五条家の使用人達にとって、現代最強の術師であり、実質当家の実権を握る悟の婚礼の儀が、昨年盛大に執り行われた事は記憶に新しい。
 彼自ら選んだ相手が、散々嫌悪していたであろう代々続く術師の家系の女だった事には皆驚いていたが、恋愛結婚だった事にはさらに驚きを隠せなかった。
 そして正月の半ば頃。新年の挨拶にと、悟が新妻を連れて実家を訪問したことにより、五条家の使用人達は再び大混乱を極めていた。
「初詣帰りに、両親の顔だけ見て帰るつもりだったんだけど。ねえ、なまえ」
「……はい、ご挨拶だけでもと思いまして」
 年末年始というのは、前もって決まっていた親戚の集まりや滞在などに加え、今回のように挨拶を兼ねた予定外の訪問など、本家の人間にとって最も多忙な時期である。その対応の順序や段取りを組むのは使用人の役目ではあるが、当主よりも権力を持つものの来訪となれば、現場は大慌てとなる。
「滅相もございません。お部屋を用意させて頂きましたので、どうぞこちらへ」
 その慌ただしさを感じさせない、悟の教育係も兼任していたという馴染み深い女が、長い廊下を経て静かな離れの一棟へと、二人を案内する。当主直々に強く引き留められた彼らは、もてなしをうけるため一晩の滞在を余儀なくされた。
 足取りの重いなまえに比べ、面倒くさいなあと呟きつつも、妻の肩を抱く悟の口角は上がっている。幼い子どもが悪巧みをしているような無邪気さが、まるで隠しきれていない。あらかじめ事を予想していたようである。
「では、十七時五十分にお迎えに上がります」
「はいはーい。食事の件、頼んだよ」
「承知しております」
 彼の言葉は絶対だ。滞在中の食事にあたり、元来親戚が一堂に会する場などを好まない、悟が出した条件は『酒なんかを注ぎに回らなくてもいい、十人以下の部屋にして。あとジイさんやおっさんばっかの席は、なまえも嫌だろうから女の人も居るようにして』というものだった。それが無理なら、ここまで二人分の食事を運ぶ約束となっている。
 命を受けた女は、この足で当主へ相談に行くのだろう。すでに準備が始まっている大広間の会席会場は、席順の段取りから全てやり直しだ。



「スポーツのやつ、何時からだっけ」
「……確か、六時だったと思います。長いので録画してありますよ。悟さん、楽しみにしていらっしゃるようでしたから」
「さすがなまえ!」
 十八時になり、彼らを含めた三組の夫婦と、中年層の男が四人同じ席についた。悟が次期当主となった際に、少しでも位の高いポストを貰おうとする野心の強い男ばかりである。
 これを機にと、彼が中心となる話題を周囲は振るものの、その瞳は隣の妻しか映しておらず、結果は出せていない。
「ねえなまえ、このお肉食べた?美味しいよ」
 着物の上から彼女の太ももに手をやり、顔を寄せて彼は言う。
「いえ、まだ。頂きますね」
「あーでもなまえにとっては、ちょっと脂っこいかも。無理しなくていいよ」
「そうですか。んっ、でもせっかく悟さんが勧めてくださったので……」
「あの、奥方はあまり箸が進んでいないようですが、ご気分でも——」
 完全に二人の世界を作り出す悟に対して、出世のため少しでも彼の記憶に残りたい男が口を挟む。
 けれども、それが失策としかならなかった事は誰の目から見ても明白であった。
 その瞬間にサングラスの奥から、吹雪を連想させる冷たい眼光が放たれる。
「緊張してんだよ。あんまりジロジロ見てやんないでくれる?」
「決してそのような事は!」
「あーはいはい。なまえ、大丈夫?」
 心配した悟の手が、彼女の背中をさする。
 すると女はビクッと肩を震わせ、過剰なまでの反応をみせた。
「!はい、すみません。このような場に慣れないもので」
 そう告げるとなまえは真っ赤な顔を隠すように、うつむき加減となる。着物の中で膝を擦り合わせており、照れてというよりは間違いなく色気を含んでいて、その動作に周囲の男達は唾をのむ。
 これには悟も、さすがにまずいと思ったのだろう。彼は意図して空気を変えた。
「今日は朝から初詣も行って、やっぱ疲れてるのかも。部屋連れて帰るわ。なまえ、行くよ」
「っ、申し訳ありません、」
 悟は彼女の腰を支えて立たせると、そのまま出入口へと足を向ける。そして軽々しく片手を挙げて言った。
「じゃあ、あとはよろしく」



