※人外夢主
「そうだ穹、オマエにはまだ紹介していなかったな。ほれ、隠れてないで出ておいで」
その白いもこもこは我らが車掌の後ろでもじもじとしていた。パムと似た姿をしており、違いと言えパムの場合黒くなってる体毛の部分が薄い茶色なのと、瞳の色が赤色なことくらいだろうか。パムとおそろいのデザインの服はスカートの形状をしているので、もしかしたら女の子かもしれない。
「はじめまして、俺は穹。最近この列車に乗ったんだ。これからよろしくね」
膝を着き、目線を合わせて挨拶をすると、おずおずと顔を出した。相変わらずパムの後ろに隠れているので顔の半分しか見えないが、緊張しているのかロップイヤーのような垂れ耳がぴくりと動いている。心配になり大丈夫なのかという意を込めてパムの方を見ると、鷹揚に頷いて彼女(?)を自分の前へと出した。
その一連の動作に「嘘でしょう!?」と、まるで裏切られたかのように悲壮な顔をした真っ白ウサギ(パムは自分の事をパムだと言っているが、どう見てもウサギである)は瞳を右に左にと彷徨わせたあと、意を決して俺と目を合わせた。
「えっと、はじめまして。この列車で乗務員をしています。お掃除と、お料理が得意です。よろしくおねがいします」
そう言うとすぐさまピャッとパムの後ろへと隠れた。ふるふると震える様に、なんだかとても悪い事をしたような気分になった。
「この子はどうにも人見知りでなぁ。よかったら偶に話しかけてやってくれ」
「俺は良いけど、その子は大丈夫なの?」
「ああ。荒治療も大事じゃからな」
よしよしと白ウサギを慰めている車掌は「穹はとっても良いやつじゃぞ。それに三月ちゃんや丹恒とも仲良しなんじゃ!」と俺についてアピールしている。そうだぞ、俺はとっても良い奴なので怖くない!
「あれ、乗務員さんだ」
そんな風に話していれば、ちょうど探索から帰ってきたなのが俺たちを見て声をかける。手にはショッピングバッグの山があり、沢山買い物をしてきたことが伺えた。着いて行ってたら荷物持ちをさせられて今以上に買い物をしていたことが安易に想像できる。
「なのお帰り。お帰りついでにどうやったら乗務員さんと仲良くなれると思う?」
「ただいま〜。地道に話しかける事かな」
これ車掌さん達にお土産!となのは紙袋の一部を渡した。ぽてぽてとした小さい生き物たちがキラキラした顔で紙袋を囲んでいる様は今すぐにでも写真に収めたくなる癒し空間だ。
「三月ちゃんありがとう!これは何という飲み物じゃ?」
「仙人爽快茶だよ。こっちは獏巻き!美味しいかったから二人にも買ってきたんだ〜」
「三月さん、ありがとう。大事に食べるね」
ほわほわと舞う花が幻視できる。車掌と乗務員が二人並んでいると可愛いの二乗で胸が苦しくなる。これが推しへ向ける気持ち……!?カフカ、俺、推しが出来たよ。脳内のイマジナリーカフカに話しかければ「それは良かったわね」と微笑んでくれた気がした。
「そうだ! この後写真の整理をするから時間があるなら乗務員さんも来る?」
「いいんですか? 三月さんがいいなら、ぜひお邪魔させてください…!」
「ウチが誘ってるんだから良いに決まってるでしょ〜!じゃあこのあとウチの部屋に集合!」
それじゃあ荷物を片付けてくるね、となのは一足先に自室へと戻った。
「えへへ、三月さんに誘ってもらえました」
「よかったなぁ。この後は予定も無いし三月ちゃんの所でゆっくりしてくるといい」
「はい!」
乗務員さんは身振り手振りで喜びを表現した後、俺とパムにぺこりとお辞儀をしてぽてぽてとその場を去った。
「ねえパム、乗務員さんっていつからこの列車に乗ってるの? 俺は今日初めて会ったけどなのや丹恒とは顔見知りなんでしょ?」
「そうじゃなぁ。オレよりは後で、丹恒や三月ちゃんよりは前だったのう」
パムは懐かしい事を思い出すように目を閉じる。
