教室に入って来て早々、親友は俺を見て怪訝な表情に切り替えた。それからスムーズな動作で、なまえとは反対側の俺の隣の椅子を引き席に着く。口論になることも多いけれど、話を聞いてくれる気はあるらしい。
「……なまえに拒絶された」
言いたくはなかったが、彼女が何食わぬ顔をしてこの場に戻って来るようなメンタルの持ち主でないことは、俺も知っていた。なので、どうせ問い詰められて白状することになるなら、と正直に告げたのだが。心配してくれていると思っていた顔が、みるみるうちに共に悪巧みをしている時のものへと変貌を遂げる。
「まさか迫った?いや、それはないか。じゃあ告白した?なんて言ったの?」
「……」
「そんなに恥ずかしいセリフ?それか願望が突き抜けた感じ?」
「……」
「それはヤバいかもねー。アレは女の子だったら引いちゃうでしょ。正直私も軽く引いたし、もう誰にも言わず君の心の中だけで留めておいた方が良いと思うよ」
「そうじゃなくて!」
前のめりになる親友に耐えきれず、俺はバンッ!と机を叩いた。傑の反応を見るに、興味本位であって悪意ではなかったらしい。しかし、とんだ言われようである。あと、他人の性癖を全否定してんじゃねーよ。
「……元気なさそうだったから、どうしたんだろって思って肩か背中に手置いて普通に顔覗いたら、全力で押し返された」
すると、傑はなぜか遠くに目線を泳がせて「あー…」と言い淀んだ。俺はなまえに対して、いつもそれくらいの距離感で居た気がするが、マズかったのだろうか。
改めて椅子に座り直した友人はシャツを捲った腕を組み、頭の中で言葉を選んでいるようだ。コイツ何か隠してんのか?
「嫌われてるとかじゃなくて、単にビックリしただけじゃないかな。強気な人間が多い周囲と比較しなくても、彼女ってわりと繊細な女の子だと思うし。今後はもっと彼女の様子や状況を見て——」
「そんなややこしいこと考えなくても、なまえは俺のこと拒んだりしないと思ってたんだよ」
俺がそう言うと、なぜか傑は豆鉄砲を喰らったみたいな顔になった。それからくつくつと笑い出し「それなら本人に直接触れる許可をもらいなよ」と後ろを指差す。
教室の入り口には、なんとも言えない顔をした夜蛾先生と、耳まで真っ赤にして俯くなまえが立っていた。始業開始時刻ジャストである。
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あの状況で普通授業始めるかよ、この脳筋教師。と悪態をつきつつも、あのまま勢いに任せていたら、俺は公衆の面前でもっとジャイアニズム的なことを口走っていた気がする。
ふと隣の席のなまえに目をやると、彼女はこんな時でもクソ真面目にノートを取っていた。真剣な横顔も好き、なんて思う俺は相当重症だ。視線に気付いたなまえには、思いっきり顔を逸らされたけれども。