財前と遊園地
『ちょ、ちょちょちょ!』
「ちょちょ、うるさいっスわ」
『いや、待て、早まるな、落ち着け!』
「先輩が落ち着いて下さい」
今日の空は、快晴!
最高のお出掛け日和だ!
てことで、四天宝寺テニス部の皆で遊園地に来たのだが、何故かジャンケンで2人組を作ろうぜ、うえい\(^o^)/
みたいな感じのノリで始まったジャンケン大会。
すると、見事に(?)あたし達はペアになったのだ。
……そして、現在………
「いけますって」
『いやっいやいや、どこが大丈夫?!ここ日本一怖いって有名なお化け屋敷やん!』
「いや、先輩違いますよ。どう考えてもこれはメリーゴーランドっすわ」
『絶対違うと思う』
そう、財前君とあたしは今、日本一怖いと言われているお化け屋敷の前にいる。
ちなみにもう並んでて、あたし達の番はもうすぐ、…ってとこで、あたしは財前君に騙されていることに気が付いたのだった。オワタ/(^o^)\
「やっぱこの遊園地に来たら、有名なこれには入らんと」
『だだだだだって、このお化け屋敷めっちゃ長いねんで?!しかもびびび病院!廃墟!あたし、白衣の似合うイケメンがおる病院しか行かんって決めてんねんやんか!』
「じゃあ大丈夫ですわ、きっとこのお化け屋敷の中にも白衣の似合うイケメンがいると思いますよ」
『おるわけないやろが!
血塗れの男しかおらんって!てか財前君あれやろ!あたしの反応見て楽しもうとか思ってるやろ!』
「そんなん思ってませんて」
『嘘やぁぁぁあ、だって珍しく顔が楽しそうなんやもぉぉぉおん!』
あたしをお化け屋敷に誘う財前君は心なしか楽しそうで、本当なら写メを256枚位撮りたいのだがそれどころじゃない。
何としてでも、阻止せねば……!
『ざ、財前君、良いか?あのな、人生には』
「俺、金ちゃんの頬染めて怒ってる
(金太郎ファンが勝手に送ってきた)画像もってますけど」
『財前君、はよ行くで!よ〜し、病院の廃墟へ、レッツラゴー!』
「ほんま先輩変わってますわ」
うん?財前君から何か失礼な単語が聞こえてきたけど気にしない!金ちゃんの画像っ画像っ!
こうして、あたしはまんまと乗せられて、財前君と共に日本一怖いといわれるお化け屋敷へと入ったのだった。
***
『ちょ、ちょ、来るんちゃうん来るんちゃうん来るんちゃうん来るん……ギャァァァァァアアアア!!!』
「先輩うるさいっすわ」
『うおおお!何か来たって何か来たっ!怖ぇぇえええ!うおおおお触んな成仏しろおおおおお!!!』
「先輩呪い殺されてきて下さい」
どうするん、ちょ、やば、思ったとおりやん怖いやんんんんん!!!
中に入る前、財前君と手を繋いで入ったけど、(とゆうかあたしが無理矢理もぎとった)やっぱ怖い何これ病院イケメン白衣おらん!
『ちょ、誰やねん白衣姿のイケメンおるかもしれへんとか言った奴!おらんやん皆血だらけやんけクソが!』
「すいませんそれ言ったん俺ですわ」
いや、知ってるけどな!
とは思っても、口に出してる場合じゃないので、とりあえず黙る。財前君にまた怒られるし。あ、怖い。
あたしがこうやって怖がってるのに対して財前君は、ずっと冷静。
ずるい!あたしもそういう余裕な顔してみたい!とはすこーしだけ思ったが、夢のまた夢なのでやめた。
しかしね!財前君!君少し冷めすぎやしないかね!クールでドライなのは財前君の特徴だよ!でもな、中学二年生のクセに少し可愛げがねえんだよ!そんなんだから皆に、ぜんざい君とか言わ、
「先輩」
『何や!ぜんざい君!』
あたしが心の中で財前君にお説教をしてる途中で、財前君は1度ストップして、隣にいるあたしに声をかけた。
何や何や、何で止まるんや、お腹痛くなったんか!リタイアするか?!
