一気に数十階も上昇する浮遊感に伴い身の置きどころがなくて、私は思わず五条さんの手を強く握ってしまう。すると彼は「乗り合わせはないから大丈夫だよ」と言い、私の不安とは少し違っていたが優しく手を握り返してくれた。
五条さんを盗み見ようとした奥の鏡には、すっかり彼に絆されてしまった自分の姿が映っている。この人の悠然とした姿はいつもと変わらないのに、あまりにもうっとりとした自分の表情は見ていられなくて、私は鏡から視線を逸らした。
降りた先では誰ともすれ違わないまま大理石風の廊下を進み、気がつくとルームキーと同じ客室番号のドアの前までたどり着いていた。ここでも五条さんは余裕の表情を崩さない。片手を繋いだままなのに一切の無駄なく入口が開錠される様子を、私は他人事のように見つめていた。
一歩先に暗闇の中へ彼が消えていく。私も部屋へと引き込まれ扉が閉まると、先程までのスマートな動作とは一転して、突然身体を引き寄せられた。それから間もなくして、覆いかぶさるように口づけが落とされる。
「ん、……ふっ、あ……っ」
角度を変えて、合わさるだけのキスが続いた。けれどその最中で背中に回された腕に力が籠もり、上唇を強めに吸われる。
私は彼の名前を呼ぼうとした。けれどこの人が、その隙を見逃すはずもない。抵抗する間もなく咥内へと舌が這入ってきて、上顎から順に彼の熱を教え込まれていく。
舌を舐められると、自分でも知らなかったおなかの奥がゾワッとした。それからそこを起点に、まるで快楽物質が溢れ出しているように熱くなってくる。気持ち良すぎるキスから逃げたくて顔を逸らそうにも、すでに後頭部には大きな五条さんの手が回されていた。
「……っ、む、んん……ぁっ、」
「はあ……ん、」
彼の吐息が私の口の中で漏れる。その頃には自力で立てないほど、私は彼の口づけだけで腰砕けにされてしまった。
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「いい?」
二人分の体重で深く沈んだベッドの上で、五条さんは私の胸の先端をくにくにといじりながら、今更ながらに同意を求めた。またキスをされそうだと思ったので、今度は先に顔を背ける。
「……だめ」
私を覗き込んだ彼の頬は紅潮していた。私も疼き火照った身体に嘘はつけない。けれどこれ以上先に進んでしまったら、自ら引いた一線に対し私の方が後戻り出来なくなるような気がしていた。
「まさかここまで来て断られるとは僕も思わなかったなあ。なまえさあ、こんなにグズグズなのにほんとにダメなの?」
「やっ……ん……っ、ぁ……!」
意地悪な質問を返す彼は、すでにぬかるみの中にある指をバラバラと動かし、親指で外側から私の胎を押す。それから顔を背けた事を咎めるように、首筋からうなじにかけて舌が這った。チリっと痛みが走った箇所には、痕をつけられたのだろう。身体が跳ねる。
しかし指の動きが激しくなると、再び下半身に意識を引っ張られた。あられもない声を恥じてキュッと口を結ぶと、さらに陰核を捏ねられる。
「まだダメ?」
今度は耳元で甘い声が囁いた。
入り口に彼の先端があてがわれたところで、この空間に耳を塞ぎたくなるような湿り気を纏った音が響く。しかし構わずに、堪え性がなく腰を揺らす私に目を細めた五条さんは、ゆっくりと丁寧な動作で体重をかけた。
彼が時間を惜しまず解してくれたおかげで痛みはない。だがそうされると、実際は押し広げられているのに私が望んで飲み込んでいくような感覚に陥った。彼の身体が前のめりになるにつれてどんどんと繋がりが深くなっていき、この人とともに沈んでいく自分に不安が襲う。
「こわい、」
ポツリと呟いた私の言葉に、彼は動きを止めた。自分でも今にも泣き出しそうな表情をしていることがわかる。
退職を引き留めるために優しくされたと、割り切っていたはずなのに。私は手が届きもしない、特別であるこの人の気持ちまで欲してしまった。はち切れそうなほど想いは膨らみ、夢の終わりが近づいていることを実感する。
「五条さん、すき」