「なのへ、彼女の写真が欲しいです」
「無断で渡すのはちょっとなぁ」
「そこをなんとか!後生!どうすればいい?毎日フラペ奢ればいい?それともなのの宿題やればいい?金か!?金なのか!?」
「落ち着いてよ穹!店内で騒がないで!」
休日、丹恒となのに彼女の話を聞いてもらうため、三人で喫茶店に集まっていた。俺は注文したナポリタンを待つ間に本題である彼女の写真を入手するための取引を持ち掛けていたのだが、今の所全敗である。
「作品として展示するんなら結局人目につくわけじゃん。それなら俺が貰っても問題なくないか?あとポートフォリオってやつにも載せるんだろ?なおさら俺が持っててもよくない?」
「それとこれとは別問題だよ。作品として公開することと個人へ渡すのじゃ扱いが全然違う」
なのはオレンジジュースをストローで飲みながらジトリとした目で俺を見た。好きな人の写真が一枚でも手元にあれば毎日のQOLは爆上がりなのに、その一枚を手に入れるのが大変だ。
「それじゃあ合法的に写真を手に入れるにはどうすれば?学校で販売するのって修学旅行くらいじゃないか?でも修学旅行は来年!先が長すぎる!」
「本人に頼めばいいだろう」
「チッチッチ。丹恒、分かってないな。直接聞いたら怖がられてしまうだろ」
既に怖いんだからなんの問題も無いじゃんと呆れた顔をするなのは、頼んでいたショートケーキ一口食べると一転して幸せそうな表情になった。俺もデザートにケーキを頼もうかな。
「俺、彼女の前だと滅茶苦茶格好つけてるんだよ。あとすっごく優しい。そんな人からいきなり写真撮ってもいい?なんて聞かれたら百年の恋も冷めるだろ」
「好感度高いなら大丈夫な気もするけど。それにウチはオッケー貰ってるし」
「なのは部活って大義名分があるじゃん!そんなものの無い俺みたいな奴から突然写真頼まれたら引くだろ。第一、彼女は進んで写真に写るタイプじゃないし」
そうやって悩んでいる間にナポリタンが届いたのでお手並み拝見とフォークへ手を伸ばす。お前に俺の舌を唸らせることは出来るかな?一口食べればどこか懐かしいようなケチャップの味が口に広がる。うーん、これは高得点。
「ていうか、体育祭もあるじゃん。それじゃ駄目なの?」
「体育祭は体操服じゃん。それはさ、違うじゃん」
「何が違うのか俺にはさっぱりわからないが」
キャッと恥じらう俺を胡乱な目で見る丹恒。そんな目で俺を見ないでほしい。甘さ控えめのシフォンケーキを食べていたので美味しいか聞けばまぁまぁだと返ってきた。メニューに載っていたチョコレートパフェも気になる。俺のデザートの行方はどっちだ!
「そういえばこの前、あの子にジャージ貸したらしいじゃん。それは良いの?」
「良いだろ。何が問題なんだ?」
「うわ怖。ウチ、穹の基準がわからない」
ジャージは貸しても写真は撮らないからな。なのが何を怖がっているのかさっぱりわからん。俺はこんなにも単純明快な男だと言うのに。
「この前の合同授業で一人だけ半袖だったのはそういう理由か」
「教えてくれなかったの?」
「ああ。聞いてもドヤ顔がかえってくるだけだった」
あの時は彼女が風邪を引かずに済むという達成感に満たされていたので聞かれても答えていなかったかもしれない。丹恒には悪い事をした。
「やっぱチャンスは修学旅行か。同じ班になって隙をみてツーショを撮るしかない」
「臆病なのか大胆なのかよくわからない行動力だね」
「それ以前に来年同じクラスになるかもわからないだろ」
俺はピシャンと雷を受けたように硬直した。俺の高校生活三年間には当たり前のように彼女がいると思っていたが、クラス替えと言う試練が立ちはだかっていたことに今気づいた。
「俺と彼女なら同じクラスになれる。多分。きっと。もしなれなかったら何とかして落ち合えるようにする。いや、その前に彼女と同じクラスにしなきゃ校内で花火大会を開くぞと先生を脅すべきか」
「教師を脅すんじゃない。後、そんな事をしてもお前が反省文を書かされるだけだ」
「世の中、世知辛すぎ」
俺は両手で顔を覆い涙した。現在のクラスメイトには俺が好きな人が彼女である事は宣言してるし聞かれれば答えてる。だから来年俺が彼女と同じクラスになれなくても、元クラスメイトが便宜を図ってくれれだろう。え、俺が同じクラスになれてないのに彼女とまた一年過ごせる奴がいるって事?普通にムカつくが?
「そういえば、穹と三月が付き合っているという噂を聞いたぞ」
「は!?」
「ありえないんだけど!?」
素知らぬ顔で紅茶を飲みながらそう告げる丹恒に噂を否定したかを聞けば「してない」と即答された。なんでだよ、友達の恋路が掛かってるんだぞと言うがわざわざ俺がくだらない話をしている連中に時間を割く訳が無いだろうと一刀両断された。
「ウチら、ただの友達なのになんで周りは誤解するんだろう。男女の友情は成り立つのに」
「理解が及ばない事象については、自分の知っている事柄でラベリングをして安心したいと言うのが世の常なんだろう」
「はた迷惑すぎる〜!それで好きな人に誤解されたらどう責任取ってくれるんだ!」
今までだったら俺となのが付き合ってるなんて噂が流れても、なのに悪い男が近づかないから良いかと思えていたけど。彼女に誤解されてしまう可能性が生まれるとなるとなんとかして噂を払拭せねばなるまい。
「いっその事、丹恒となのが付き合えば万事解決では?」
「断る」
「なんでウチが振られたみたいになってるの!?」
理不尽だ!となのは憤る。俺は解決案を見事に否定されて悲しくなった。いい案だと思ったが、二人の間に恋愛感情がないのは明らかだったので仕方ないかと流した。
「それならもう、クラスメイトに頼んで俺となのは付き合っていないとそれとなく彼女の周りで話して貰うしか……」
「遠回り過ぎない?」
「でも登校して言われる第一声がおはようじゃなくて俺となのは付き合ってない!ただの友達!だったら彼女も驚くじゃん」
「それは脈絡が無さ過ぎて誰でも驚く」
ナポリタンを食べ終え、追加で注文するデザートを何にするかメニュー表を見ながら悩む。ここがファミレスでドリンクバーがあるのなら、穹特製ドリンクバー全混ぜスペシャルを食後のデザートにしても良かったのだが、ここは喫茶店なのでそんなものは無い。本日のタルトで博打を決めるのもアリ!
「ちなみに二人から見て俺と彼女は脈アリ?脈ナシ?」
「どうだろう。でも他の男子よりは仲良いんじゃない?」
「友達である事は本人に否定されなかったぞ!」
「俺は図書委員の時にしか関りが無いからハッキリとしたことは言えないが、嫌われていないのは確かだろう」
「それはもう脈アリじゃん!」
「いや友情であって恋かはわからないでしょ」
悩んだ末、結局チーズケーキを頼むことにした。メニュー表の文字を眺めた時、俺の体はチーズケーキを求めているのだと天啓を得たのだ。別にケーキじゃなくてもピザトーストでもよかったかもしれない。ピザも大きな括りで見ればデザートに分類される。かもしれない。
「あーあ。どうやったら好きになってもらえるんだろ」