「なまえってさあ、年がら年中アイス食べてるよね」
 ソファーのうえで体育座りをし、棒アイスとスマホをそれぞれの手に持つ、欲張りな彼女に僕は言ってやった。
 その言葉の間にも、片手の氷菓をなまえはぱくっと口に咥える。僕のことなど意にも介さないように、その動作には一切の躊躇いがなかった。よりにもよって、壁際のスクリーンから聞こえた「ドントタッチミー」という英単語だけを突出して、僕の耳は拾ってしまう。
 簡単な咀嚼を終えたなまえは、観ているのか観ていないのか判断しかねる洋画に視線を向けたまま、首を傾げた。そしてチラッとスマホに目線を落とすと、それをソファーの上にそのまま伏せる。
「そういう家で育ったんだよ」
 僕の方を向き直し、なぜか彼女は微笑んだ。それと先ほどの間は、一体何の間だったのだろう。
「ひと口ちょーだい」
「もう全部食べちゃった」
「じゃあ舌出して」
 食べ終えたのなんて、誰が見てもわかる。
 なんの疑いもなくべーっと突き出された舌には、水色の着色料が残っていた。なまえは直前まで、クリームソーダのアイスを食べていたのだ。
 僕も舌を伸ばし、なまえのそれに重ねる。合わさった部分からは、少しの冷感と甘みが伝わってきた。
 そのままねじ込んで、彼女の口の中で舌を絡める。なまえは案外乗り気だったのか、もっとしてと言うように、僕の舌を強めに吸った。
 だから期待には応えたつもりだ。どのくらいの時間が経過したのは分からないが、いつしかお互いの唾液が混ざり合い、同じくらいの体温になっていた。
 こうしているのも悪くはないが、僕は次の段階に進みたい。キスの流れで押し倒したなまえの、あまり意味をなさないショートパンツの裾部分から手を入れ、丸い尻を撫でる。中指で下着のゴム部分を引っ掛けると、彼女は身体を捩った。さりげなく尻を浮かせているので、拒絶とは名ばかりの、これから行われる事を予期した甘い動きだ。
 いったん手を引き抜き、割れ目に指を添わせる。するとショートパンツと下着越しだったにもかかわらず、湿り気を帯びたそこは、いとも簡単にそれを招き入れた。
「ここでする?ベッド行く?」
「……ベッドに行く。でもその前にゴミだけ捨てさせて」
 彼女は親指と人差し指で摘んだ、食べ終えたアイスの棒切れを揺らした。やたらと上手にするものだから、ただの木の棒が曲がって見えた。そんなのさっさと手放せよ。



「あっ、あー…、あっ!だめ!はやいの、やっ!」
 パン、パン、パンと肌がぶつかり合うたび、出来損ないの拍手みたいな音が鳴る。彼女のリクエストで、今はバックで突いている。僕としては動きやすい体位なのだが、気を抜くとすぐ快感でぐずぐずになったなまえの腰が引けてしまうので、しっかりと腰を抱えていてやらなければならない。
「ハァ、ちょっと、崩れないでよ」
「〜〜っ無理!」
 膝の力が抜けた彼女とそのまま一緒に倒れこむと、より奥まで入ったのか、モノをキュっと締めつけられた。そのあとすぐに痙攣したように収縮しだしたので、先にイってしまったのだろう。
「なまえちゃん、男だったらとんだ早漏だよ」
「我慢できないの!」
 なまえは生意気にも、口応えをした。覆いかぶさったまま汗ばんだうなじをペロっとひと舐めすると、それだけで刺激になったのか、彼女はビクッと身体を跳ねさせる。もちろん膣内も同時に締まった。
「——痛っ!」
 そして同じ場所を噛んでやった。仕置きである。

 結局僕が一回イクまでに、なまえは四回くらいイった。最終的に寝バックで軽く腰を揺するだけでも、良いところに当たってイキっぱなしみたいになっていたのだから、自滅にもほどがある。
「あっついよう、アイス食べたい」
「また食べるの?」
 何も身に付けず、仰向けになったままの彼女はとても野性的だ。口移しのミネラルウォーターは受け取らなかったくせに、この女は僕に氷菓を強請った。
「私ね、小さいときは偏食が酷くてアイスクリームしか食べられなかったんだよ」
 なまえはまた同じように微笑んでいた。口にしたことが真実かどうかは分からない。
氷菓