未だかと急く思いに従うも、僅かな理性は恥じらいを正解としていたのに、だ。
それでも人肌を近くに感じ、やっと挿れてもらえるのだと脳は歓喜する。同時に耳を喰まれると、胸とお腹の奥がキュンとした。苦しくて切ない。それでいて愛おしい。
「それじゃあ一緒に気持ちよくなろうね」
散々ほぐされたにもかかわらず、押し込まれる質量に「くっ」と私の喉が鳴った。半日と経たない時間のなかで、散々咥え込んでいたのだ。入らないはずがない。
慣らすために加減を抑えてゆるゆると動かれると、圧迫感ですら順調に快楽へ塗り替えられていく。私は行き過ぎたそれから逃れるため腰を引こうとするが、背中を押しつけられると彼を喜ばせる反応をするよう、身体が躾られていた。普段調理に使用する場所で私の胸が潰れる。けれど火照った身体には、それがやけに冷たくて心地良い。余裕がなくなるにつれて、思考がどんどんと単純化されていく。
「そろそろイきそう?」
うわ言のような返答しか、私の口からは出来なかった。それでも彼にはきちんと伝わったのか、押さえつけていた手の力がふいに緩み長い指がつーっと一本、私の背中をなぞった。
「〜〜っ!!」
「ホント背中弱いよね」
私が一度達したところで、硬さと質量を保ったままの悟は抽送を続ける。だから朝からするのは嫌なのだ。
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「僕は今からでもお出掛け出来るよ」
「私は無理……」
悟に続き、私がもう一度シャワーを浴びて部屋に戻った頃には、時刻は正午を少し回っていた。ここまで身体を求められると、彼は絶倫というよりはセックス依存症なんじゃないかと、私は自分の恋人を疑っている。
「じゃあ今日は僕がお昼作ってあげる」
ルンルンと鼻唄でも歌い出しそうなほど上機嫌な彼は、軽い足取りで奥の台所へと消えていった。どこぞの棚から乾麺を見つけたのか「ざる蕎麦にしよー、うずらがあるから卵も落とそー」なんて愉快な独り言も聞こえてくる。
私はというと食欲よりも疲労感で眠気が勝り、このまま寝落ちしてしまいそうだ。重い瞬きを繰り返すまぶたは、蕎麦が茹で上がる頃まで果たして持つだろうか。