とある午後のこと。上層部のジジイ共からの呼び出し後、僕は不快な気分のまま高専内を歩いていた。可愛い生徒の任務には引率出来ないのに、成長の見込めない老害に割く時間があるのが不思議で仕方がない。学長からは拳骨をくらったが、優先順位が狂っていると吐いた僕の方がよっぽど常識人だ。
 まだまだ高い位置にある太陽からの木漏れ日が、校舎内にも差し込んでいる。長閑に思えるようで、長い一日のなかでもうひと騒動ありそうな妙な予感がしていた。
 移動の途中で医務室の前を通ると、見知った気配が固まっていることに僕は気付いた。ここで勤務する友人のものだけでなく、フリーで術師をしている先輩と、僕の愛しい恋人なまえのものである。彼女も同じく高専内に部屋を借りているが、多忙が極まりこの数週間ろくに会えていない。顔を見がてら癒してもらおうと、僕は扉に手をかけた。
 しかし開かない。管理者が在室中のはずなのに、なぜか医務室のドアは施錠されていた。鮮明ではないにしろ扉越しに僕の目で捉える三人の距離は近くて、硝子が反転で治療をしている様子もないため、内緒話でもしながら何か良いものを食べているのかもしれない。
 仲間に入れてもらおうと、僕は強引に入り口をこじ開けた。そしてずかずかと奥のベッドへ進み、彼女達を隠すカーテンを引く。だがそこには、僕の想像を絶する淫靡な光景が広がっていた。
 純白のシーツの上には三人の女達が重なり合っており、衣服をはだけさせた僕の恋人は先輩に口づけをされながら、下着を押し上げた友人に胸の先端を咥えられていた。
 ワンテンポ遅れて白い頭が離れ、蕩けきった顔のなまえと目が合う。どこか焦点が合っていない気がするが、濡れた唇には彼女のものでない口紅の色が移っていて、胸には覚えのないキスマークが点在していた。
「ねえコレ、どういうこと」
 目隠しをしたまま僕は、女それぞれを睨みつける。自分でも空気が張りつめたのがわかった。やはりなまえは正気でないのか、こんな場面でも物欲しそうに、口づけを交わしあっていた冥さんをうつろな視線で見つめている。
「そう責めないでほしいね。気の知れた女同士の、ただのお戯れだよ。五条くんから大事な恋人を奪おうって訳じゃない」
 編んである長い前髪を翻し、沈黙を破る形で冥さんが口を開いた。けれど皺になったシーツの上で、なまえとは手を繋いだままである。ちなみになまえのもう片方の手は、硝子の指先を赤ん坊のように握っていた。
「じゃあコイツのこの状態は?」
「冥さんのお土産のローズヒップ、ただ紅茶を飲んだだけだよ。海外製だけど市販品だし、ちょっと気持ち良くなるだけでおかしな成分は何も入っていないはずなんだけどね……。まあなんと言うか、なぜかこの子だけ毎回ガンギマリしちゃうんだよ」
 硝子は身体を起こして衣服を整えながら、責任逃れするようにサイドテーブル上にあるティーポットと三つのティーカップを指差した。半分以上中身が残っているが、つまりこの場にいる全員がそういう目的で飲んだという事だ。そして毎回を言い換えると、初回を経て二回三回と回数を重ねたという事である。
「全て理解したうえでの利害の一致ってやつさ。彼女、君に会えない日が続くと随分さみしい思いをしているようだよ」
 口をはくはくと動かし、何かを言いたげになまえが僕を見ていることに気がついた。屈んで顔を近付けると、二人の手を離して僕に向けて腕が伸ばされる。
 やばい、可愛い。まるで子猫や子犬に懐かれたかのような、キラキラとした優越感が胸に溢れた。と同時に黒々とした独占欲も。そのまま抱き起こして、彼女は僕の部屋へ連れ帰ることにした。