「初めてあの子に会ったとき、それはもう可哀想なくらい震えていてな。自分がどうしてここにいるのか、どんな存在なのかもわかっておらんかったのじゃ」
「あれ、でもパムもいつの間にか列車にいたんでしょ?だけど自分のことは分かってるよね」
「ウム。オレはこの列車の車掌として生まれたからな。でもあの子はそういう大事なことがすっぽり抜け落ちたまま生まれてしまったらしい」
周囲に怯え、波打つように揺れ動く赤い瞳にジッと見つめられたあの日を、今でも昨日のことのように思い出せる。自分が何故ここにいて、誰を信じていいのかもわからずに身動きが取れなかったあの子が、今では自発的に行動できるようになった。
パムはそれが何よりも嬉しかった。この調子で人見知りも克服していろんな人と話せるようになれたらいいと思う。
「あの子はちょっと他より臆病なところがあるが、周囲に気を配れる優しい子じゃ。オマエも仲良くしてやってくれ」
◆
休憩エリアにあるリクライニングチェアに三月は座ると、そのまま乗務員を手招きして自身の膝の上に抱え上げる。もこもこのウサギのような存在なので、傍から見れば大きなぬいぐるみを抱きしめているようだった。
「この前の開拓の旅で撮った写真が溜まっててね〜。あ、これは穹が路面電車に轢かれた時のやつだ」
「路面電車に!? 大丈夫なんですか……?」
「さっき見た通り変わらずにピンピンしてるよ。ナナシビトはタフだからね」
話をしながら写真をまとめる。この時はこんな状況だったとか、あれ? こんな写真撮ってたっけ?というような写真も出てきたり。小一時間程そんな作業を続けていれば、ようやく終わりが見えてくる。
「よし!これで終わり!こっちの写真はフォトウォールに追加しよ」
「三月さんお疲れ様です、こちらお茶とお茶菓子になります」
「わ、ありがと〜!」
作業の最中、終わりが見えてきた頃に抜け出した乗務員は三月を労わるためにお茶の準備をしていた。ちょうど良いタイミングで差し入れに戻ってこれたので乗務員としても一安心だった。
「乗務員さんも一緒に食べようよ!」
「良いんですか? でしたらお言葉に甘えて」
いそいそと三月の隣に座り小さなお茶会の準備を始める小さなウサギを見ていると、なんだか不思議の国に迷い込んでしまったような、そんなメルヘンな空想がなのかの頭に過った。これは先日姫子さんが買ってきてくださったお菓子なんですよ、という解説を聞きながら三月も準備を手伝う。
「三月さんの写真を見ていると、まるでわたしも一緒に旅をしているような気持ちになれてとても楽しかったです」
「ほんと?そう言ってもらえる写真が撮れているなら撮影者冥利に尽きるよ!」
「もちろんです。三月さんのおかげで外のことをたくさん知る事ができて、とてもうれしいのです」
「う〜ん……。せっかくなら車掌さんや乗務員さんとも旅が出来たら良かったのに」
彼らはその存在の成り立ちのせいか、この列車を離れることが出来ない。可能であれば二人にも外の世界を見て欲しいと三月を含めた星穹列車の面々は思っているのだが、未だに解決策は見つかっていない。その事に何とも言えぬ歯がゆさを覚えている。
「わたしは……その、外への憧れはありますけど、それよりも恐怖が勝ってしまって。きっと自由に外に出れたとしても列車で待っていることが多いと思います。でも……」
乗務員の言葉はそこで一度途切れ、ぎゅっと小さな自身の両手を握る。
「パムさんはいつも、寂しそうなんです。本人は隠しているけれど、ふとした時に窓の外を見て、悲し気な顔をしている」
しょんぼりと落ち込んだ乗務員を見て、三月は堪らなくなって抱きしめた。どうして旅の手伝いをしてくれる彼らはこの列車から出れないのだろうか。刺激的な冒険を求めるナナシビトにとって、自由を制限された姿という物は尚のこと酷に映った。
「いつか、パムさんが皆さんと旅が出来る日が来たら。そんな日が訪れることを、わたしは願っています」