覆いかぶさった俺を、目線では追いかけていたが、その瞳の奥はどこか違う場所を見ているようだった。前のめりになった身体を起こそうとしたら腰が揺れ、繋がった部分からぐちゅっとなまめかしい音がなる。
「ぁっ、ん」
そんなつもりはなかったが、意図せず押し込む形になってしまったので、漏れ出した声とともになまえは苦悶の表情を浮かべた。紅潮した頬には汗が滲んでいる。奥は未だに慣れないらしい。
問いには答えてもらえそうもないので、薄い腹を掴んで俺は仕方なく浅い位置での抽送を再開した。だらしなく投げ出された白魚のような脚は、硝子に言わせれば完全に「まがいもの」だそうだ。
「——っ、もうイく?」
「ふっ、ゃっ、あっ……!」
ギュッと縮こまり、なまえの身体が二、三度痙攣したように跳ねる。すると、くたっと四肢が脱力して完全に目蓋も落ちてしまった。身体を掬うように抱き寄せるものの、そこからだらんと腕が滑り落ち、脚もベッドへと流れていく。
それでも今が好機とばかりに、俺はもう一度身体を倒し唇を合わせて、彼女の内側へ自分の呪力を注ぎ込んだ。口を離して濡れた部分を指先で拭っても、すっかり為されるがままのお姫様の姿に、なんとも言えない感情を抱く。睡姦など趣味ではないが、今さら別のもので欲が捌けるとは思えなかった。
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夜も更けた頃、ごそごそと衣擦れの音がして目を開けると、なまえがベッドから起きあがろうとしていたところだった。
「どこ行くの?」
暗闇の中、俺は華奢な背中に問う。彼女は衣服を身につけないまま、すでにベッドの淵に腰掛けていた。回答によっては行かせられない、なんて事もあるだろう。
「お水が飲みたくて」
しかし、こちらを振り返ったなまえの声色は落ち着いていた。そして腰が浮く。でも、
きっと立てない。この会話に強いデジャブを感じた俺は、咄嗟に彼女へ向けて指先を伸ばした。
だが俺の心配をよそになまえはすっと立ち上がり、間接照明を頼りにしてすたすたと冷蔵庫の方へ歩いて行った。それから水分補給をしたあと、何事もなかったかのように俺の腕の中へ戻ってくる。ルーティンみたいに頭を撫でて髪を梳くと、彼女は気持ち良さそうに更にこちらへと擦り寄ってきた。
「眠気飛んだ?」
「ううん、まだ眠いの。五条くんは起きちゃった?」
大変素直で可愛いのに、それはそれで違う不安が俺を襲う。背中から腰、尻まで存在を確かめるように触って、最後には誤魔化すように小さな身体を抱きすくめる。
「うん。俺、元々あんま寝なくても大丈夫なんだよね」
「そうなんだ、ごめんね。でもまだ三時だし……。どうしたら五条くんは眠くなる?」
「んー?優しく寝かしつけてくれたら、眠くなるかもな」
「それなら任せて」
そう言うとなまえは腕の中から抜け出し、今度は素肌の胸元へ俺を抱き寄せた。傑はコイツの存在を、人の願いによって生まれた呪霊に近い生き物だと考察したが、触れた場所は柔らかく温度は人肌で、間違いなく今の彼女は人間として生きていると実感する。愛ほど歪んだ呪いはない。俺がそう作り変えたのだ。
「——」
なまえは何か言葉を発した。けれど俺が聞き取れなかっただけなのか、はたまた俺の知らない言語だったのか。そんな疑問を深く追求する間もなく、冴えきっていたはずの頭が嘘のように、心地よいメロディーとともに眠りへと誘われていく。人魚が歌うというのは、どうやら本当だったようだ。
その時にはもう彼女が強い決意を胸に抱いていたなんてことは、意識を手放す寸前の俺には知る由もなかった。