音を立てないよう部屋の中心まで歩みを進め、そこを真上から覗くと、なまえと津美紀が向かい合うようにして同じ布団のなかで眠っていた。
恵はというと、そのとなりの敷布団でひとりで寝ているものの、身体は二人の方を向いており、縋るような恰好で腕が伸びていた。普段は眉間に皺のよった、所謂らしくない子どもだが、薄く口の開いた寝顔は年相応の偽りない少年の姿である。よく知らない大人に自分の姉をとられたと思い、津美紀に向けて無意識的に伸ばしたのかもしれない。
僕も三時間ほど仮眠時間が与えられたので、恵の反対側、なまえと津美紀を挟むように布団を敷いた。生憎目が良いので、暗がりでも誰かを踏んづけることなんてない。
時間も限られているので、さっそく仰向けになって目を閉じるが、アドレナリンが出続けているのか、あまり眠気を感じず。疲労は着実に蓄積しているはずなのに、身体はじっとしているのがもったいないとでも言いたげに、ウズウズと動く。
正直横にいるのがなまえだけだったら、迷わずに起こして手を出していた。
「(あーヤりたい)」
溜めに溜め込むに至ったここ数週間の出来事を思い返すも、取るに足らない日常ばかりだった。移動と食う寝る祓う。その繰り返しである。特級のモチベーションを保つのにも一苦労だ。
どれだけ秒針が進んだのかはわからないが、休息のつもりでここへ来たのに目が冴えすぎていて。なまえだけ別の部屋へ連れて行こうか。そう頭で思ったときには、もう身体が起き上がっていた。
欲のままに、規則的に揺れる肩に僕の手が触れようとする。どこの部屋に移動しようだとか、もう一回シャワーも浴びる時間も入れて何回できるかだとか。思考は邪なものばかりである。
暗闇のなか、まさに僕の指先が彼女を捉えようとしたそのとき。なんでかなあ、再び無防備に眠る恵の寝顔が視界に入ってしまった。
さすがに罪悪感を覚えたのか目を逸らすと、さらに手前の位置で津美紀の小さな手が、なまえのパジャマの裾を掴んでいるところまで見えてしまう。
「……」
燃え上がりかけた炎が萎んで、燻りだすのを僕はひしひしと感じた。
「(仕方ないか)」
背を向けられているのは寂しいが、僕は自分の布団ごと、ピッタリとなまえに身体を寄せた。
そして掛け布団の中に手を潜り込ませ、寝巻きも掻いくぐって直接彼女の腹に手を回す。何度か往復させると、今日はベタつくボディークリームを塗っていないのか、肌本来のサラサラとした手触りであった。いつもこうが良いのに、と撫でながら思う。
加えて髪の毛で隠れたうなじに顔を埋めると、香りなんてものは無いのに、僕は急激に思考が鈍っていくのを感じた。無理矢理寄せた敷布団の段差は、かなり居心地が悪いはずなのに、だんだんと身体が心地良い眠りへと誘われていく。
まぶたはすでに落ちていて、肩の力が抜け、腕も脱力する。意識が遠のく寸前、僕の手の甲に暖かい手のひらが重ねられた気がした。
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「おはよう」
「ん、おはよ」