まばゆい光で焦点が定まらないうちに、大きな影が私の視界を覆う。逆光になっていてハッキリと顔は見えないが、声の主は多分五条さんだ。
どうして彼が私の寝顔を覗き込んでいるのだろうか。一緒に任務に出た覚えもなければ、前後の記憶は定かではない。しかし、しがないただの二級術師の私が特級術師である五条さんを差し置いて寝ている訳にはいかないという、刷り込まれた常識だけは頭を駆け巡った。
意識も浮上しきらないまま上半身に力を込め、私は上体を起こそうと試みる。けれど、てんで身体に力が入らない。金縛りにあっているような自覚があるものとはまた違い、まるで自分の体が自分のものでないような奇妙な感覚だ。
焦りとは裏腹に瞬きを繰り返すと、だんだん頭も視界もクリアになっていく。その頃には影となってぼやけていた輪郭もはっきりとし、私を見下ろしているのは間違いなく五条さんだった。視線がぶつかると、滅多とお目にかかれない青く大きな瞳がゆっくりと細められる。なんだかとても楽しそうだ。
しかし、だ。彼が高身長であることに違いはないが、明らかにスケールがおかしい。五条さんのまん丸の目は、どれだけ小さく見積もっても私の握りこぶし大ほどある。
目線だけは動かせるので周囲を見渡すが、見慣れない室内は完全に縮尺が狂っている。例えるなら、ピッシュサルヴァーという名の縮み薬を飲んだ少女に、私がなってしまったかのような——。
「!」
風圧とともに、簡単に私なんか握りつぶしてしまえそうなほど大きな手が目の前を横切った。さらに、よくよく見れば真上のペンダントライトも、私にとっては落ちてきたら即死のシャンデリアクラスの大きさである。
「それじゃあ、いただきます」
パチン、と両手が重なる音がした。それに『いただきます』って……。私は改めて置かれている異常な状況に危機感を覚える。
「えっ!?」
なにもかもが巨大に思える室内以前に、私が寝転んでいたのはベッドどころか瑞々しいレタスの上であり。素っ裸の私は色鮮やかな野菜とともに、皿に盛りつけられていた。
黒い箸先が無遠慮に、私に向けられる。思わずギュっと目をつむったが、掴み取られていったのは腹の上に乗っていた、角切りのアボガドと何か豆類のようだった。口に中に放り込まれたそれを、五条さんは咀嚼している。
「私のこと、食べるんですか」
「うん、食べるよ」
「ひぃっ!」
ニッコリ微笑んだ五条さんは新たに箸を伸ばしており、真横にあったトマトから飛沫がはねた。それに対し、自由のきかない私はただただ恐怖の悲鳴をあげることしか出来ない。
「でも僕、メインディッシュは最後って決めてるから」
そう告げた彼は、うっとりとした表情で私を見ていた。
:
「やっ、ん、」
こんな声が漏れてしまうのも、脚のあいだの際どい部分を、彼の箸先が掠めたからだ。それも何度目かにあたるもので、絶対わざとである。けれど勿体ぶるかのように繰り返される行為に対し、無力な私はそれを享受するより他ない。
食材の水分なのかドレッシングのようなものなのか、私の身体はすでにベタベタだ。皿の上の野菜たちは大方五条さんの胃の中で、残っているのは私の上に乗った僅かなものだけである。
「なまえ、気持ちよくなっちゃってる?」
「ち、違います!……ゃっ!」
当てつけのように、胸の上に盛られていた食材とともに先端を摘まれる。痛みすら快感に変わっていくのだから、私も相当限界に近づいてきているのだろう。全てお見通しなのか、性格の悪い五条さんはクツクツと笑う。
「ははっ、丸見えだね」
最初から恥じらいよりも恐怖が勝っていたので、今さら動かない身体を憎く思うことはない。隠すものが何も無くなった素肌を、漆黒の箸がすべる。肉付きを確かめるかのように、彼は私の肌を時折強く押した。
「一番美味しい部分はどこかな」
「私なんか食べても、きっと美味しくないです……」
「泣いちゃってるの?かわいいね」
「んっ、ぁあっ、!」
へその少し下の部分をグッと押し込まれると、焦らされ続けた快感が一気に弾けた。それに対し五条さんは「イケばイクほど美味しくなる」なんて、訳の分からない持論を展開している。
「やだ、やめ、」
片足首を掴まれ、下半身が浮く。なすすべなく持ち上げられているので、恥ずかしいところもモロ見えだ。そんな私とは正反対に、絶景だと言って彼は笑っている。
「それじゃあ、いただきます」
いつだって羨ましいくらいツヤツヤの唇が大きく開かれた。絶望とは全てを諦めた、この瞬間をいうのだと思った。私の口からは、叫び声ひとつもう出ない。
なんの抵抗も出来ないまま宙吊りになり、私は五条さんに頭から丸呑みにされた。「ごちそうさま」という言葉は彼の体内で聞いた。
:
「最近さあ、オマエ僕のこと避けてない?」
「……気のせいだと思いますけど」
小さくなって皿の上でえっちな悪戯をされた挙句、食べられた夢を見ただなんて、本人の前では絶対に言えない!