昼間からカーテンを閉め切った湿っぽい部屋で、私は彼と手を繋いで映画を見ていた。
 物語が終わりエンドロールが流れ始めたところで、彼は強制的にテレビの電源を落とした。そして私が彼に引き寄せられる形で、触れるだけのキスをした。少し遅れる形で大きな手が私の背中に回る。映画を見ている最中、何度か飲み物を口にしていたけれど彼の唇は少し乾燥していた。
 唇はすぐに離れ、熱っぽい視線とぶつかった。——青く燃えている。彼の吸い込まれるような瞳に、私は毎回思考を失ってしまう。
 そんな間にもベッドへと抱き上げられ、彼は私に覆いかぶさった。慣れたというと語弊があるが、何度か経験しているシチュエーションのはずなのに、そうされると私はいつも処女を失った日と同じくらい胸の鼓動が大きくなる。
 優しく啄むような口づけを繰り返しながら、彼が一枚ずつ丁寧に私の衣服を脱がせていった。それは間違いなく慣れた動作だった。

「五条くんも脱いで」
 すでに泣きそうになりながらシーツに沈む私がそうお願いすると、彼はいったん上半身を起こした。それから私を脱がせたときと同じ手つきとは思えないほど乱雑に、自分の部屋着のスウェットを脱ぎ捨てた。
 薄暗い部屋に、彼自らによって鍛え上げられた身体が曝け出される。美しい肢体だ。
 しかし、いくらか死線をくぐってきたとはいえ彼も私も一応まだ学生である。それなのに五条くんは完成しすぎていた。
「……どうしたの?そんなにマジマジと見て」
「なんだか大人の男の人みたいだと思って」
 ぱちぱちと瞬きしながら彼と目が合う。その表情は、私の言葉の意味を理解しかねているようだった。けれど五条くんは、私の思う年相応の顔をしていた。
「もう大人みたいなもんでしょ?僕も今年19になるし、成長期もとっくに終わってんだけど」
「——そうだね」
 不貞腐れたように言う彼と議論したい訳ではない。私は会話を終わらせるつもりでその言葉を選んだ。少し不満そうな彼だったが、それ以上深掘りをするようなことはしなかった。



「泣くほど気持ちいいの?」
「それも、あるっ、けど……!ごじょ、くん、五条くんの……っ、こと……っ」
 揺さぶられながらだと、余計に上手く話せない私を必要以上に心配したのか。頬を紅潮させた彼は望んでいないだろうに、動きを止めて心配そうな表情でこちらを覗き込んだ。
 けれどそれが裏目に出たと言うか。その分繋がりが深くなって、私は意図せぬ声をあげてしまう。行為中だと何でも素直に反応してしまう自分が恥ずかしかった。
「ごめんごめん」
 大きな手の割に繊細な指先が、汗で張りついた私の髪を避けていく。口調は柔らかいし笑っているのだけれど、彼の眼は青く燃えていた。
「それで、僕のことが?」
 その間もポロポロと涙は溢れ続けている。彼が愛しすぎて胸が苦しい。こんなにも人を好きになったのは初めてで、恋する人間が四六時中その人のことを考えてしまうというのは、あながち嘘ではなかったようだ。
 五条くんは催促するように、小さく身体を揺すった。彼はきっと期待している。私の胸を包んでしまう大きな手も、無意識的に力が入っていて少し痛みを感じた。
 私と彼の熱が部屋に籠っている。それでも口は開けられるのに、先程まで伝えようとしていた言葉はなぜか喉元でつっかえた。
「——つらい?やめる?」
 彼が掠れた声で呟く。そうじゃなくて、私は全力で首を横に振った。どうしようもなく彼が愛しい事実は変わらないのに、大人への階段を駆け上がっていく背中がどんどんと小さくなっていく姿ばかりが目に浮かんで、置いていかれる側の私はそれが恐ろしかった。
 身を引こうとする五条くんへ、私は焦燥的に手を伸ばした。すると、それに応えてくれる形で彼の頬が触れる。突拍子もなく、すべすべしていて子どものような肌触りだと思った。されるがままで居てくれるので、しばらく触れているとなぜか波打つ心が落ち着き、自然と喉の奥のつっかえが不思議と消えていった。
「五条くん、大好き」
 私がそう告げると、彼は照れたように「俺も」と返してくれた。そして何事もなかったかのように行為が再開された。
 呪術高専に来てから四度目の春になる。彼は一人称を俺から僕へと変えた。私達は、夏油くんのいない初めての春を迎えようとしている。
春を