 女は男に抱えられるようにして、今晩の寝床となる離れへと急ぐ。冷たい夜風に当たっても、一度昂った熱は冷めてくれそうになかった。
 運良く誰ともすれ違わずに目的地まで戻ってくると、なまえは悟の胸に寄りかかり、上着を掴んで涙目で訴えた。
「お願い、もうつらいの、抜いてっ!」
 部屋の襖を閉めたと同時に、先程までの丁寧な口調を忘れて懇願する彼女の頬は、ただ火照っているだけと言うにはあまりにも無理がある。朝から挿れられたソレの快感をひろい尽くしたなまえは、もうとっくに我慢の限界を超えていたのだろう。
 情事中を思い起こすその表情に、悟は満面の笑みを浮かべた。
「可愛いなまえの姿が見れて僕も満足だし、いいよ。帯解いてあげる、反対向いて」
 素直にくるりと向きを変えた女の腰に、男は手をやった。
 シュルシュルと音を立てて落ちた帯を皮切りに、彼の手によって着物は一枚一枚、畳へと脱ぎ捨てられていく。
 高級な衣類の形が崩れる事も厭わない。重力に従って落下していくそれらに、悟の関心が向く事はなかった。それよりも、自ら着付けた着物を乱していくことに、欲は正直になっている。
 下着の類は身に付けていなかったのか、途中襦袢の上からでも突起するなまえの二つの乳首が見てとれた。普段なら執拗なまでに捏ね回されるそれも、今の彼は目もくれない。
 蝶結びしてあった最後の紐を悟が解くと、残りの布が彼女の肩から全て滑り落ちていった。すると女の真っ白な背中があらわになる。続いて丸いおしりが見えたところで、その下部には通常では考えられない物があった。
 そう、これこそが悟の手によって着物を着付けた時間から今の今まで挿れられ、彼女が彼に抜いてほしいと懇願するモノの正体だ。彼女のおしりには、うさぎの尻尾を模したような白い綿の塊が挟まっていて、その奥の穴にはプラグが挿し込まれていた。

「布団のところで四つん這いになって」
 ぐすぐすと鼻を啜りながら、なまえは悟に言われた通り、部屋の中心に並んで敷いてある敷布を目指す。
 そこへ乗り上げると、彼女は両肘と両膝をついて尻を突き出した。彼もそれに続く。
「結構ぐっぽりいってるね」
 尻肉を割り開き、同じ高さに顔を合わせた悟は言う。
 本来は排泄の役目を果たす穴でしかないなまえのその場所に、今は男性の親指程度の太さものが突き挿してある。何の為かと問われるならば、目的は快楽を得るためだ。
 よく見ると、うさぎの尻尾は本体であるプラグの上に固定されているだけで、ただの装飾品だった。
「嫌っ、近くで見ないでっ」
「じゃあ、力ずくで抜いていい?」
「それはダメっ、見ていいから、ちゃんと抜いて」
 彼女は首を振るのと同じく尻を揺らす。
 こんな風にぐずぐずになっていると、本当に拒否されているのか、口ではそう言いつつも誘われているのか、時々悟には判断がつかない。
「まさか僕のこんなにも可愛いお嫁さんが、おしりまで調教済だなんて誰も思わなかっただろうな」
「言わないでえ」
 啜り泣き、羽布団の上にへたり込みそうになる彼女の腰を、彼は自らの腕で抱え直す。そして、ゆるゆると浅い位置でプラグを抜き差ししながら、とても楽しそうに続ける。
「下着はつけてないのに、こんなの一日中おしりの穴にいれてさ。初詣中も、両親と話してるときも、使用人の案内中も、さっきのご飯食べてるときも、ずーっとウズウズしてんの。僕がちょっと身体に触れただけで感じちゃって、ホント可愛すぎだろ。なまえ才能あるよ」
「んっ、ふっ、悟が私をそうしたの」
「うんうん、そうだったね」
「ああん!」
 何の前触れもなく、彼はそれを引き抜いた。彼女の悲鳴に似た喘ぎ声が、奥行きのある部屋でこだまする。
 今の刺激でイってしまったのか、なまえはぐったりと布団の上に倒れた。深く感じているのか、ビクッビクッと身体がわずかに痙攣している。
 しかし遠慮も何もなく悟はその上にのしかかり、耳元で囁いた。
「さあ、ここからが本番だよ。みんなに期待されてるみたいだから、今度はこっちで赤ちゃん作ろっか。いっぱい射精して、いっぱい気持ちよくしてあげる。どのくらいで孕むのかなあ、楽しみだなあ。……ね、なまえ」
 すでにぬかるんでいる、彼女のもうひとつの穴に彼が指を挿し入れる。
 すると女はそれが返答であるかのように、男の指三本をキュっと締めつけた。
Mrs.Bunny