「失礼します。コーヒーこちらに置かせていただきますね」
「ありがと」
悟が微笑みかけると、それに伴って彼の妻であるなまえは固くした表情を緩めることが出来た。それから悟の邪魔にならないよう机の端にコーヒーカップと角砂糖が詰め込まれたシュガーポットを置くと、それらを運ぶために使用したトレーを胸に抱き、深々と頭を下げる。
時刻はもう二十二時を回っていた。悟はなまえが夕食の時と同じ格好のままであることに気付く。食後かなりの時間が経過しているが、先に寝ても良いと告げたにもかかわらず、彼に気を遣い彼女はまだ風呂にも入っていないのだ。
「待って」
「?」
「ちょっと休憩。抱きしめさせて」
悟が腕を広げると、扉付近まで戻りかけていたなまえはおずおずと言った様子で彼のもとへとおさまった。遠慮がちにしていると、広い胸板にギュッと押しつけられる。
「……悟さんが今、一分一秒無駄に出来ないって分かっているのに、邪魔をしてすみません」
「このくらいで僕が宿儺に負けるっていうなら、とっくに世界は滅びてるよ。それに邪魔だなんて僕は思っていない」
身を離そうとした彼女を抱きしめたまま、悟は立ち上がった。そして壁いっぱいの本棚を背にし、覆いかぶさるようにして口を塞ぐ。
「……ぁっ、だめです、……ん」
なまえが身じろごうものなら、細い手首を並ぶ背表紙に押しつけ、キスの合間に吐息が漏れて彼女が言葉を紡ごうとすると、悟はそれを遮るように再び唇を重ねた。
結局彼の気が済む頃には、なまえが淹れてきたコーヒーもすっかり冷めて白い湯気も見えなくなっていた。
「……勝つよ。だから今夜は一緒に風呂に入って、そのままベッド行こ」
悟は腕を伸ばして、机の上に置きっぱなしになっていたコーヒーカップの中身をあおった。そして腰くだけになったなまえを抱き上げると、書斎をあとにしたのだった。