晴れ渡る五月某日、土曜日の朝。起きてまもなく私はカーテンを開けた。
 降り注ぐ輝かしい日差しには目を細めるが、風は少しひんやりとしていて、生ぬるい布団から這い出た私にはそれがとても心地よい。月曜からの勤務を終え、心待ちにしていた休日である。
 この一週間は地獄のような忙しさで、ようやく事の収拾がついた昨日でさえ、同僚達と華金だなんて騒ぐ気力もなく、私はまっすぐ一人の部屋へと帰った。
 帰宅して真っ先に飛び込んだのは浴室で。翌日のことを考えず思う存分好きなことが出来る最高の夜なのに、私は最低限の事を済ませると力が抜けたようにベッドへ倒れ込み、数秒後には完全に眠ってしまっていた。おかげでと言ってはなんだが、今日は休日を無駄にすることなく、早い時間に気持ち良く目覚めることが出来た。
 トーストを焼いてドリップコーヒーを淹れた。これらを両手に持ちテーブルへ運んだあとはテレビをつけ、休日のゆるい情報番組を見ながら、ゆっくりと時間を掛けて朝食をとる。ここ数日は食事よりも睡眠時間を優先していたので、朝からこんなにものんびりと過ごせることに、私は幸せを感じた。
 幸いにも、今日は何の予定も入っていない。だからと言ってだらだらと過ごす気にはなれず、本日の段取りを考える。朝の新鮮な空気を取り込んだ私の身体には、やる気が満ちているのだ。
 食器を片づけ身支度を整えたら、まずは布団を干そう。そして掃除機をかけ、まだ残っている冬物の洗濯、あとは日用品の補充の買い物にも行きたい。
 そう思っていたのに、思っていたはずなのに、一人の男の来訪によって全て狂ってしまう。



「ねえなまえ、何考えてるの」
「空は青いなと思って」
「集中して」
「ん」
 彼に揺さぶられながら、窓の奥の流れる雲と空の青さに目を奪われていたら、無理矢理正面を向かされて荒く口づけられる。空と同じ青を持っているのに、彼の青はまるで高温で燃える炎のようだ。
 大人しく瞼を伏せ、私は催促に従うかたちで咥内にも彼の侵入を許す。すると独占欲を全てぶつけるようなキスは、真っ先に舌を絡めにきた。すでに繋がっている下半身よりもねっとりとより深く、さらにはねちっこく私を追いつめて狭い口の中で逃げ場をなくしていく。
 キスをしていると、いつも境界線がわからなくなる。そのうち真っ白い空間で、彼に全神経を支配されて、隅々まで快楽に塗りつぶされていくような感覚に陥った。
 さらに全身にそれが行き渡ると、今度は階段を駆け上がるようなスピードで押し上げられていく。次第に息は上がり、私は男の下で無我夢中で喘いでいた。



「折角の休みなんだから眠りなよ」
「……休みだからこそしなきゃいけない事がいっぱいあるの」
 私は余韻に浸り、ぼんやりと移ろう空の景色を眺めながら、じわじわとやってくる倦怠感と闘っていた。思わぬアクシデントが起こってしまったが、まだ修正可能な範囲である。しかし身体が動かない。いや、動きたくないというのが正直な気持ちだ。
「そんなこと言ってないで一緒に寝よ。僕も疲れてるんだ」
 彼は後処理を終えると最低限の衣服だけ身にまとい、ベッドへ潜り込んできた。そして、うつろな目で瞬きを繰り返す私を見て笑う。
「ほら、眠りな」
 彼は優しい声でそう囁くと、幼い子どもを寝かしつけるように私の心臓の少し上をゆっくり、でも一定のリズムでトントンと叩きはじめた。
 馬鹿にして、そう思ったのにその行為の効果は絶大で、私は再び深い眠りへと誘われていくのであった。

素晴らしき日々