消えた王子
01

締め切ったカーテン、静まり返った小さな室内。
フローリングを歩く長い足はペタペタと足音をたてて、私の目の前を横切っていく。
ただ歩いているだけで絵になるのはなぜ。
隙だらけな無精ひげも、乱れたボサボサの髪も、すべてそのスタイルで隠してしまうんだから、やっぱり生まれ持った美には敵わないと思う。

「チャンミナ、どう?」

彼はテレビの前に座り、壊れたDVDプレーヤーを弄繰り回している。
2人で映画でも観ようと決めて、沢山のDVDを用意していたのに、肝心のDVDプレーヤーがうんともすんとも反応しなくなってから、早1時間。
彼は自力で直そうと思考錯誤していたけれど、ついに白旗を振った。

「ダメだ。直らない。時間の無駄」

初めは「絶対直す」とか豪語していた割に、結局はお手上げらしい。古いプレーヤーだから無理もない。形あるものはいつか壊れるもの。

「いいよチャンミナ、ありがと」
「はぁ〜…観たい映画があったのに」
「映画は諦めて、違うことしよう」

とは言ったものの、この狭い部屋で出来ることは限られている。
一緒に夕飯の支度をする?それともゲーム?2人の気が済むまでお喋りしたっていい。
あれやこれやと浮かぶアイデアを口に出しても、彼の表情は浮かなかった。
それから急に立ち上がったかと思えば、上着を羽織って「観に行こう」と一言告げた。

「観に行く?何を?」
「映画だよ。映画館に行こう」
「これから?」

一瞬で浮き立つ私の両足。だけど冷めるのも早い。
2人で外出しても平気なのだろうか。
これまで周囲の目を懸念して、家の外へ出かけることはしてこなかった。たまに他の友人を誘って複数人で食事をすることはあっても、2人きりでは。
私の不安をよそに、彼は勝手に支度を進めてしまう。

「チャンミナ、」
「大丈夫。こんなひげ面だし、誰も気づかないでしょ」

平然と言ってしまうけれど、例え彼がどんな姿であっても気づける人だっているのだ。決して侮ってはいけない。彼への愛情故に、成せる業があることを。