誰にも「happy birthday!」って言われなかったから。


てっきり、忘れられてるんだと思ってた。








俺の誕生日、8月1日。



今現在の時刻、8月2日、午前1時。



すごい。こんなこともあるんだ。



俺、今年、BUCKSのメンバーの誰からも「happy birthday!」って言われなかった!!!!!


いや、そりゃね?

瑞樹と亮介は海外ロケでいないし?

志朗は今スタジオにこもってアルバム用の曲作ってる最中だし?



残るは陣だけ。



こんな時だもん。


なんかサプライズしてくれるかなぁ、なんて…淡い期待を抱いてたけどさ。




そんな気配、まっっったくなし!




リビングのテレビでPS4をする陣の隣、三人掛けのソファに座る俺は、クッションを抱えながら、どこか憮然とした気持ちで陣のプレイを眺めていた。陣のやつ、熱心に何やってんだろうこれ?



(あ、ファイナルファンタジーか!)



ふと、なんとなく。


陣に嫌味の一つでも言いたくなる。



ねぇ、陣!


俺昨日、誕生日だったんだよ!



「ねぇ、陣」

「あー?」

「俺、昨日」

「ダメだ話しかけんな今!やべぇ!!死ぬ!!ああーーっ!!」

「………」



ゲーム>>>神名湊。



陣の中じゃ、俺はゲーム以下みたい。



「…もういい。寝る」


一言、そうこぼした俺は。クッションを置いて、ソファから腰を浮かせた。



すると、突然だった。



グッと、左手を後ろに引っ張られて。


「わっ…!?」


勢い、俺はソファにもう一度腰を下ろしてしまった。


何事かと、俺の手を引いた陣の方を振り向く。


そこにいたのは、コントローラーをカウチに放り出して俺を見つめる、陣だった。


いきなりのことで、動揺する。



(何なんだよ!?)



「何だよ!?いきなり引っ張って…!びっくりするじゃん!!」

「忘れてねぇよ。お前昨日、誕生日だったろ?」

「そ、そうだけど…何だよ今更!」

「そう怒んなよ。な、誕生日プレゼント。いらねぇ?」

「べ…別に!プレゼントなんか欲しくない!」

「へぇ…そうかよ?」



あっという間だった。


陣と俺との間にあったほんの少しの距離は、あっという間に詰められて。


陣の指先が、俺の顎を捉えている。


俺はなにが起こってるのかよく分からなくて、陣のなすがまま。


くいっと顎を上にあげられて。



陣の唇が、俺の唇を、






ーーーーカシャ、






(………へ?)



なに今のシャッター音!!




「決定的瞬間ーっ!!ありがとうございます!!」




背後から聞こえたシャッター音にバッと振り返ると、そこにはスマホを構えた志朗が中腰で立っていた。


俺が唖然とした表情で見つめると、志朗はヒラヒラと手を振って応えた。




「いやー、作曲行き詰まったから戻ってきたんだよねー!そしたらこれだよ!インスタとツイッター両方にアップしとくからね!禁断の2ショット!!ありがとう!!」

「ちょっ…!!シロ!!ダメだって!!アップは!!」



今のキス寸前だったでしょ!?


ヤバイよ、ツイッターに上げられたら、みんなに広がって、俺と陣の仲が噂されちゃう…!!


ついでになっちゃんが激怒するよ!!
(それが一番ヤバイ!!)


「なぁ志朗、もっとサービスショットくれてやろうか。俺と湊の絡みでよけりゃ、もっと過激なの見せてやるぜ?」

「は、はぁ!?どうしたの陣何言って…うわぁ!?」


志朗に怒っている途中、陣が背後から俺にもたれかかってきて。
抗えない俺は、そのまま陣にソファに押し倒された。

ぼすん、と頭からソファに倒れこんだ俺は、咄嗟に陣の手を振りほどく。


けどその手は、陣の力によって逆に押さえ込まれてしまう。



(な、何なんだよ!?)


「ちょ、何すんだよ、陣っ…!?」

「聞け。…誕生日プレゼント。何にしようか考えたけど、結局、コレしか思いつかなかった」

「え……?」

「湊。プレゼントだ。……目、閉じろ」



陣のまっすぐな眼差しが、俺の瞳を捕らえて離さない。



そんな目で、見られたら。




(…陣、ズルイよ…)




逆らえるわけ、ない。



言われるまま、俺は素直に瞳を閉じてみた。



すると。



柔らかい感触が、一瞬。


唇に、ふにって。


当たった気がした。




「…happy birthday」

「ホント……遅いよ、もう……」



陣の囁きに、思わずしがみつく。


ソファが盾になって、俺たち二人のやりとりは、志朗には見えていない。



俺は、くすぐったい気持ちになって、少しだけ笑いながら目を開けた。


すると、陣はもう、俺から離れて、まるで知らん顔で、またコントローラー片手にゲームに戻ろうとしてて。


しれっとゲームに戻るその態度がなんだかおかしくて笑うと、志朗もスマホ片手にソファにやってきた。



「なになに、二人で内緒のやりとりしてー!オレにも教えて!」

「ナイショ!」

「今話しかけんなっつってんだろあーーーやべやべ!!死ぬ!!死ぬーーっ!!」




ソファに隠れて、陣は俺に、キスをくれた。



ほんの一瞬、触れただけのキスだったけど。



それでもいい。



1日遅れのhappy birthday。



俺は今年も、多分シアワセに過ごせそうです。




ありがと、陣。



おめでとう、俺!



(来年は、キスよりもっとすごいプレゼントがもらえたりして!)






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