仁王とダイエット
そう仁王に言われたのは、夏のこと。
いつもの様にマネージャーの仕事をせっせと片付けて、あたしもレギュラー陣と共に落ち着いていたら、いきなりそんなことを言われた。
そ、そりゃね、細くて白い仁王はイイさ!でもね、乙女のあたしは、流石にそこまで率直に言われると傷つくんだよ……!
最近ちょっと気にしてたのに!
『酷いぞ仁王!』
ぷんぷん、と、あたしが大股で幸村のところに行こうかなとしたところで、「まぁまぁ落ち着きんしゃい」落ち着いてられるかっ!
「女の子は少し丸い方が良いぜよ」
『そんな気休めいらないよ!
分かってたもん!最近夏だからって調子のってたもん!』
そうだ、夏だからといってあたしは毎日クーラーの下でアイスをもぐもぐ。だってこのひとときが1番好きなのさ!
あたしだってさ、マネージャーという過酷な役目を毎日必死に果たしているのにさ、何で食べたら食べた分以上を吸収しちゃうかな!
こんなんじゃ彼氏なんて出来るわけがないっ!
『どうしよう、まだまだどんどん太っていって、将来彼氏が出来なかったらどうしよう!どうしよう仁王!』
ああああ、ダメだ、痩せなければ、でも、どうやって痩せればいいんだああああ!!!!
『ほんと、真面目に仁王みたいに細くて白くなりたい!』
「お前さんなぁ……」
あたしが今現在の、最大の願望を大きく発すると、仁王は「はぁ…」と、中学三年生には似つかわしくない色っぽい溜息を吐いた。
ほら、その色気が欲しいよね、あたしも口の下にデッカいホクロ描こうかな。
「名前、俺もたった今傷ついたぜよ。まーくん傷ついたナリ。」
『あの、どこだっけ、不動なんちゃらの部長さんもホクロ付いてるけど、色っぽいのかな………って、は?何で?今の短時間で転けたりしたの?』
そうだとしたら何ということでしょう。
ムービー撮りたかったよ〜。(この時、仁王からの鋭い殺気が名前を襲う!効果はばつぐんだ!)
……仁王の目付きからして、短時間で転けたりした訳ではないらしい。
『……ごほん、で?
何それ傷ついたのってあたしの所為?』
心当たりないなぁ、と、呟きながら考える。あ、もしかして仁王が寝てる間にあたしが仁王のまゆげ抜いたことまだ怒ってるのかしら。
あれに関しては凄い謝りましたけども。
『わっかんなああああい』
「お前さんなぁ、男心というものを分かっとらんの。男ならば、細くて白い、何て言われても嬉しくないナリ。」
これでも気にしてるナリ。
なんて、悲しそうに言われると、……いや、ごめん、何か。
仁王、気にしてたのね。
何か、落ち込んでる珍しい仁王を見ていて、物凄い罪悪感があたしを襲った。これは謝罪すべきじゃなかろうか。
『……ごめんね、仁王。
そんな気にしてたなんて思ってなかったんだ。』
「別に許してやるぜよ。
その代わり名前、気合い入れて痩せるべきじゃな。」
………おおおのののれれれええええ!!!!!
キエエエエエエ!!!!!!
『ふっざっけっんっなっあああ!!!何だったんだよお前の今の落ち込み加減!さっきのも詐欺か、詐欺師だったのかああああ!!!
演技うますぎるだろうが怒り通り越して尊敬するわ!』
「まさか、お前さんにそこまで褒めてもらえるとは、思っても」
『褒めてねぇぇぇ!!!!』
もういい、もういいもん!
こうなったら絶っっっ対に痩せてやる!仁王見返してやる!25kg位になってやる!「お前さんそれは痩せずぎ、」『うっさい!』
あたし身長167cmあるけど絶対25kgになる!やればできる!
『そうと決まれば、運動だ!ほれっ、仁王も行くよ!グラウンド50周だ!』
「お前さんは幸村か」
とはいいつつ、ちゃんと一緒に来てくれる仁王。なんだかんだ付き合ってくれるんだよね、仁王って。
『ありがとよっ仁王!』
にっへら〜とあたしが満面の笑みで仁王の背中をバシッと叩くと、仁王がよろけた。あ、ごめん。
「……まぁ、アレぜよ、」
『ん?』
あたしのスピードに合わせて走ってくれている、仁王が不意に口を開いた。
「もし名前に彼氏が出来んかったら、俺がちゃんともらってやるぜよ。」
ーーーーだから安心しんしゃい。
そういって仁王はあたしの髪をそっと撫でた。