午後の授業が終わり、クラスメイトである友人達と放課の時間を過ごしたあと、私は寮の部屋へ戻るため廊下を歩いていた。すると突如私の身体ごと、暗い空き教室へと引き摺り込まれる。
「——ねぇ、恵と悠仁と何してたの」
 耳元で低音が響いた。とてつもなく驚いたときというのは、どうやら人間本当に声が出ないらしい。
 こんなことをする人物に大方確信を得ているが、姿を確認しようと身を捩ったところ抵抗とみなされたのか、ガッチリとした腕に無理矢理身体を引き寄せられる。そして学ランの下から差し込まれた反対の手が、シャツの上で私の片胸をギュッと鷲掴みにした。
「っ、」
「ねぇって」
 痛みと怯えで涙目になる。けれどもそれしきのことで、彼の感情が動いたりはしない。それはこの数ヶ月間で十分に思い知らされている。私は絞り出すような声で小さく叫んだ。
「このあいだ、この間の、任務のときの反省会をしてただけ、それだけです!」
 家の者は見初められたと喜んでいたけれど、言うなればまるでいじめの標的のように彼に目をつけられてしまったと、私は思っている。
 家長の命により入学した呪術高専で、あの五条悟が担任教師だと知らされたときは耳を疑った。けれど私が一方的に畏怖の対象として彼を知っていただけで、最初は他のみんなと変わらず、私達は一教師と一生徒という一般的な距離感を保っていた。
 けれどあるとき、その関係性が崩れる。図書室でひとり過去の資料を漁っていたときのことだ。
「懐いてないなぁとは思ってたけど、何?オマエ誰か偉い人にでも僕の弱点探ってこいって言われた?」
 高い位置にある一冊を、私は背伸びをして取ろうとしていた。すると後ろから伸びてきた手が、あっという間にそれを掻っ攫っていく。
 振り返ると私のすぐ後ろには、担任教師である五条悟がいつもの黒ずくめの格好で立っていた。そして古くさい本のページをペラペラと捲りながら、先述の言葉を口にしたのである。
「質問の意味わかる?」
 私が俯いて押し黙っていると、顎を持ち上げられて彼の青い目がすぐそばまで迫った。逃してもらえそうにないことは、鈍い私でも察することが出来る。そのため緊迫した空気感のなか、カラカラに渇いた喉からどうにかして私は言葉を押し出した。
「わかり、ます。そんなことは、決して、していません。ただ……先生が怖くて。だから、知ろうとしただけです。悪意はありません」
「ふぅん。——じゃあ僕が怖くないってこと、きちんとなまえに教えてあげなきゃね」
 怯えた理由は未だにはっきりしない。けれどまだ幼い頃ただ遠くで彼を見かけた日から、今や現代最強の術師と言われるこの人が私は怖かった。



 長い指で太ももをなぞられて、流れに従い下着の淵に爪先を引っ掛けられる。言われた通りに片足を抜くと膝裏に腕を回されて、ろくに解されてもいないのに彼にそのまま貫かれた。
「ぁっ、だめ……、だめっ」
 つま先立ちの片足では自身の身体を支えきれず、思わず彼の大きな身体にしがみつく。すると繋がりがより深くなって、私はさらに甲高い声を上げてしまった。
「っ、……はあ。外に聞こえちゃうよ」
「ああっ!」
 唇を噛み締め首を横に振ると、今度は当てつけのように制服が肌蹴た肩口に噛みつかれた。きっとしばらくの間、歯形が残るだろう。彼はいい大人なのに、いつだってお構いなしだ。
 そのようにして無茶な体勢で揺さぶられ続けると、自己防衛の一種なのか快楽に思考が飲まれそうになっていく。それでも残った理性で、野薔薇ちゃんと一緒に着替えるときに見られないよう気をつけなければならないと、私は他人事のように思った。
「ねぇ、この前の生理っていつだった?」
 動きにくいと言って一度抽送を止め、彼は近くの机に私を寝かせた。火照った背中に冷んやりとした机の温度が広がるなか、五条悟は繋がってなお私を囲うよう顔の横に両手をついて、そう問う。
「はあ、はあ……三週間ほど、前です」
「じゃあ出来ないだろうし、そのままでいいよね」
 それは同意を求める言葉ではなく、確定事項として伝えられた事実であった。やだやだと私がいくら泣きじゃくろうが、その後も行き場のない感情をぶつける無遠慮な性行為は続く。そして私を押し潰すように覆いかぶさり、うなじにもうひとつ噛み傷をつけたあと彼はようやく吐精した。



「ベッドの上じゃないんだからさ。いつまでそうしてるの」
 そんな風に言われたところで、私は学生机の上で仰向けの体勢まま未だに動けないでいた。呼吸はいくらか整ったが、確率は低いにしろ避妊してもらえなかったという絶望と行為後の身体の倦怠感で、とても身体を起こせる状態ではない。
 口を閉ざしたままでいると、見兼ねた彼が外されたシャツと学ランのボタンを閉めて、私を抱き起こした。すでに制服のスカートを汚してしまったが、それでも私が何も出来ないでいると、内腿を伝う白濁も出した本人が拭っていた。
「こんなにも優しくしてあげられるのに、まだ僕のこと怖いの?」
 また酷くされることを承知で、その質問にも私は無言を貫いた。どの道自由はない。彼を初めて見かけた幼い日のあの瞬間から、すでにこの人によって私は見えない首輪で繋がれているのだから。
クロユリの首輪