深夜一時。間接照明だけを残した寝室を覗くと、ベッド右端に人ひとり分の膨らみを僕は見つけた。なるべく足音を立てないよう近付き、そこを覗き込む。
 するといつもの定位置となっている場所で、なまえは穏やかな寝息を立てて眠っていた。年相応のあどけない横顔はうっすら口を開いていて、ついついそのぷにぷにとした唇に僕は指先を伸ばしてしまう。

 僕が受け持つ午後からの授業は、なまえも含めた一年全員で校内での演習を予定していた。しかし大規模な呪霊の討伐依頼が入り、それも手の空いている術師は全員招集レベルの勢いで、授業がそのまま任務へとスライドした。人命が懸かっているので、そこまではよくある話だ。
 けれど広範囲な任務先での配置の関係上、幼い婚約者を都合良く僕の手元に置く事が出来なくなった。そうなると彼女を任務に連れ出す許可はおろせず、少女のお留守番は決定事項となる。
 校門で僕らを見送るなまえの姿は、今朝と比べて明らかにしゅんとしてしまっていた。全てが自分のせいでないにしろ、僕が真っ先に胸に抱いた感情は少女に対する罪悪感である。
 せめてもの償いとして、別れる直前僕は彼女を引き寄せ、必ず帰るから部屋で待っててと耳元で囁いた。こくりと頷いた小さな身体から手を離すことが、心底名残惜しいと思ったのは本日二度目の出来事であった。



 シャワーを浴び終え再び寝室へ戻ると、なまえは先ほどと同じ体勢で眠り続けていた。手元にスマホがあったので、僕を待ちきれず寝落ちしてしまったのだろう。ずいぶん深く眠ってしまっているので起こすのは可哀想だと思いつつも、寝顔だけでもこちらに向けてほしくて、僕は無遠慮に少女をつっつく。
「おーい」
 圧倒的有利な立場で婚約者という肩書きがあろうと、相手が無意識の状態ではその驕りは全く効果を発揮しない。当たり前だ。
 けれどそれすら面白くなくて、ちょっかいと呼べるものは次第にエスカレートしていき。結局は、彼女を眠りの底から叩き起こす形になってしまった。
「ただいま」
 起き抜けの幼い婚約者に、僕は白々しくも微笑みかける。なまえは状況を飲み込めないままに、ぱちぱちと数回に渡ってゆっくりとした瞬きを繰り返していた。だが、さすが若い脳だけあって眠前の記憶はすぐによみがえったようだ。ふにゃりと少女の表情が緩む。僕の好きな顔だ。
「おかえりなさい。お怪我はないですか」
「当たり前じゃん。置いていってごめんね」
 謝罪の言葉を述べてからベッドに潜り込む。すると頬を撫でようと僕が伸ばした手に、彼女自ら擦り寄ってきた。指を動かすと幼い頬はふにふにと柔らかく、寝起きのせいかいつもより体温が高い気がした。
 その先にあるものの期待とは、少し違っていたのかもしれない。けれど、とろんとした目と見つめ合ううちに、僕は彼女の頬を持ち上げて口付けを落としていた。ただ触れるだけのキスだったにもかかわらず、指でなぞった時よりもその場所が尚更愛おしく、もっと特別に感じる。啄むようなそれが次第に深くなっていき、ある程度満足して絡めとった舌を離す頃には、僕はなまえを組み敷いていた。
 橙色の間接照明に照らされて、僕の影が彼女に落ちる。時刻は午前二時を回っていたが、昂りは増す一方で眠気からはどんどんとかけ離れていった。
「ん、っ……」
 了承も得ないままに、はだけさせた寝巻きの肩口からうなじにかけて、キスをしながら痕を残していく。それから衣服を取っ払い胸元、脇腹と徐々に下へと降りて、僕はすでに指で割り開いていたぬかるみに顔を寄せた。
「だめっ、そこは、だめです」
「なんで?朝は気持ちよくしてくれたし、今度はお返しに僕が舐めてあげるよ」
 今朝のフェラの御礼として、クンニしてやろうと言うのだ。今まで彼女との行為のなかで直接したことはなかったが、愛撫後の指先を舐めとった経験は一度や二度ではなく。散々僕のモノを受け入れている場所に、今更抵抗感はない。それに、この子を気持ち良くさせる自信が僕にはあった。
「汚いし、恥ずかしいから。いいです」
 しかし僕が顔を上げると、なまえはキュッと目をつむり首を横に振った。そして膝を曲げてシーツの上を後退り、さらに僕から距離を取ろうとする。行為に対する、あきらかな拒絶である。
「ふーん。僕にとっては、そんなことないんだけど。……まあいいや。そろそろ一緒に気持ちよくなろっか」
 ここでさらに追い詰めたくなるのが、僕の悪癖だという自覚を持っている。しかし幼い婚約者が口までキュッと結び頑なに拒否するので、今日のところはこちらが大人しく引き下がることにした。夜はまだ長い。
Blue moon A