僕がドライヤーのスイッチを切るのと同時に、頭にタオルを巻いて濡れた髪をまとめたなまえもようやく脱衣所から出てきた。一緒に風呂を出たはずだが、年齢の区別なく女の身支度というのは、こうもここまで時間が掛かるものなのだろうか。
 たかが備え付けの部屋の風呂から戻っただけというのに。袋いっぱいの荷物を手に下げた彼女はペタペタと幼い足裏を鳴らし、キャリーケースが置かれた部屋の隅へと歩いていく。またここから明日の準備も兼ねた荷物の出し入れを始めるのだろう。僕の脳みそには、今朝の記憶が鮮明が残ったままである。
 だからそれを見越して、今回は先に呼んでやった。
「おいで、髪乾かしてあげる」
 動きを止め、下を向いていた愛らしい横顔が持ち上がる。そして少女はやりかけていたこと全てを放り出し、足早にこちらへと向かってきた。家の者から何より僕を優先するよう言い聞かされている、彼女のいつもの行動パターンだ。
 けれど、その最中になまえは例外なく僕の顔色をうかがう。言葉とは裏腹に、酷くされた経験があるからなのだろう。僅かな時間で機嫌をはかろうとするのも、僕に対する信頼の低さからか。
 胡座の前の畳をトントンと叩くと、少女は遠慮がちに僕に背を向け、その位置に腰をおろした。僕は彼女が手を出すより先に後ろからタオルを解き、予告もなく頭のてっぺんから熱風をあてる。
 いくらなまえが相手でも、女の長い髪にドライヤーをかけるのは、正直なところ好きな行為ではない。時間が掛かるし力加減にも気を遣うし、髪に手入れが行き届いているほど指もベタつくし絡まるしで、嫌な点ばかりが頭に浮かぶ。それでもこんな風に、己の手を煩わせてでもなまえに世話を焼いてやるのには、僕にも打算があるからで。
 あらかた乾かし終えたところで、僕はドライヤーを止めて自身の右側へと放った。そしてそのまま後ろから彼女を抱きすくめ、足の間へ座らせる。肩口に顔を寄せると、毛先は熱を残しながらも少し湿り気を帯びていた。気を早く終えたので、完全に乾ききっていなかったのだろう。
 それでも彼女の髪に再度ドライヤーをかけてやる気など、僕には更々なく。確信犯的に、貸出品である色違いの浴衣の合わせから手を入れた。すると、肌着のキャミソール越しになまえの柔らかい胸の感触が僕の指先に伝わる。つい先程まで同じ場所で着替えていたので知っていたが、このまま眠るつもりだったのか下着はつけていなかった。
 胸の形を確かめるように指を滑らせ、親指の腹が先端を掠めると彼女は分かりやすく、くぐもった声を漏らす。その反応見たさというのが建前で、どんどんと行為が激しさを増していく。ああ、どうしてこうなのだろう。
 いつだって堪え性がないのは僕の方で。なまえを横抱きにして、輪郭を持ち上げる。そして先刻風呂のなかでしていたキスとは比べものにならないほど、身勝手で欲にまみれた口づけを僕は幼い婚約者に落とした。



 ほとんど肌蹴てしまい、ただ腕を通しただけになっている浴衣を捲り上げ、四つん這いになったなまえの膣内から指を抜く。僕の二本の指は彼女の体液でどろどろになっており、腕を伸ばして顔の前まで持っていくと、赤く小さな舌がそれを舐めとった。
「もう挿れてもいい」
「はい、構いません」
 彼女の薄い身体をひっくり返す時間も惜しい気がして。返答と同時に根元を支えながら成熟しきっていない入り口へと、僕は自身の先端を押し込む。今夜は後ろからだ。
 けれど、まだそれだけなのに。ゆるゆると浅い位置での律動が繰り返されるだけで、奥まで入っていかない。狭いというかキツい。これじゃあとても刺激が足りなくて、引けていく腰に対し窘めるつもりで僕はなまえの丸い尻を軽く叩いた。
「あんっ!」
 すると彼女の口から予想外に大きな声が上がる。
「ごめん、痛かった」
「そういう訳じゃ、」
「じゃあもうちょっと頑張れる」
「……頑張れます」
 僕の言う意味を理解しているようで、なまえは前のめりになりつつあった身体を持ち上げてくれたのだが。やはり体格差があるからか、ただの布団の上だとヤりにくい。
 首をカクンと下げでしまったことにより、彼女の長い髪が脱げかけた浴衣と背中を伝って肩の方へ流れていく。今晩はなまえの後ろ姿ばかりが頭に残っていて、後頭部やうなじばかりを見ている気がする。
 半端に押し込んだモノを一度抜いて、僕は彼女の身体を転がした。案の定、その表情は泣きかけであった。
「痛いことしてごめんね。ちゃんと一緒に気持ちよくなろ」
 上体を倒すと、縋るように身体に腕が回ってきた。はじめからこうしていれば良かったのだ。
Crescent moon B