 僕からの前戯なんて必要ないほど、なまえはぐずぐずに濡れていた。しばらくシていなかったとは思えないほどナカも柔らかくて、今更ながら硝子の指先がテカっていたことにも納得がいった。
「僕以外にさせてんじゃねーよ」
「ごめ、ごめんなしゃ、」
 言葉は出るようになったが、まだ呂律が回っていない。キスをして舌も入れたが何となく甘いだけで、なまえの口の中にはすでに紅茶の風味も残っていなかった。けれど異常な反応の良さは継続している。
 紅斑が散る胸を持ち上げるように揉むと、彼女は声にならない声をあげてキュッと目を瞑った。先端を摘むと、さらに身体ごと縮こまる。脱がす過程で腰回りや臍の下に触れた時もそうだった。
「気持ち良いの?」
 僕がそう問うと、なまえはしゃくり上げるように何度も頷く。それこそいきなり挿れたら、失禁するんじゃないかと思うくらい。馬鹿みたいに可愛い。
「硝子や冥さんとスるときは、どこまでシた?オモチャとかも使ってたの?」
「指らけ、指で浅いとこ、触るらけなのっ。だって女同士だもん……!」
「ふーん」
 いま僕が揉んでいるのは胸なのに、期待を膨らませたのかなまえは内股で足をもじもじさせる。彼女の期待に応えてあげたい気持ちはあるが、今示してほしいのは僕への誠意と反省の色だ。
 けれど手の甲になまえの細い指先が重なったと思ったら、彼女は両手で僕の右手を持ち上げた。そのままでいるとベタベタの下半身まで誘導され、柔らかい内腿に僕の手は挟まれる。それだけでもなまえには刺激になっているようだったが、割れ目に僕の手を押し当てて自ら小刻みに腰を揺らしだすと、さらに気持ちよさそうに啼いた。
 ——上等だよ。



「ふぁ、……あんっ、あ、あー!」
 細腕を掴んで胡座をかいた僕の上に彼女を乗せると、なまえは金切り声のような喘ぎ声をあげた。力の入っていない弱々しい身体は重力に従い、浅い位置にいたモノを一気に奥深くまで咥え込む。逃れられないように背中に腕を回してギュッと抱きしめると、ナカはとろとろなのになまえはしっかり僕を締めつけた。
「イっへるの、やらっ……ひゃっ、ムリっ!ムリ〜〜!」
 軽く揺すっただけでもこの反応である。僕まで感覚がバグりそうだ。繋がっている部分はかつてないほど熱くて、僕と彼女の境界線が溶けだしている。今思えば覆いかぶさって最初に突っ込んだときに、僕を濡らした温かいものは潮だったのかもしれない。あんなのAVの世界だけかと思っていた。
「ねぇ、今オマエを気持ち良くしてるのは誰?」
「ふぇ?」
「だーかーらぁ」
「ああっ、あ……!さとる、さとるなの!」
 下から突き上げると、力なく僕にしがみつくなまえと肌がぶつかり合い、パンパンと下品な音が鳴る。過去には理性を忘れたように目の前の恋人を抱いた事もあったが、さすがにもっと気遣いがあった気がする。動きを止めて肩で息をする彼女の口を塞ぐと、どっちの唾液か分からないものが顎を伝った。
 繋がったまま仰向けに倒れて、僕は再度なまえを掻き抱く。当たる位置が変わっただけでも、盛大に喘いでくれるんだもんな。硝子も冥さんも手慣れてそうだし、行き過ぎた快感の前には数週間単位で会えない恋人なんて、忘れ去られるのが世の中の常というものだ。
 僕はこうやって抱き合っているだけでも幸せを実感出来るのに、彼女はそのうち刺激が足りなくなって自ずと腰を振りだすのだろう。耳のそばで息を吐いただけなのに、性懲りもなく僕の恋人はなんとも言えない声を漏らした。
 悦楽を欲する涙目のなまえと近い距離で見つめ合う。僕にはコイツしかいないんだけどなあ。
「オマエは誰のものなの?」
「……あなたのもの」
 力なく重ねられた唇は、今日のどんなキスよりも愛情が込められていた。



「じゅっ、十万円!?」
「うん、それで残り全部譲ってもらったの。もう硝子のところに行ってもないからね。あと冥さんも今後は僕にしか卸さないってさ。——それじゃあ今から僕とも三時のティータイムしよ」
 茶葉たっぷりのティーポットに、僕は電気ケトルからお湯を注ぐ。一応ローズヒップに合いそうなクッキーも調達してきた。食べる余裕があるのかは分かんないけど。
 逃げ出そうとするなまえを抱きしめて膝の上に乗せた。きゃんきゃん喚いているが、可愛いとしか思えない。やっぱりさ、大好きな恋人と気持ち良くなれるのが一番イイに決まってんじゃん!
秘密の花園