「どうする?近くのホテル行く?」
 照れもせずそう問われたので、私の住む部屋までここから三駅ほどだと、彼へ正直に伝えてしまう。すると私の手を引いたまま大通りへ出て、五条さんはタクシーをひろった。
 乗車後は私が運転手に自宅近くの施設を伝えただけで、街のネオンに照らされる横顔は一言も話さなかった。けれど車に揺られる約二十分ほどの時間、なぜかずっと手だけは繋がれていた。
「あ、ここで大丈夫です」
 目印となる建物の前で降ろしてもらい、今度は私が彼を先導する。タクシー代を支払うときはさすがに離れたけれども、降車後またすぐに五条さんは私の手をとった。一度は同じくらいの温度になったものの、未だに酔いが醒めないため、今も私の指先の方が熱を持っている。
 夜道を数分歩いたところで、見慣れた七階建ての賃貸の前に立った。多少躊躇ったものの、今さら嘘はつけないので「ここです」とだけ告げる。するとずっと無言を貫いていた彼は「うん」とだけ返事をした。
 高専の建物よりはさすがに新しいものの、五条さんを招くには不相応なマンションのエントランスをくぐる。薄暗いエレベーターを降りてまもなく私の部屋の前へと辿り着いた。
「……あの、五条さん。家の鍵を開けたいので手を」
「ああ、ごめん」
 彼と離れた右手でバッグのファスナーを引き、その中からキーケースを取り出す。じっと手元を見られているので妙な緊張感はあったが、手間取ることなく私は部屋の錠を開けた。
 左手すぐ壁の玄関の照明をつけて、蒸れたショートブーツを脱ぐ。まだアルコールの抜けきらない頭で客人用のスリッパを探していると、後ろから再び手を繋がれた。そして勝手知ったるかのように部屋の奥へと引きずられ、私はソファーへ押し倒される。
 いつの間にサングラスを外したのか、暗闇のなかで青い瞳と視線がかち合った。何度かサングラスの隙間から見たことはあったが、直にこの宝石のような目で見つめられることは初めてである。
「えっ、と」
「ダメ?」
「……ダメ、ではないです」
 薄く微笑んだ綺麗な顔が近付いてきたと思ったときには、輪郭に手を添えられ彼の唇と触れ合った。ふにゃりと重なったまま、舌先が私の上唇をつつく。
「ん、むぅ……」
 促されるまま口を開けると、すぐに割り開くように相手の舌が上顎をなぞった。いきなりされるとむず痒くて、思わず私は五条さんの上着を掴んでしまう。するとまた指を絡め取られ、手の甲をソファーへ押しつけられた。けれど非力な私なんて簡単にねじ伏せてしまえるだろうに、五条さんの大きな手は不思議と安心感があった。
「ぁっ……、ん」
 今度は彼の過去を恨めしく思う暇も与えられず、ぐずぐずに溶かされる。手だけじゃなくて、舌も絡めた。お互い口の周りがベタベタになるまでキスだけをした。
「このままここで続ける?ベッド行く?」
 私の部屋なのに、また彼が主導権を握った。



「もう挿れてもいいよね」
 そう問いつつも避妊具の封を切っているのだから、私の待ったを聞いてくれる気はないのだろう。しかしこのまま焦らされ続けるのもつらくて、彼の思惑どおり私は首を縦に振ってしまう。
 すると衣服を脱がしきらないまま抱き起こされて、ソファーの背に上半身を預けるように、五条さんは私の体を凭れ掛らせた。そして膝裏に手を入れて開脚させると、空いた手で自身のモノを支えながら私の膣内へ無遠慮に押し込んだ。
「ナカぐずぐずじゃん」
「だって、五条さんが、あんっ、ひゃっ……ゃっ、まって、ヤダっ」
「そうだね、僕のせいだ」
 私が上擦った声を上げた場所を重点的に攻めるように、五条さんは同じような位置で小刻みに腰を揺らす。私は快楽を逃すため身体を捩らそうとするのだが、それをさらに追いかけてくるので本当に意地悪な人だ。
「だめっ、イっちゃう」
 私が縋るように伸ばした腕のなかに入るように、彼は身を屈めてくれた。しかし私の手が五条さんの首の後ろに回ったと同時に恥骨が触れ、一瞬息が止まる。ひとり先に私は絶頂を迎えてしまったのだ。
「ははっ、本当にイっちゃった。可愛いね」
 余韻に身体を震わす私を見下ろしながら彼は笑う。とても楽しそうだ。
 それとは正反対に、恨みがましく私は五条さんを見上げる。
「可愛いだなんて、恥ずかしいです」
「僕はね、なまえのことずっと可愛いと思っていたよ」
 温かい手が頬に触れ、親指で生理的に出た涙を拭いとられると、私は彼に全てを委ねてしまいたくなった。
#中編