「おわ〜」

 パタパタ、パタパタ。うちわを扇いで七輪の火を熾していたら目の前になんか知らない生き物がいた。全体的に薄い水色のような、緑のようなカラーリング。子供くらいの背丈で人の形をしてるけど、角と尻尾が生えているしふわふわ浮いている。異世界ってすごいや。

「今ねぇ、火をつよーくしてるから近づいたら危ないよ」

 パタパタ、パタパタ。たぶん、そろそろ、いい感じ。今日は大漁だったからとおすそ分けしてもらった旬の魚は七輪で焼くに限る。ただ、この家にはグリルも電子レンジも無いから生焼けには気を付けないといけない。そもそも電子レンジって売ってあるの? 謎だ。
 そうして手を動かしていれば不思議生物はふよふよふわふわと浮かびながら興味深そうにこちらを見ているので、人間に好意的な生き物なのかもしれない。

「それではお魚を投入します。刮目せよ」

 ジュッと音がして、ふわりと白い煙が上がる。私の周りでふよふよ浮いている謎生物は途端にぴたりと止まり、いそいそと隣に腰かけた。あ、このこ地に足着けて歩けるタイプのふわふわ生物なんだ。実はドラの猫型ロボットみたいに3ミリ浮いている可能性も無きにしもあらずだけど。

「ふわふわちゃんは魚好き?」

 そう隣にいる謎生物に問いかければ、きらきらの目をまあるく見開いた後に瞬きを繰り返す。まるで「え、自分に話しかけてんスか?」と言わんばかりの表情。もしかしてこのこは人には見えないタイプの妖精的な存在なんだろうか。私は霊感とか全くない人間だけど、異世界に来て能力が開花でもしたんだろうか。それならもっと生活の役に立つような力が欲しい。椅子に乗らなくても棚の上のほこりを掃除できるとか、タイムセールで確実に狙っていた品が買えるとか、そんなやつ。
 当のふわふわちゃん(仮名)はちいさな手を顎に当てて考え込んだ後、こくりと頷いた。もしかしてお喋りできないのかな? でも言葉は通じてるみたいだし話しかけても大丈夫そう、たぶん。せっかくなら異種族間コミュニケーションをしっかり行っていきたい。

「そっか〜。それなら焼きあがったら半分食べる? あ、晩ご飯が入らなくなったらいけないねぇ、どうしよう」

 そうなったら親御さんに申し訳ないなぁと思ったけど、どうにもこの仙舟という場所にはいろんな種族がいるようで、私と同い年くらいの見た目で三百歳だなんてこともザラにある。ただ種族によっては三百歳でも子供の分類で短命種換算だと同年代だったりもして難しい。人を見た目で判断してはいけないと言うのをここでは猶更実感する。
 うーんと悩みながら魚をひっくり返す。いい焼き目だ。じゅうじゅうぱちぱちと鳴る音と、美味しそうな匂いについグゥとお腹が音を立てた。

「まぁでも半分こなら大丈夫かな。夜まで時間あるし実質おやつみたいなものだよねぇ」

 そこまで考えてハッとする。

「ふわふわちゃん家って三時のおやつ食べるタイプ!?」

 その問いかけに謎生物ふわふわちゃんはジト目で「なんやコイツ……」と言わんばかりの顔をした。いやおやつの有無は大事でしょ。今お腹いっぱいになったせいで食べられなかったら悲しいよ。そんな事を伝えれば首を振られた。な、なんだその慈愛に満ちた微笑みは!? ふわふわちゃん年上説が急浮上してきたぞ。

「いや、無いならいいんだよ。それならお皿に取り分けよう」

 予備で多めに持ってきていたお皿とお箸が日の目を浴びるぜ! ということで良い感じに半分にしてふわふわちゃんに差し出す。これはかたじけないと綺麗な礼をして受け取ったふわふわちゃん、なんというか、育ちの良さが随所に滲み出ている。よくよく見れば服もめちゃめちゃ高そう。ヤバい、家にシェフ居るタイプのご家庭の人に手料理差し出しちゃったかも!
 や、やば〜い!と考えながらもお腹が空いていたのでぱくりと口にする。旬の脂の乗った柔らかな身がとてもグッド!美味しい!百点!でもふわふわちゃん的にはどうだろう!?

 おそるおそる様子を伺ってみるが……。ど、どうなんだ!? 食べ方が綺麗だという事しかわからない。魚を食べるのが綺麗な人はモテるので、たぶんふわふわちゃんもモテモテなんだと思う。
 いやそんな事わかってもどうしようもないよ〜!でもこの魚めちゃウマい。おすそ分けしてくれた常連さんありがとう。

 手を合わせてごちそうさまをする。隣のふわふわちゃんも食べ終わったようだ。結局感想は分からずじまいだったけど、不味くはなかったと思う。心なしか表情が明るい気がするし。
 片付けの為に私が立ち上がればふわふわちゃんもお皿を運んでくれようとしていたけど、ふと何かに気づいたみたいに動きが止まってその場にお皿を置く。

「あれ、ふわふわちゃんどうしたの?」
「……」

 難しい顔をして固まった後、ふわりと浮き上がって、そのままふわふわちゃんは私のほっぺに頬擦りをした。なんで!?今度は私が固まる番!?長いしっぽが私の体にキュッと巻き付いて、そのあと名残惜しそうに離れていく。瞬きをすればいつのまにかふわふわちゃんは居なくなっていた。

「異世界コミュニケーション、むずかしい」

◆

「はっぴーじゃむじゃむさいこー!おーどろうよ」

 ふんふんと歌いながら外で鍋をかき混ぜる。今日は傷がついて店頭に並べられない果物をたくさんもらったので保存用のジャムをつくっている最中だ。

「いっつっものえがうぉおおっと!?」

 ふわふわちゃんリターンズ。魚での出会いを経てこうして時折やってくるのだけど、毎回びっくりする。気配が無い、ふわふわちゃんが暗殺者だったら即死んでた。あぶなかった。

「今日はジャムをつくってるんだよ。ふわふわちゃんジャム好き?」

 今回は首を傾げて「さぁ?」という顔をしている。食べたことが無いのか、ただ好きでも嫌いでもないのか、まだ表情から見分けることが出来ない。悔しい……

「ふわふわちゃんジャム食べた事ある?」

 それには首を振った。ジャムを食べたことが……無い!? そういう方針のご家庭かもしれない。これは下手にジャムを食べさせでもしたら「うちの子になんてものを食べさせたの!」と怒られ襲来イベントが発生してしまうかも。でもジャムはおいしい、嫌いじゃないなら食べた方が良い。

「じゃあ出来たら食べてみる?そのままでも美味しいしパンにつけてもおいしい。スコーンとかもいいけど家にそんなおしゃれなものは無いしなぁ。クッキーに乗せても美味しい!あ、ヨーグルトと混ぜても良いよ!」

 そうやってジャムの使い道について話していればまた慈愛の顔をされた。なぜだ。

「あ、そうだ。ふわふわちゃん知ってる? 宣夜通りに新しく出た屋台にすごく気になるのがあってさ。あと金人港のまだ食べた事ないメニュー制覇したいなぁ」
「あまり食べすぎると太るぞ」

 思わず二度見した。え、ふわふわちゃんって喋れるの……?