久方ぶりに自分の部屋へ帰ってきた俺は、まずシャワーを浴びた。温度設定は四十度よりすこし手前。いつもの温度のはずなのに、吹き出したお湯はスゲー熱かった。
 それでも浴び続けていると、こびりついた汚れが溶けて洗い流されていくような気がして。結果的に俺は最初から最後まで、同じ水温でシャワーを出し続けていた。
 髪も乾かさないまま、大の字でベッドに寝転ぶ。疲れた、とにかく疲れた。部屋の照明は入れていないので、そのまま目を閉じる。何もかも寝て忘れたかった。

『君は五条悟だから最強なのか? 最強だから五条悟なのか?』

 いつぞやの親友の言葉だ。答えの出ない問いが、こんな時に限って頭の中をぐるぐると回る。
 とても蒸し暑く、寝苦しい夜だった。それでも冷房をつけたいとまでは思わなくて、俺は掛け布団を全部蹴飛ばしてみた。けれど、しばらく経つとそれも肌寒くなってきて、もう一度布団を肩まで着直す。
 こんな風に無駄な時間を過ごすのならば、荷解きでもすればよかった。今度はそんなことを考えだす。
 電話が鳴れば即出勤。すでに休みが休みでなくなっている。日付が変わったかどうかは分からないが、オフの予定の明日さえも、どうせそうなるのだろうと思った。
 布団を蹴ってかぶってを二、三度繰り返した。その頃になって、平常より熱いシャワーを浴びた自分の体温が、ようやく下がり始めたのか適温となり、うつらうつらと意識が遠のきはじめる。直前まで仕事関係の何か重要なことを思い耽っていた気もするが、俺は記憶ごと意識を手放した。



 夜中、ふと目を開けた。右にはなまえ、左には硝子。
「……は?」
 さすがに俺も飛び起きる。
「両手に花だろ」
 まぶたは閉じられたままだが、暗闇のなかで口を開いたのは硝子だった。多分起きていたのだろう。口調がずいぶんとしっかりしている。
 真隣のなまえはというと、ぐっすり眠り落ちているのか、スースーと穏やかな寝息をたて続けていた。
「なんのサプライズ?三人でヤりましょうって魅力的なお誘い?やっべ、マジで両手に花じゃん」
「……ったく。帰ってるって聞いてなまえと様子見に来たら、アンタずいぶん寝苦しそうにしてたから添い寝してやったんだよ。それだけ」
「なーんだ期待したのに。忙しすぎて今かなり溜まってんだよね、俺」
「勘弁してくれよ。それにオマエが抱きたいのはコイツだけだろ」
 吐き捨てるように言った硝子は、俺に背を向ける。面白くなくて、振り向かそうと肩に手を掛けたら、逆に振り払われた。
 それでも彼女が自室に戻る気配はない。朝になるまでここで寝入るつもりなのか、俺と距離を置いたまま、友人はマットレスの端の方で細長い身体を丸める。
 諦めて俺も、もう一度ベッドに寝転がった。勢い余ったせいか、となりで二人の女の身体が同じ風に跳ねる。
「アンタなまえは寝てんだから、もっとさあ」
「夜這いしても毎回突っ込む直前まで起きないくらい、コイツ図太いから大丈夫だよ」
 俺が起き上がったために、掛け布団がずれてしまったのだろう。寝冷えしないよう右腕でなまえを抱き寄せると、いつもの定位置を探すように胸元に擦り寄ってきた。すっかり離れていた日常的な風景に、思わず頬がゆるむ。
 呆れた風に溜め息を吐く硝子にも、布団を掛け直してやった。けれどそうしたことによって、今度は反対側にいるなまえの身体がむき出しになってしまう。つまり、ついさっきまで硝子が同じ状態だったということだ。

「おい、五条」
 俺は左腕を伸ばし、なまえと同じように硝子も自分の方へ引き寄せる。そして、そのままダブルサイズの掛け布団を鎖骨あたりまで持ってくると、少し無理矢理だが今度は成人三人分の身体をきちんと覆った。
「風邪引くなよ、おやすみ」
 腕の中で硝子が何かをぼやいていた気もするが、先程とは違い安らかな気分で俺もすぐに寝入ってしまった。
寝室