「五条さんの目隠しってどこまで見えてるんですか」
 一緒に部屋へ帰ってきて、黒いアイマスクを外そうと指を掛けようとしたところ。最近付き合い始めたばかりの恋人が、可愛い顔で僕に尋ねてきた。
 いちいち正すことはしないが、補助監督の彼女はどうも仕事の癖が抜けきらないようで。僕は下の名前でいいって言っているのに、なまえはプライベートな時間でも僕のことを五条さんと呼んでしまう。まあ、それはそれとして。
「多分それなりに見えてるよ。でも細かい色の判別とかは物理的に無理かなあ」
「不思議ですねぇ」
 アイマスクを外しそびれたまま僕がソファーに腰掛けると彼女もついてきて、またこちらを見上げた。抱き寄せるようにしたかったから、僕はそれとなく腕を伸ばしたのだが、愛しい恋人はまるで好奇心旺盛な子供のように、そわそわと僕を見つめるばかりである。何がそんなに気になるのだろう。
「……目は貸してやれないけど、これなら貸してあげられるよ。逆にどこまで見えてないか試してみる?」
「いいんですか?」
 僕がそう言うと、なまえの表情がぱあっと開いた。嬉しい、のか?
 促してやると彼女は改めてこちらへ向き直ったので、指で抜き取った黒い布を恋人へ被せてやった。乱れた髪を整えて一応目線を合わせてみる。
「これで満足?」
 しかしそう問うたものの、なんか僕の方がヤバい。いつも当たり前に晒されている可愛らしい両目が隠れただけなのに、意図されたそれが一気に拘束感を増して、正直興奮材料にしかならない。同じ場所にいるのに「五条さんどこ」なんて不安げな口調で指先を伸ばされると、もう限界だった。



「もう外してぇ……」
「ダメだよ」
「あっ、……ぁっ、」
 僕の貸してやったアイマスクを、下げようとするなまえの指を絡めとってシーツへ縫いつける。それだけで繋がっている部分がキュッと締まった。僕の恋人で他の誰にも触れさせる予定はないが、感度が良すぎて時々心配になる。
 飲み込みきれず口元に溢れた唾液を舌で押し込み、そのまま口の中まで犯すと彼女は本日何度目か分からない絶頂を迎えたようだった。涙を吸って湿り気を帯びた黒い布は洗濯機行き決定だ。
「……なまえ?」
 しかし、である。僕はこれからというところなのに、彼女は一気に脱力してしまった。身体を揺すりながら呼びかけるが反応がない。慎重にアイマスクを上げると案の定、その下の目蓋は落ちてしまっていた。
「起きてから怒らないでよ」
 誰もが寝静まった夜更けに、僕は虚しくも勝手なひとりごとを呟くのだった。
MEKAKUSHI