「はいはい」
終業後、悟は私にそう言い残して男子寮へと戻っていった。
彼と行う所謂おうちデート(寮だからお部屋デート?)の実施については、特段珍しいことではない。映画鑑賞をしたり一緒にゲームをしたり、時にはお菓子や料理を食べて——まあ、その流れでイチャイチャするというのが定番なのだが、悟からわざわざ日時を指定してくるのは稀であった。
学生の身にもかかわらず多忙な彼は、時間が出来次第わりと直近で、私に部屋にいるのかと確認してくるパターンが多い。それに前々から決まった休みがあると、悟は張り切って外へ遊びに行く予定をたてる。
三日前に「可愛い下着つけてこいよ」と耳打ちしてきたので(ちなみに今日の昼にも念押しされた)部屋の近い学生——つまり傑あたりの不在が確定しているのだろうか。
期待というよりは確定事項に向けて、私は早めのシャワーで念入りに身体を洗い、淡い色のレースの下着を身に纏うのであった。
「入るよー」
約束の午後八時ちょうど。そうしていいよと言われているので、私は掛け声とともに鍵の掛かっていない入り口を開ける。
待ち合わせに関しては遅刻常習犯なのに、いざ部屋へ行くとゲーム機やDVDのセットが終わっていたり、机の上に菓子類が準備されていたりと、悟はやたらと用意がいい。育ちとは裏腹に、案外と人をもてなすことが好きなのかもしれない。
返事は聞こえなかったが、私はいつもの状態を想定して、そのまま彼の部屋に足を踏み入れた。
しかし今夜の悟は、テレビもつけずベッドの上で、ただただ胡座をかいていた。暇さえあればイジっている携帯電話ですらローテーブルの上で、目線は何もない壁をじっと見つめ、ここじゃないどこか遠くを見ているようである。
「……悟、何かあったの?大丈夫?」
「は?なんで?」
「なんかボーッとしてたみたいだったから」
「考え事してただけ。……それよりさ、おいでなまえ」
何かを誤魔化すように、悟はさらりと笑った。そして何事もなかったかのように自分の隣をポンポンと叩くので、部屋から持ってきたジュースと菓子を置いて、私もベッドに乗り上げる。
「もぅ」
腰を下ろしたと同時に抱きすくめられ、一緒にベッドへ倒れ込んだ。ちゅっ、ちゅっ、と私の顔中にキスの雨が降る。その間にも悟の手はTシャツの中へと侵入しており、彼の期待にそえるものかは分からないが、レースの下着ごと胸の膨らみを確認しているようだった。
触れるだけの口づけが、本格的に舌を絡めだしたので、私も悟の頭や背中を撫でながらそれに応える。熱を持ち出した彼のモノを、ぐりぐりと私の下半身に押しつけてくるのも堪らない。
「あのさあ、俺からなまえにお願いがあんだけど」
すでに部屋着は取っ払われ、半分着ているか着ていないかという状態の下着のふちをなぞりながら、彼は口を開いた。
「なあに」
思い耽った顔を見たものの、流れに身を任せ杞憂だったかと過去にしてしまうところだったので、なるべく優しい声で私は返事をかえす。
悟に悩んでいることがあるのならば、一緒に悩んであげたいし、私に出来ることがあるのならば、なんでもしてあげたい。私にとって彼は唯一無二の愛しい人間なのだ。
「ハメ撮りさせて」
「……は?」
前言撤回、まさに硬直。何言ってんだコイツ。私は開いた口が塞がらない。そんな私を置いて、彼は続ける。
「長期任務で溜まってきた時にさあ、下手なAV漁るよりオマエとヤってる時のこと思い出しながらヌくのが、一番手っ取り早いんだよね。けど、もうひと押しオカズになるもんが欲しいっつーか、なんつーか。——だからお願い!」
この男、そんなことを言われたからといって「じゃあ仕方がないね」と私が口にすると思っているのだろうか。だとしたら本物の馬鹿で阿呆でクズだ。
「……帰る」
そう告げて身体を起こそうとしたところ、眉間の辺りに鋭い突きをくらった。無論、悟の指である。私の目の前が真っ暗になるのは一瞬だった。
:
「——だろうね。私、なまえに嫌われたくないなあ」
「大丈夫だって、コイツなんだかんだ言いつつ全部許してくれるよ。オマエが最高にヌけるって褒めといたし」
「はあー…、なまえも君くらい単純だといいんだけど」
夢なのか現実なのか、悟と傑の声がした。それに加えて下腹部に違和感、いや圧迫感。
霞む視界のなか何度か瞬きを繰り返すと、頬を上気させ私の上で腰を振る悟と、彼の斜め後ろから悟の携帯電話の背面を私に向ける傑がいた。
……え、ヤってる?……まさか撮ってる??