『ま、まぁ、あたし的にはリタイアは嬉しいけど、』
「後ろ、」
『ん?』
財前君に後ろ、と呟かれて思わず振り返った。
すると、
『ギャァァァァァアアアアアアア!!!!!!!』
血だらけの男があたしの真後ろに立っていた。
もちろん、偽物のお化けだということは分かってるんだけど、こんな至近距離で見て、しかも不意打ち。
怖いものは怖いに決まってる。
てゆうか、
『財前君』
「なんですか」
『こ、怖すぎて、動かれへんなった』
あたしが、震えた声で財前君にそう訴えると、ぶはっ、と財前君が吹き出した…って、吹き出した?!
『ざ、財前が吹き出した…!』
こ、これはスーパーレアな光景だ!
お化け屋敷特有の暗闇の中でも、財前君が肩を震わせて笑っているのが分かる。
いやいや、失礼な!
早く助けろよ!
『嘘だろ財前君!今めっちゃ写メ撮りたいけど、今はそれどころじゃない、歩けない!』
あたしがそう、もう一度必死に訴えると、財前君は「分かってますって」と、飛び切りの笑顔で答えた。
その笑顔に少し、ほんの少し胸が高鳴ったような気がした。
「そんな怖いなら仕方ないっすわ」
『え?』
あたしが、聞き返そうとした時にはもう、財前君があたしの手を握り返してお化け屋敷の中を走り抜けた。
いやいや!待て!
さっきあたし、
動かれへんって言ったやん!
なのに走らせるって何この後輩!
サド!鬼畜!
とは思っていても、1人でこの中を歩ける訳がないし、正直走った方がこの長いお化け屋敷を抜けるのは早くなる。
本当はリタイアした方が早いんだろうけど、それはやっぱり、財前君がこのお化け屋敷を入りたがってた(いや、本当にあたしの反応を見たかっただけかもしれない)のを知ってるから、それに関してはあたしは何も言えない。
……もしかして、走ってくれてるのって、財前君の優しさなのか。
財前君の手は、最後まであたしの手を離しはしなかった。
***
『ざ、財前君……』
「なんですか」
あれから、ぶっ通しで走り続けて、やっとこさお化け屋敷が終わった。
そんな距離はなかったのかもしれないけど、途中ちょこちょこ出てくるお化けの所為で、かなり体力を削られた。
よって、
『づ、疲"れた……!!!お化け屋敷に入ってこんなに疲れたの、生まれて初めてやねんけど…!!!』
「それ、こっちの台詞っすわ」
とは言っても、財前君は全然余裕そうで、しれっとしてる。
それは、さっきお化け屋敷に入っている時と同じような態度で。
全然変わらない余裕さが、あたしはずるいと思った。
……けっ、あたしはあのさっきの不意打ち笑顔に不覚にもドキリとしてやったのに、財前君はそんなことないもんな!
そのピアス、ちぎったろ!とか思っても、財前君の珍しく楽しそうな雰囲気(あくまで、雰囲気。)を見てると、そんな気は当然失せた。
『あー、とりあえずもう怖かった。
一生行きたないわ』
「俺は先輩の叫び声が一番怖かったっすわ」
そんな失礼なことを言ってくる財前君にもう慣れました!うん!泣かない!
てゆうか、逆に全く怖がらない財前君が一番怖いと思う。何か、お化け役の人が可哀想になってくるもんね。財前君が歩いてて、お化け役の人が「わっ!」って脅かしても財前君は、( ' - ' )の顔で通りすぎるってことだもんね!それは流石にどついてもイイと思う。
『うん、財前君はきっと人間じゃないねんや』
「先輩の叫び声も中々人間じゃなかったっすわ」
酷い!日頃の仕返しに言ってやろうと思ったらやり返された!金ちゃんか!鬼畜!「でも」
「怖がって泣きそうになってた名前先輩、中々可愛かったっすわ。」
そう、またもや不意打ちの笑顔で言うのは……、やっぱり、財前君ってずるい。
あれ、財前ってこんなキャラだっけ