すると隣の幼い婚約者は未だに深い眠りのなかにいるのか、僕が身体を動かしてもちっとも起きる気配はなかった。布団の下は、ほとんど下着姿と言っても差し支えない格好をしているが、それを着せたのも僕である。最後の方は完全にバテていて、行為後もふにゃふにゃと何を言っているのか聞き取れず、結局力の抜けた身体を僕が身なりを整えてやった。
オマエ僕に何させてんだよ、と呟いたものの無垢な寝顔を見つめていると、その言葉に大した感情が乗っていなかったことに改めて気付く。仕事もそれ以外のやるべき事もたくさんあるというのに、僕はしばらくこの無意味なひとときから抜け出すことが出来なかった。
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「ごはんとパンどちらにされますか」
「今日はごはんにして。軽めでいいから」
「わかりました」
皮肉にも僕を引き戻したのは、彼女が事前にセットしていた無機質なスマホのアラームだった。それから飛び起きたなまえの慌ただしい朝の支度が始まる。床に落ちた寝巻きを拾って部屋を出て行ったかと思えば、着替え終えた制服のシャツの上にエプロンをつけて、再び同じ扉から顔を覗かせ僕に問うのだった。
頃合いを見て寝室からリビングへ出ていくと、僕の分のごはんと味噌汁が食卓テーブルに並んでおり、軽めでと言ったが小鉢でおかずも用意されていた。少女は僕の姿を確認すると、茶だけ注いで先に召し上がってて下さいねと言ってから、そそくさと奥のキッチンへと引っ込んでいく。
しかし僕はそれを通り越し、なまえのあとを追いかけた。そして反応の鈍い彼女を待たず、背から覆うように小さな身体を抱きすくめる。
「手伝ってほしい仕事があるから、悪いんだけど今日の授業は休んでくれない?」
予定が狂ったにしろ長期出張を除けば、昨日今日と比較的長時間なまえと一緒に過ごせている自覚がある。にも関わらず、そんな時こそ僕はいつにも増して幼い婚約者を手放せなくなるのだ。
「……わかりました。連絡しておきます」
「うん、お願い」
声色はそこまでだったが、やはり彼女の本意ではないと推測できる。特に真希と話しているときなんかは、僕の知らない表情を友人である彼女には沢山みせていた。
それでも少女の了承を得たことに変わりはないので、僕は回した腕を解き速やかにダイニングへ戻る。すると間もなくして、自分の分の朝食を運んできたなまえも席について、何事もなかったかのように食事を始めるのだった。
僕の都合で授業を休ませたというのに、そのあとも彼女はどことなく機嫌が良くて。それほど腹も減っていなかったはずなのに、僕もつられるように食べ進めてしまい、追加でだし巻き卵まで焼いてもらった。
それから、あと片付けに追われるなまえを見て今日はずっと部屋にいるのだからと、僕はついうっかりエプロンの下へ手を伸ばしてしまいそうになる。けれど僕が口にした仕事の手伝いという体を、いきなり自ら壊す訳にはいかない。だから今度は振り向かせた少女を、一度だけと決めて正面からギュッと抱きしめた。
すると強要したつもりはないのに、僕の背中にも腕が回される。なまえに自覚があるのかは知るところではないが、そういう可愛いことをされると僕はやはり彼女を離せなくなるのだった。