彼への抑えきれない想いが溢れ出した、嘘偽りない心からの言葉だった。
けれど口にしてしまってから後悔した。本気になられても、彼も迷惑なだけだと容易に想像が出来たからだ。ずっと前から知っている。五条悟という人間は、私みたいな凡人から求めてはならない特別な人間だ。
共にシーツの海に沈み、見上げればすぐそばにある繋がったままの五条さんの顔を、私は怖くて見れない。この人を繋ぎ止めるだけの材料なんて、私はひとつも持ち合わせていない。それでも彼が離れていくと思うと、とても悲しくなった。
しかし、そっぽ向いた私の顔に影が覆いかぶさる。その瞬間、唇の端の方に柔らかいものが触れた。私はもうその感触を覚えている。
「なまえ」
呼ばれた自分の名に強制力はない。だけど視線を戻すと、五条さんはうっとりとした表情で私を見ていた。白い肌に映えるように頬だけが紅潮している。
彼が体勢を変えたことで腰が浮いた。不安定にならずに済んだのは、この人が私の下肢をしっかりと抱えているからだ。膝を立てた五条さんは、それ以上何も言わずに律動を再開する。
「あっ、あ、……ゃ、っ!あん、……ぁ、むっ、ふっ、ああ……!」
肌がぶつかると同時に漏れ出す私の声は、もはや止めようがなかった。口を閉じようとしても、五条さんは容赦なく私を突き上げるため自分ではどうにもならない。
自分の指では届かない場所を擦られると、のどの奥がくっと鳴った。いや、いやと首を横に振るけれど、実際はちゃんと気持ち良くなっている。揺さぶられながら涙が出た。本当にどうしたらいいのか自分でもわからない。
「こわく、ないから。……はあ、はあ。なまえ——ちゃんと、僕を見て」
涙で滲んだ視界に彼を捉えると「えらいえらい」と言われ、またキスが降ってきた。啄むような口づけが続き、薄く開いた口の中で舌先だけが触れ合う。
「あっ……!ごじょ、さん……わたし——」
「っ、!」
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彼に続いてシャワーを浴び終わりバスローブを羽織って部屋に戻ると、五条さんはリラックスした格好で自身のスマホを見ていた。すでに寝巻き用のガウンに着替えており、顔を上げた彼においでと手招きされる。ベッドの端の方に腰を下ろすと、長い腕が伸びてきておなかを一周した。
「もう寝る?それとも、もう一回戦する?」
深夜二時を過ぎているというのに、器用な指先はバスローブの結び目を解きにかかっている。顔を彼の方に向けると、まんまるの蒼い眼に見上げられていた。やっている事のわりには、顔つきはどうしても幼く見えてしまうので、どうにも扱いに悩む。
「……五条さん、これ以上私に好かれても困るだけなんじゃないですか」
けれどもついつい口先を尖らせて、私はまた可愛くないことを言ってしまった。手に入らないと分かっているからこそ胸が苦しいのに、この人の言動は平気で私の心を掻き乱す。
回された腕を解くために、私は身体を捻った。一切の悪びれなく、きょとんとした表情すら憎らしく思えてくる。
「なんで?気になってる女の子が——、って僕言ったじゃん」
けれど彼によって、立ち上がろうとしていた身体をぐっと引き寄せられ、瞬きの次の瞬間には厚い胸板が目の前にあった。額に落とされたのは多分五条さんの唇だと思う。
「僕のこと好きすぎて、こんな風にいじけてるんだったらなまえは可愛いね」
顔を上げると、正解を告げるかのように今度は目尻にキスをされた。もう泣いてはいないのに、執拗に柔らかいものが触れる。そうすると焦らされている気分になった。
「僕の専属になる?って聞いたのも、冗談じゃないからね」彼はそう言って、再び無邪気に笑う。そしてすでに皺くちゃになっているシーツに、さらに皺がよるのも構わず身体を丸めた。
温かくて、優しくて、胸がつまる。もうこの気持ちを都合の良く誤魔化すことは出来なかった。
一際輝く星のような五条悟という人間に惹かれてしまった私は、彼を——。