散々愛しあって眠ってしまった(抱きつぶして気絶するように寝た)なまえを、僕はシーツの海から抱き上げる。
 その拍子に、白い肌から毛布がするりと床に落ちてしまった。だがそれよりも、僕は彼女のことをきちんと成人女性と認識しているが、予想以上に軽々と持ち上がってしまったことの方に驚いた。
 やはりなまえは最強の男である僕が守ってやるべき、か弱い存在なのだとあらためて思う。
 落としたままの毛布を踏んで、僕は彼女と二人風呂場へと向かった。



 僕もなまえもセックスを終えたままの姿で、衣類を身にまとっていなかったので、脱衣所を素通りし一直線に浴槽へと片足を突っ込む。
 あらかじめ湯を張ってあったので、ゆっくりと腰をおろし、自分の足の間に彼女を抱く。そして脱力した身体が沈んでしまわないように、僕の方へと凭れ掛からせた。まるでお姫様のような扱いである。僕にとってなまえは、それだけ大事な人なのだ。
 三十九度で設定した湯につかると、冷えつつあった身体にじんわりと熱が戻ってくる。同時に僕が準備したバラの香りが鼻腔に広がった。
「あー幸せ」
 片腕でしっかりとなまえを抱えながら、薄く開かれた唇を親指でなぞる。伏せられたままの睫毛が若干動いたものの、完全に目を開けるには至らない。
 何度か指を往復させたあと、そのままあごを伝って首すじ、肩すじへと移動する。まばらな楕円形を描く赤い痕は、僕が噛んだところだろうか。触った感じだと、内出血だけで済んでいそうだ。
「……ん、」
「起きた?」
「何コレ。入浴剤?」
 何度が瞬きを繰り返したあと大きく見開かれた瞳は、真っ赤な花びらで埋め尽くされた浴槽が、視界いっぱいに広がっているのだろう。
 意識を取り戻したことで離れてしまった身体を引き戻すべく、僕は両手でなまえを掻き抱いて華奢な肩に顔を埋める。
「全部本物のバラだよ。99本分、僕の受け持ちの生徒達が(ひとり一万円のバイト代で)手作業で一枚一枚丁寧に千切ってくれたんだ」
「なんで」
「そんなのなまえに喜んでもらうため以外なくない?」
「馬鹿なの」
「なまえのこと好きすぎて馬鹿になった」
 さっきまであんあんよがってた口に罵られるのヤバい。すっからかんになったつもりが、なんならここでもう一回出来そうな気がしてきた。
 再び彼女の身体を弄ろうと下腹部に手を回すと、気配を察知し阻止しようとしたのか、なまえの小さな手が重なった。僕はその指を絡めとり、一緒に秘部まで連れていく。そして僕の人差し指と中指ではさんだなまえの指を、共に膣内へと侵入させた。
 簡単に指を飲み込んだ中は、先ほどの余韻が残っているのか、まだ柔らかいままだった。お湯のなかでも、潤滑油があるかのようにぬるぬると抜き差しが出来るのは、再び快感に飲まれつつある彼女の素質なのだろう。
「はあっ……、あっ……」
「奥まで出来なくても、手前も気持ちいいところあるもんね。ほら、自分で動かしてごらん」
「やだっ、や、あ、」
 口ではそう言いつつも、ちゃんと腰を捩って僕の指と自分の指をイイところに当てている。一面に散ったバラの花びらが邪魔して、直接その痴態を見られないのが残念だ。
 どんどん前のめりになっていく身体は、白い肌に真っ赤な花弁を引っ付けて、自分だけ高みへ昇りつめようと一生懸命になっていく。多分あと少しでイケるのだろう。中の収縮が始まったところで、僕は彼女の細指ごと手を引き抜いた。
 こちらを振り向き、恨みがましく潤んだ瞳で僕を見つめるなまえは、本当馬鹿みたいに可愛い。
「このままここでシよ?自分で広げて挿れてくれる?」



 あと一輪、花の形で残っている赤いバラは、グラスを花瓶代わりにしてダイニングテーブルの上に置いてきた。
 なまえが再び目を覚ましたとき、99本と1本、それとも100本のバラとして、彼女は僕の気持ちを受け止めてくれるだろうか。
Red rose garden