「おはよ、なまえ♡」
彼の悪い笑顔を見て、私は気絶させられる直前の出来事を思い出した。
しかし、抵抗のために上げかけた両手はすでに繋がれていて、悟は私の身体ごとシーツに押しつけるように、前へと倒れ込んできた。目覚めたばかりだというのに、彼によって深いところまで一気に犯される。
「〜〜っ!ぃや!」
「イっちゃった?かわいい〜!傑、顔撮っといて」
耳を喰みながら小刻みに腰を揺する悟から顔を逸らしたのに、携帯を構えた傑はそれも追ってくる。
「傑、なんで、あっ、ゃっ」
「悟に弱みを握られててさ、私もどうしようもないんだよ。それより本当に一生懸命でかわいいね。キスしてあげようか」
「チューは絶対ダメ!」
「おっぱいは?」
「触るだけなら」
当人を差し置いて行われるやり取りに、私はやめてやめてと首を振り抵抗を示すものの、男二人にいいようにされる身体が言うことをきくはずもない。
悟に代わって私の両手を束ねる傑は、空いた手でずり下げられたブラジャーから胸の先端をキュッと摘んで引っ張り出し、そのまま持ち上げるようにする。悟は悟で身体を起こし「締まっていいわ」なんて言いながら、傑から受け取った携帯で録画を続けており、自分の良いように腰を打ちつけている。あり得ない、二人の倫理観本当あり得ない。
「普段見えないから、バックから突っ込んでる時のなまえの顔も撮って」
「はいはい」
「やだやだやだっ!」
いったん抜かれて、二人掛かりで身体をひっくり返されると再び傑が正面にいて、ピロリンと携帯から電子音が鳴った。ベッドに伏せようにも、悟の太い腕で上体を抱えられているので、それも叶わない。
「ひくっ、……ふっ、……や、はあっ」
「なまえ泣いちゃってるけど、いいの」
「いいよいいよ。普段から気持ちよくなると、よく泣いてるから。ほら、もう一回挿れるから尻あげて」
乱れた私の髪を、傑が耳に掛けている。どうしてそんな冷静に会話が出来るのかと、二人を怒鳴りつけてやりたいのに、私は喘ぎ声で漏れた息を吸うのに必死で、まともな言葉が出ない。
これが悟の希望だとしても、何故交わる様子を級友に撮影され、挙句の果てに恋人にしか触れさせない場所を、私は友人に触れられ善がらなければならないのだろう。第三者である傑に対する恥ずかしさよりも、恋人の悟が許可したその事実が悲しくて、私は涙を流している。
「悟も、ぐすっ、傑も、……嫌い」
今さらこんな言葉を吐いたところで、悟は奥を押し広げるように侵入したモノで後ろから私を犯し続けているし、遠慮なく乳首を引っ張り引っ掻く傑も手を止めてはくれない。二人を嫌悪している訳でもないのに、つらい。早く終わってほしい。
「あーあ、やっぱり嫌われちゃったよ。悟のせいだからね」
「どうせ口だけだよ。それより俺もそろそろイきそう。——だからさっ」
「ひゃあっ!やめっ!っや!ああん!」
「AVつったらコレでしょ」
悟は私を抱えたまま後ろに倒れた。そして彼はあろうことか私の両手首を掴み、それを膝裏にくぐらせ脚を無遠慮に左右へガバッと開かせた。
「うわあ、絶景」
「自分から乗ってくれたら最高だったんだけどなあ」
最高どころか最低最悪だ。これじゃあ傑に、繋がっているところが丸見えである。隠そうにも腕も足も悟によって固定されており、下半身はおろか上半身すら私はまともに捩れない。
「でもコレ、動きにくいわ。俺手塞がってるから、なまえのクリ触ってあげて」
「やっ、ひゃっ、やめ、」
浅い抽送を繰り返しながら私の身体を揺する、悟の熱い息が首筋に掛かる。酔ったように甘い声も、私の耳元に漏れ出しているので、限界が近いのは本当のようだ。
けれど、それは私も同じだった。傑の指が陰核を押したと同時に私が果て、それが刺激になり悟が射精したのを、私は真っ白になる直前に感じた。
:
「それじゃあ例の件、頼んだよ」
「任せといて」
脱力した身体を動かせないまま、私は二人のそんな会話を聞いていた。それから一言二言交わしたあと、傑は部屋を出ていったのか、バタンと扉の閉まった音がした。反対に、ペタペタと素足でこちらに向かう足音が鳴る。
「なまえ、愛してるよ」
ベッドへと戻ってきた悟は、調子のいいことを言いながら素肌のままの私を抱きしめた。むにむにと胸を揉む様子を見るに、反省の色は全く見えない。
「……私、嫌いって言った。こんなことする悟は愛せない」
「俺も抜きたいのに、オマエでしか勃たないんだから仕方ないだろ。逆に責任とってよ」
「勃たせないのが世のためだよ」
「跡継ぎも期待されてるのに、それは困るわなまえちゃん。——それより二人っきりになったし、もう一回スる?」
「寝る」
本当に救いようもないクズ男だ。不毛なやり取りにも疲れたので、この自分勝手な男に鉄槌を下すのは、起きたときの私に託そうと思う。